第十二章 王都攻/抗/交/鋼(こう)戦 ~わたしたち、武功をたたえられて貴族になってしまいました!?~
翌日。
玉座の間。
ライノックを筆頭とした王族たち、大臣たち、騎士団員、王国議会議長サティルス以下各庁長官ら出席のもと、空、アレット、ひまり、ピエリーナ、アルス、ゴールドメイル、フリューゲル、ジョンの褒章授与式が執り行われた。
「一同、面を上げよ。先日の南門襲撃事件において、その首謀者であるカリオストロ協会関係者、兵力であるホムンクルスの製造に関わった者たちの拘束に、この者らは大いに貢献してくれた。よって、呉空、アレット・ドイル、河上ひまり、ピエリーナ・マルゲリータ、アルス・ライトアームズ、ゴールドメイル、フリューゲル、ジョン・ナカハマ、以上八名をここに褒賞する!」
褒章内容は、八人全員それぞれに百万ガルずつ、全員の冒険者ランクの一ランク上昇、貴族としての階級無き者に『男爵』の貴族階級の授与、伯爵であるライトアームズ家は侯爵に昇格した(これを『陞爵』と言う)。空たちは四人でひとつの領地を与えられ、あとは仲良く分配すればよかろうと言い渡された。
「まさか自分が地主になるとは思わなかったッス」
「今はまだ旅を続けとうござるが、旅に疲れたあとのセカンドライフ、スローライフの地として時たま開拓しに来るのもよいでござろう」
「別荘地にしてお父さんとお母さんを呼ぶのもいいと思うのです!」
だが、空はいまいち貴族としての地位にピンとこない。
「ところで、貴族とは一体どのようなものなのですか?」
それには、アルスが答えた。
「国王に代わり、拝領した土地を治めることができるんだ。自分が国の一部を思うがままに開拓・発展させてゆく、そこに暮らす者を導いてゆく、そんな誇りある仕事を任せてもらえると言うことだよ。新人貴族は最初は何も開拓されていない土地を任されることが多いが、だからこそ最初から思い通りにできるし、自然が豊かな地方であれば、そこに満ち溢れる自然やそこ暮らす動物たちを保護しつつ農家のような活動をしてもいいだろう。その分責任も重くなるし、割合で税も納めなければならなくなるけどね」
「そうなのですね。では皆さんも領地を持っていると言うことでしょうか?」
「ライトアームズ家は王都より北東の位置に多少の領土を持っているけど、領地が邸宅のみと言う貴族もいる。そう言う貴族はたいてい商人であったり王国議会の議員だったり、そういう人が多いだろうね。領土だけが貴族ではない。貴族はそれだけ国を運営するための重責を担っていると言うことでもあるんだ」
その先を、ライノックが引き継いだ。
「すなわちそれだけ、有力有能な人材を迎え入れたい、国を任せたいと言うことだ。そして感謝の気持ちとしてぜひ受け取ってもらいたいとも思っている。ライトアームズが言うように自由に開拓するもよし、河上が言うように農地またはスローライフの地として使うもよし。好きに開拓してくれて構わない」
「分かりました。ではこの呉空、改めてライノック陛下の恩寵を、ありがたく頂戴いたしたく存じます」
最後にライノックからの感謝の言葉を受け取り、以上を以って褒章授与式とした。
城門前。
二台の蒸気駆動車が並び、空たちとアルスたちが並ぶ。
槍にブレードガードをしたゴールドメイルが言う。
「おぅ、呉空。いつぞやは決闘で大負けしたが、今回は肩を並べて戦えたことを誇りに思うぜ」
「こちらこそ光栄です。また戦いましょう。決闘ではなく共闘と言う形で」
ピエリーナとフリューゲルは「どこどこのスイーツがおいしい」という話で盛り上がるが、ジョンは奥手なのかひまりを前にして言葉を発さず、ただ握手を求めるだけであった。ひまりもそんな彼の初心なところを察したのだろう、静かに握手のみを返した。
アルスがアレットに尋ねる。
「これからどこへ? 拝領した領土でも見に行くか?」
「そうするッス。でもまずはピエリーナの里帰りを果たして、その後に領土がどんな所かを見てみたいッスね。どう開拓するかは、四人で話し合って決めるッス」
「ではアルケモートまでは一緒だな。それならそろそろ出発しよう。何日もアルケモートを放ったらかしにしておくわけにはいかない」
エンジンに熱は充分行き渡った。ギアを入れればすぐにでも出発できる。
