第十二章 王都攻/抗/交/鋼(こう)戦 ~ホムンクルス、大量侵攻なのです!~
そして空たちは、可能な限り避難が遅れた者たちの捜索に向かう。そして見つけ出せたのはアルルスのほか、足腰の弱い老人がひとりだけであった。六人を乗せた車はゴーレムの進行方向から外れた診療所に向かい、要救助者をそこで下ろした。
「お医者さん、彼らをお願いします」
「任された。しかしあれは一体何なんだ?」
「ゴーレムですが不明な点も多くあります。ゴーレムの進路がこちらに変わったら避難してください。それでは」
そして空たちは再度車で夜の王都を駆け抜ける。
「空! この先どうするッスか!?」
「現在、騎士団の皆さんが戦闘準備を整えてくれています。我々にできることは状況の把握と分析、その報告です。あるいは人間の指揮者がいたら、それを叩きます」
「了解ッス! まずは戦場を見下ろせる場所まで!」
車の向かう先は、王都防壁南門の西側。車両専用通路で駆け上がって城壁上部の回廊で見下ろせば、南門から王城へ向かうメインストリートは酷く荒らされていた。
「ゴーレムの数、三機。いずれも株式会社パワード製ゴーレム。ガラス張りのコックピットに人影を確認。服装は黒。性別や人相、特定不可。甲冑ゴーレムとの衝突を確認。行動パターンは……、どういうことでしょう」
「空? どういうこととはそれこそどういうことッスか?」
「はい。侵攻ゴーレムは甲冑ゴーレムを敵とは認識していないのか、乱暴に振り払ってただ直進するのみ。周囲の街灯や建造物や屋台などをアタッチメントの切り替えで破壊しながら北上。まるで機体性能を試しているかのように」
「性能試験。奴らの目的はそれッスか、つまり相手は倒産したパワードのゴーレムをいくつも所有しており、あれらの機体はそのフィールドテストに駆り出されたってことッスか。カリオストロによる強制侵攻命令だとしたら、パイロットにとってもいい迷惑ッスね。加害者であり被害者なんて」
「しかし、本当にそれで終わりでござろうか」
そう疑問を口にするひまりに、一同は尋ねる。
「ひまりさん、どういうことなのです?」
「性能試験にしてはその挙動が雑過ぎるのでござる。まるで小さな子供が新しいおもちゃを与えられてはしゃぐように、その行動は幼稚そのもの。パイロットは操縦訓練を受けた兵士や有免状者ではなく、操縦方法が分かっているだけの子供なのでないでござろうか」
「もしパイロットが未成年であれば、うかつに破壊することもできませんね。この事実をどう騎士たちに伝えるべきでしょうか」
「それも気になるのですけれど、そもそもゴーレムは一体どこから現れたのです? 門番さんの誰もゴーレムの進攻に気付かなかったなんてことないはずなのです」
「相手が兵器ではなく建設機械であれば警戒も薄くなると言う心理を突いた作戦なのかもしれませんね」
そして、アレットはあることに気付いた。
「あのゴーレムのパイロット……、まさかとは思うんッスが」
アレットは、ひとつの仮説を立てる。
「ゴーレムのパイロットは、レッドフォートで第七代伯爵が研究していたホムンクルスではないッスか!?」
ホムンクルス。
人に似せて作られる、人型人造生命体。
意志薄弱で主人に忠実、そしてゴーレム以上に器用な動きが可能な存在であれば、複雑な判断をしながら成熟した人間らしい動きをしない説明もある程度できるのだが。
「ゴーレムの兵器転用にホムンクルスの製造、王都侵攻への悪用! 敵さんは誰なのです!? やっぱりカリオストロ協会なのです!? だとしても違っても、錬金術をこんな風に使うなんて絶対に許せないのです!」
それは、錬金術師でもあるピエリーナの怒りを誘発するには充分な理由となる。
「その可能性は否めぬでござるが、はてさて、騎士団はあれをどう止めるつもりでござろうか」
「とにかく、一度陛下に報告するッス。さしあたり近くの騎士団詰め所で魔導通信機を借りられれば」
だが、空がそれを遮った。
「まだです!」
空が崩壊した南門の上から地上を見下ろせば、ゴーレムが通った後を多くの人が武器を掲げて侵攻している。いや、それは人ではなく。
「ピエリーナ、聞きます。もしかして、あれが」
「ほっ! ホムンクルスの軍団なのです!?」
ホムンクルスはどれも成人の男女、外見はエヴィルに近いがエヴィルが角も尾もウロコも失ったような姿をしている。頑丈そうな革のブーツに麻布の簡素な服装、武器としてスキやクワなどの農具、包丁やアイスピックと言った誰でも扱える調理器具などを与えられている。そして彼らは、南門の成れ果てである瓦礫や薙ぎ倒された街灯、ゴーレムに踏みつぶされた屋台などを、笑いながら武器で破壊して回っている。しかもゴーレム侵攻時は営業中であっただろう屋台の残骸から串焼きや果物などを拾っては無作法にむさぼり、串や種を吐き捨ててまた町を壊してゆく。
「やはり、でしたか。話に聞くばかりでしたが、あれがホムンクルス、ですか……!」
「マジッスか……? ホラーもの演劇の上演中じゃないッスよね……?」
「物の怪や妖であった方がどれだけマシでござろうか」
「でも今は、いびつに生み出された魂を眠らせてあげるのが先なのです!」
「はい。参りましょう!」
車でホムンクルスの群れに向かう中、ピエリーナは空たちに説明した。
「ホムンクルスは人に似せて作られただけの人ではない人造生命体なのです。人と違って急激に成長させられたため精神が体に追い付かず、知能は子供並み、食欲や睡眠欲と子供じみた破壊衝動にのみ忠実、心が育つ前に『形象崩壊』を起こし、一年育つホムンクルスはないとされ、少なくとも私はそんな資料を読んだことがないのです。だから、一思いに……!」
その先は言葉にできなかった。それは、作られた命、はかない命だとしても、罪もない人の命を奪うことになるのだから。
言葉が続かないピエリーナに、空が返す。
「分かりました。戦場に赴く以上、覚悟を決めなければなりません」




