エピローグ 帰郷、そして旅立ち ~ただいま!~
ピエリーナの故郷、アルケモート。
アルスたちと空たちは防壁の西門をくぐったところで分かれ、町の各地を見て回りながらピエリーナの実家、株式会社アーラ・ビアンコまで帰ってきた。
「お父さん、お母さん! ピエリーナ、唯今戻ったのです!」
元気よくドアを開け放つと、そこには元気にカウンターに立つ両親ジャコモとカテリーナと顔なじみの常連客がいた。客のほとんどがバレエダンサーや舞台の小道具担当者たちであるが、手芸の素材などを買い求める主婦もいる。
「おお、ピエラ! よく帰った! 何だか少したくましくなったようだね!」
「ピエラ! あんたってば本っっっっっ当に心配かけてくれちゃって! ああもう!」
帰宅早々説教をかますカテリーナだが、カウンターに手をついて膝から崩れ落ちるのをこらえながら目に涙を浮かべていた。
「はい、ご心配をおかけしたのです!」
悪びれるどころか笑顔で元気よく言い放つピエリーナに、もう誰も何も言う気になれない。ただただ無事の帰郷を、常連客達が「お帰り小英雄、元気だったか?」と祝うばかりだ。
そんなカテリーナたちに、空は言った。
「ライノック陛下より、ピエリーナは両親を安心させるために時たま帰郷するよう命じられました。ピエリーナが旅をやめるまで、わたしたちはピエリーナとともに旅をし、またここに帰ってくることをお約束します。それともうひとつ。わたしたちは男爵位を叙爵し、このアルケモートよりほど近い湖水地方を四人でひとつの領地として頂けることとなりました。ピエリーナの立場はさらに強固なものとなり、ピエリーナ自身は無論、あなた方に敵意を向ける者もいなくなるでしょう」
「はい……? うちの娘が、男爵……?」
唖然となる店内の人々だが、ピエリーナは「ふん!」とふんぞり返っておどける。
「おいおいおい……。国王陛下も一体何を考えていらっしゃるんだ。カリオストロ協会から我々を守ってくださるためと王家の紋章を送って下さり、次は爵位及び領地と来て、今度は何を賜るつもりだピエラは!?」
そう呆れ果てるジャコモに、アレットが言う。
「陛下はそれだけ自分らのしたことが大きいと言うことをお示しくださり、今後も期待してくださっていると言うことッス。お二方には、ピエリーナの活躍を親として誇ってもらいたいッス」
「そう、だな……。僕たちが誇らないで誰が誇ると言うんだ。そうか、僕らの大事な娘が、ピエラがなあ」
ジャコモはカウンターから出て、ピエリーナの前に片膝をつく。その目は、心成しかうるんでいた。
「そうか。ピエラ、お前は一国の王に認められるだけの大きなことをしたんだな。父として誇らしいよ、僕は。だからもう何も言わない。ただ自分の信じる旅を続けなさい。そして、たまに帰ってきて羽を伸ばすといい」
「はいなのです、お父さん!」
そして店の客たちも、「よっ、小さな領主さま!」「もうピエラちゃんなんて呼べないわねえ」などピエリーナの活躍と叙爵を喜び、祝いの言葉を贈る。玉座の間とはまた違った祝われ方に戸惑うピエリーナだが、全身もみくしゃにされ困惑しながらも、とてもうれしそうだ。
すると、アーラ・ビアンコのドアを思い切り開ける者がいた。
「話は聞かせてもらったわ!」
「えっ!? ロッソなのです!?」
その人物こそ、ロッソこそ町長の孫娘リッコ・ロッセリーニであった。
「ピエリーナ。あなた貴族になったって本当なの?」
「じっ、事実なのです……」
ピエリーナは左腕の袖をめくった。そこには確かにDランク冒険者を示す腕輪とピエリーナだけの金の紋章の腕輪が輝く。ピエリーナ・マルゲリータ男爵の紋章は、銃口が上下を向く二挺の拳銃の向こうにヒナギクの花と王家の盾の意匠を合わせたものである。
「そう……。まさかバレエの舞台から降りて二挺拳銃の武芸に鞍替えした程度で爵位がもらえるなんてね。どんなトリックを使って国王陛下をたぶらかしたのかしら」
