第十二章 王都攻/抗/交/鋼(こう)戦 ~心を凍らせなければ、戦えません。~
防壁回廊から南門前へ到着。
相変わらずホムンクルスたちは農具や調理器具を手に笑顔で暴れまわっている。そして空たちを見つけるなり、「遊んで!」と言いたげに襲い掛かってきた。
「あなたたちもつらいでしょう。いえ、そう気付くこともないかもしれません。だから終わらせてあげます。八極拳、『空手奪刀』、『頂心肘』!」
空はホムンクルスの一体が持っていたロングソード(大魚解体包丁)を奪い、それを逆手に構えて剣先をホムンクルスの頭に突き刺す。殺傷力の高い武器を手に確実な一撃で仕留めることで、スタミナの消費を減らすことができる。
「自分、ゾンビとかそういう系の演劇って大嫌いなんッスよね! その舞台が本物になった気分で心底不気味ッス!」
「私もなのです! だから絶対にバレエ教室のホラー好きの友達と一緒に演劇は見に行かなかったのですぅ~!」
アレットは拳銃に装填している銃弾をすべてアークルバレットに換装し、アークルの限りホムンクルスを撃ち抜いてゆく。ピエリーナの二挺拳銃に装填されたアークルバレットには『アークル対消滅式』と言う魔術が書き込まれており、ピエリーナが放つアークルの弾丸と相殺される形でアークルを動力源とするもの(例えば魔導機器や小型ゴーレム)を停止に追いやれる。ホムンクルスにも効果があるようだ。
「ヤマトの子は魑魅魍魎の類の恐ろしさを幼少の頃より聞かされて育つものでござるが、これはそれ以上に不気味で恐ろしきものにござる。人の手で作り出された人のまがい物、破壊と殺戮を無邪気に楽しむ、言いたくはないが化け物でござるよ!」
ひまりも洗練された剣術でホムンクルスたちを葬ってゆく。一撃一体倒してゆくよりも、流れるような太刀筋は一線で多くのホムンクルスたちを滅することができる。
そして空たちに倒されたホムンクルスたちは、痛みを感じないのか「今何かされた?」という表情で、赤い液体となって崩壊してゆく。まるで血の池地獄のような場所と化したそこには、魔術にも使われる『魔導クリスタルコア』と言うホムンクルスの形象維持に必要なもの、つまりホムンクルスの心臓が転がっていた。
「……もう」
空は、剣をきつく握り震えた。
「空?」
「もう、心を麻痺させなければ、この先戦えません」
そして、空の動きが変わった。
それまで襲い掛かってくるホムンクルスを返り討ちにする形でホムンクルスを倒していた空だが、向かってくるホムンクルスの懐に自ら潜り込み、容赦ない斬撃を以ってホムンクルスたちを『破壊してゆく』。そして空の目は何の感情も宿さず、ただただ機械的にホムンクルスを破壊することに終始する。
そんな空を見て、ピエリーナは目を伏せる。
「そうなのです。これだからホムンクルスは」
そして次第に、空たちの足元は真っ赤に染まり、それこそ血の池の中で戦っているようなありさまとなる。血の池を踏み荒らす四人は崩壊したホムンクルスの体液で染まり、全身真っ赤に染まってゆく。
武器を持つ手がぬめる。引き金が満足に引けない。それでも。
「まだ、来ますか?」
かわいそうな命を終わらせるために。
「……そうですか。では」
空は、骨切り包丁を掲げて無邪気な笑顔で襲い掛かってくる女性型ホムンクルスの首をはねた。
ゴーレム戦の戦場。
甲冑ゴーレムは洗練された戦い方で進攻ゴーレムに反撃してゆくが、敵機の装甲が厚いため剣では歯が立たない。かと言ってコックピットを狙えばパイロットに危害を加えてしまう。だがそんな騎士の配慮もお構いなしに、ホムンクルスは楽しそうにゴーレムを操り破壊と進攻を楽しむ。
「何なのだ、こいつらは。人間と言うより獣をを相手にしている気分だ」
甲冑ゴーレム隊長機のパイロットである厳顔の男性騎士は、戦況を冷静に分析。そして市街地に誰もいないことを確認すると、続く二名の騎士に信号で命令を出した。
「敵機の両腕を切り落とせ。まずは攻撃手段を封じよ!」
甲冑ゴーレムは了解を示す信号を返し、三機の甲冑ゴーレムは進攻ゴーレムの腕を右腕のブレードで切り落とす。重量のある進攻ゴーレムの腕は無事な街灯や店や民家などを潰してしまうが、それよりもこれ以上の進攻を許してはいけない。
「次、背後に回り引き倒せ!」
甲冑ゴーレムは素早い動きで敵機の背後に回る。敵機のパイロットであるホムンクルスはそれまで振り回していた腕が消え去ったこと、相手にしていたゴーレムが急に視界から消えたことで混乱している様子。甲冑ゴーレムが進攻ゴーレムを後方に引きずり倒してからは全てが早かった。