空たち八人は見送りに来た兵士や王国議会議員たちに大きく手を振って別れを告げ、迷うことなく車に乗り込んでゆくのだが、アルスに空が言う。
「すみません。まずは王都の冒険者ギルドまで寄り道してもよろしいでしょうか。わたし宛に荷物が届いているはずですので」
「分かった。ついでにアルケモート方面までの荷運びクエストでもあれば全員で受注しよう」
女の子の荷物は詮索するべきではない。アルスたちは気にした様子もなく軽く請け負うが、アレットたちは「延び延びになったがやはり忘れていなかったか」と半ば呆れ気味に笑う。そして、アルス、続いてアレットがペダルを踏み、二台の蒸気駆動車は音痴な鼻歌を響かせて走り出す。
王城、バルコニー。
ライノックは小さくなってゆく車の影を見つめてつぶやく。
「領土を貴君らに贈ったのはそれだけではない。貴君らには生きて帰ってきてもらいたいと願うからだ。生きて帰るべき自分たちの居場所をこしらえてもらいたいからだ。戦いばかりが人生ではない。人は皆、幸せにならねば生きる意味がないのだからな。そうだろう?」
ライノックは振り向く。
そこには誰もいない。だがライノックの目には確かに、ある人物が見えている。
「我が友、『レヴィ・フライハイト』よ」
パダーノ共和国。
『カリオストロ協会庁舎/カリオストロ錬金術研究所』。
フランソワ・バルサモ=カリオストロ二世は、震えるため息をついていた。
「自我薄弱であるがゆえに純粋な戦力たりえるホムンクルス、その拠点がまたしても奴らに潰されたか。どこまでも忌々しい。組織として損こそしていないが見込めた利益もパーだ。いや、吾輩の時間だけが損をした。この埋め合わせ、どうしてくれようか。なあ、レアガルド王国議会保安庁諮問探偵、アレット・ドイル?」
冒険者ギルド、王都カウンター。
「これです、これなんですよ! やはり届いていましたか、海軍のセーラー服!」
空がクリスとの決闘に際する賭けで要求したセーラー服が届いていた。それも黒い冬服(正装)と白い夏服(略装)の二種類が届けられており、略装のボトムについては白いロングパンツとそれをベースとした『リメイクスカート』の二着が用意されていた。履物も陸ではなく船上用のブーツが二足、それも新品を用意されていた。
冒険者ギルドが姿見を用意し、空は略装とパンツスカートのスタイルでセーラー服を楽しむ。今まで見せたことのない『女の子としての表情』を見せる空に、アレットたち旅の仲間は「空はこんな表情もできるのか」と終始圧倒されていた。
そんな空に、アルスが言う。
「うん、よく似合っていると思う。陸軍兵士として鍛えられた振る舞いもあるのだろうけれど、そのセーラー服そのものが空の魅力を引き立てている。凛々しさと可愛らしさが両立している、今の空はかつてないほど魅力的だ。この言葉が安っぽくなるほど、それは筆舌に尽くしがたい!」
「そこまで、ですか……? アルスさんにそう言っていただけるのは光栄です。やはりクリス少佐の言うとおり、セーラー服は女子の憧れですよね!」
「分からなくもない、いや分かりみしかない。きみは輝いている、きみは自分を誇るといい! あぁ~……、今、僕は絶対に変なことを口走っている自覚がある」
「確かにいつものアルスさんらしくはないですけど、わたしを褒めたい感情はあふれて伝わってきます。ありがとうございます、アルスさん!」
甘い空間がそこにあった。
いい加減に口から砂糖でも吐いてしまいたいアレットたちやゴールドメイルたちだが、ピエリーナが言う。
「あんなに乙女な空さんは見たことが無いのです。それに空さんに超絶デレデレの勇者さんも。いっそくっついてしまえ、なのです」
「隊長……。俺、その恋が成就するよう応援しますぜ」
その後、アルスの提案でワッペンが剥された跡が目立つ両肩には国王陛下より賜った呉男爵家の紋章のワッペンを貼り、世界において唯一無二の空だけのセーラー服が完成した。そのワッペン入りセーラー服を纏い爪先を軸に回ってなびかせる空の姿に、空自身は無論この上ないほど上機嫌に笑い、アルスもつたない語彙力の限りを尽くして空を褒めた。仲間たちが砂糖を吐き続けたのは、言うまでもない。