「それはもちろん、悪いやつを倒せば認めてもらえるだけの話なのです」
当然ピエリーナは人をたぶらかすような器ではないし、叙爵できたのも「だけの話」レベルではない。ピエリーナのひたむきさを知っているからこその皮肉と嫌味であり、それを理解されているからこそのふんぞり返りである。
譲らない両者だが、ふぅ、とひとつ息をついてピエリーナがロッソに言う。
「ロッソ。あなたは私からバレエ教室白鳥の舞いの『センターを勝ち取った』のです。だから託します。他人と競い合った上で勝ち取ったポジションは、それだけ責任が重いということをご承知おき頂きたいのです。そして私も勝ち取りました。そう簡単には得られない地位を、男爵としての地位を」
「何が言いたいのよ」
「『大いなる力には大いなる責任が伴う』、と言うことなのです。ロッソはセンターとしての責任を、私は武人としての責任を、互いに全うしなければならないと言うことなのです」
そしてピエリーナは、右手で拳銃を抜き銃身をつかんでグリップの先をロッソに向けた。
その意図を理解したのだろう、ロッソも華麗なるステップで一回転したのちピエリーナの拳銃を軽く蹴り上げた。
「ええ。あたしはなるわ、『絶対たる者』に!」
アッソルータ。
正式呼称を『プリマ・バレリーナ・アッソルータ』。バレリーナの最高位とされる地位であり、その称号を賜ることはバレリーナとして無上の名誉である。
ロッソの覚悟を受け取ったピエリーナは拳銃をホルスターに収め、強気に笑った。
「それなら、負けた甲斐もあると言うものなのです」
「負けた甲斐って、何よそれ?」
「負けた者にしか分からない『悲しみからの再起』と言うことなのです。私たちは旅を続けるのです。責任のもとに、自由のもとに!」
ピエリーナの思うところはこうだ。
『自由と勝手は違う。自由とは自分の正しいと思う信念のもとに行動し、その行動には責任が付きまとい、斯くなる上はその責任のもとに突き進むと言うこと。勝手とは後先考えず他者に迷惑をかけることさえ顧みず責任を放棄した状態で好き放題を働くと言うこと』。
ピエリーナは自由を選んだ。それは、覚悟が必要な決意である。
「そう。だったらあたしも、夢を追いかけるだけよ」
「はいなのです。……それでは皆さん! 私たちはこれから町を見て回るのです。それでは!」
ピエリーナは両親と来客に挨拶して元気よく店を出てゆき、空たちもピエリーナに続く。そんな彼女たちの背中を見送り、バレエ関係者の青年が言う。
「ピエリーナちゃん、本当にたくましくなって帰って来たなあ。国王に認められたことだけじゃない、人間的に大きくなって帰ってきた、そんな気がするよ」
そうだなと客たちが頷き、ジャコモもふっと笑う。
「はい。旅先の皆様のおかげで、娘は成長して帰ってくることができたのでしょう。名も顔も知らぬ恩人たちに、感謝の念は尽きません。……それではただ今この瞬間より、我が娘、そして我が町の英雄たちの帰還を記念し、五十パーセントオフの『英雄帰還大感謝セール』を開始します!」
車に乗り込む。
「で、次はどこに行くッスか?」
「はい、お昼ごはんがまだなので、がっつり食べられるところがいいです!」
「では、拙者らがピエリーナと出会ったクラヴィアの経営状況を見つつ、営業していればそこで昼食といたそう」
「いいッスね! そこで拝領した湖水地方をどんな風に開拓していきたいかを論じるってのもありかもッス」
「どんな風に……。そうなのです。そう思うとこれからが楽しみで、それに楽しくて今から胸が躍るのです!」
そして車は走り出す。
四人の旅人と、彼女たちの夢を乗せて。
八拳演義 - A Saga of the Sky-Color Warrior Girl 巡礼の物語
THE END.