「敵機の履帯と動力源を破壊、動きを封じろ! 敵機停止後、パイロットを引きずり出せ!」
隊長の指示で三機の甲冑ゴーレムは進攻ゴーレムの履帯とコアを右腕ブレードで破壊し、中のゴーレムがレバーを動かしても全く動かなくなったところで騎士たちは三機のゴーレムのコックピットのハッチを斧で壊してこじ開けた。
「王立騎士団だ! おとなしくしろ!」
だが、パイロットたちはなおレバーを操作し手横倒しになったゴーレムをなお動かそうとする。騎士たちの突入でようやくゴーレムが動かないことを知ってか、かんしゃくを起こした子供のように言葉にならない声を上げて四肢を振り回しだした。
「こいつら、一体何なのだ……?」
そこにアレットが駆け付け、騎士団の隊長に言った。
「そいつはホムンクルスッス! 早く楽にしてやってほしいッス!」
「ホムンクルスだと? この角の無いエヴィルのような奴がか?」
「いいから!」
アレットの言葉を受け、隊長は腰から純白の装甲が施された拳銃を抜いてホムンクルスの胸を撃つ。すると、ホムンクルスは「お?」と自分の胸を見やるとそのまま形象崩壊を起こし、コックピットは血のように真っ赤な液体で染め上げられた。
「これは、どういうことだ……!?」
ゴーレムのパイロットが人間ではなくホムンクルスだった。銃弾が胸をうがった瞬間に液体となって消滅した。なぜこのようなことが起こるのか。
それは、ピエリーナが説明した。
「ホムンクルスを形作っているもの、それは間に合わせの組織を用意しただけの、ほとんどが培養液だからなのです」
「培養液だと?」
「はいなのです。ホムンクルスは人の姿を形成するために人の血液や肉体の一部を必要とするのですが、その骨や肉としての素材が多ければ多いほどより人間に近い肉体を得ることができるのです。一撃与えられただけで崩壊するのは、肉体情報の材料として血液程度しか与えられなかったこと、短期間で大人の体にするために大量の有機材料と培養液と成長のためのアークルを費やして完成させたことが考えられるのです。当然のことながら知能も心も育たず、やることなすこと衝動のままに動く幼児そのもの。そして今回の襲撃に際してこう教え込まれていたのでしょう。ホムンクルスは仲間であり、傷つけ合ってはいけないよ。その代わりに町も人も何もかも壊すことは楽しいことなんだ。王様のいる立派なお城を壊せばご褒美がもらえるよ。だからゴーレムに乗ってたくさんいろんなものを壊そうね。……って」
そしてピエリーナは動かなくなったゴーレムのコックピットから流れ落ちる赤い液体に目をやり、やるせなげな表情で言う。
「錬金術を身に修める者として、その禁忌を知っておくための勉強もたくさんしてきたのです。知識の上でしかなかった、錬成そのものが禁忌そして違法のホムンクルス。まさか実際に鉢合わせて、しかも自分の手を汚して壊すのが、こんなにも背中が震えるものだなんて思ってもみなかったのです」
「ガンマンのお嬢ちゃん……」
「作られたものとは言え生きているのです。壊さなきゃいけないとは言え確かな命なのです。駆逐すべき害とは言え彼らに罪はないのです。その多くの矛盾を、それに手を下さなければいけない残酷さを、死への恐怖と生きることへの希望も知らず消滅してゆく悲しみを、ホムンクルスと言う存在は抱えているのです。それが私たちに向けられた時、冷静な判断を下せるわけがないのです。ホムンクルスの錬成は、命の冒涜って枠にとらわれない、人の心さえも踏みにじる行いなのです!」
そこに。
「その通りだな、お嬢ちゃん。確かマルゲリータだったかな」
聞き覚えのある声がした。
その人物は、かつてアルケモートで出会っていた好青年、勇者アルス・ライトアームズ。背後には三人の仲間たちがおり、アルスはひとりの男を縄で縛って地面に放り投げていた。
「勇者さんなのです!?」
「ああ。アルケモートの現状に関する定期報告のために帰ってきていたんだが、ちょうど帰り道に怪しい一団を見つけてな。こいつはそのひとりだ。ちなみに見つけたのは彼女だ」
エルフのフリューゲルはアークルを感知する魔法の目を持っており、索敵や夜間の移動も可能とする。
「そうだったのですね。それで、この人は誰なのです?」
「それがな。今回の事件の首謀者、その末端だそうだ」




