第十二章 王都攻/抗/交/鋼(こう)戦 ~ゴーレム侵攻!? それでも、わたしたちにできることをするまでです!~
王都南側の防壁のあたりで、黒煙が上がっている。
アレットがバッグの中から小型望遠鏡を取り出してみてみれば、その先にはとんでもないものがあった。
「戦闘用ゴーレム! 違う。既存の建設用ゴーレムを無理やりそれに改造したんッス!」
「そんな。ゴーレムの兵器化は条約で禁止されたはずではないのですか?」
「もしそれがクソ悪党ならそんなのいちいち聞いちゃくれないもんッスよ。陛下! あいつを止める手段はあるッスか!?」
望遠鏡を縮めてアレットはライノックに尋ねる。
「ある。こちらも『国認戦闘用ゴーレム』を出す。伝令! 都民を避難させ、『王立騎士団』の戦闘用ゴーレムの封を解け! 周辺州にも軍と保安官の出撃を要請せよ!」
赤い装束の騎士は敬礼し、執務室を去る。
そんなライノックに、ピエリーナが尋ねた。
「陛下。軍と騎士団はどう違うのです?」
「そうだな。かつてはこの国の主たる戦力は騎士団であった。しかしエイゼル大陸にある各国の『軍制』が国交を通じて統一されてゆき、今では多くの国が『将・佐・尉・曹・兵』の階級で成り立つようになっていったのだが、我が国では王家を警護する組織、また王都を防衛する組織に長い歴史を持つ騎士団を配備している。いずれも指揮系統のトップはこの吾輩で、吾輩に指揮が執れぬ場合は王国議会議長に委ねられることになっておる。その際の指揮委任に関する伝達方法は極秘としておるがな」
「分かったのです。それにしても、どうして誰がこんなことをしているのです? もしかして今回もカリオストロ協会の関係者なのです?」
「それは現時点ではどうとも。しかしそれは考えられんな。カリオストロ協会は表向きでは真っ当な商売をし、裏取引においては他者に手を下させ、カリオストロに関わる悪事の証拠は一切残さん。しかもこのように王都に戦争を仕掛けるバカではないはずだ。取引先をひとつ自らの手で潰すことになるぞ」
だが、アレットがひとつの仮説を立てた。
「いえ、この事態が何かの実験や検証だったとしたら? あるいは騎士団の戦力を探ろうとしているとしたら?」
「何だと!?」
「陛下がおっしゃるとおり、王都に直接戦争を仕掛けるバカはいないッス。そもそも王都には王家を守護するための戦力が備わっており、反撃されて逃げようとしても国内から一気に戦力を集められて一網打尽。結末の見えている戦争を仕掛けるとしたら、最初から負けるつもりなんッスよ。その理由や目的は敵のみぞ知るってところッスかね」
そう冷静に分析するアレットに、空が言う。
「それよりも、わたしたちも現場に向かいましょう!」
「生身の人間がゴーレムにどう立ち向かえと」
「避難誘導、消火活動、索敵、被害状況把握分析。戦う以外にもできることはあるはずです」
「お、おぉ……。最近は戦うばかりでそればかりに目が行ってたッス。そうッスね。みんな!」
アレットの呼びかけに、ひまりとピエリーナは強くうなずいた。
空はライノックに頭を下げる。
「わたしたちは現場へ。失礼します」
そしてライノックは、バルコニーから去ってゆく空たちを静かな目で見送った。
「ああ。頼んだぞ」
王都、南門。
武装ゴーレムは、全高二十四キュビト(約十二メートル)ほど。どれもが人に近い頭部と胴と四肢を持ち、全身が装甲に覆われており、両足の裏面には履帯が装備され、両腕にはリボルバー式アタッチメントが施されている。そしてその構造は以前アイアンマウンテンにある株式会社パワードの社員ボルタが暴走させたオールラウンドゴーレムの簡易版であった。そしてボディーには確かに『株式会社パワード』の社名とロゴが刻印されていた。
「そんな! アイアンマウンテンのあの会社は倒産したはずです、それなのに!」
「倒産後も倉庫に眠っていた機体を、今回の事件の首謀者が買い集めて兵器転用したんッス。建機として生産されたものでも、改造や兵器転用することはできるッスからね」
侵攻ゴーレムは、いずれも一直線に王城に向かって進んでいる。それを食い止めるのは王立騎士団所有の戦闘用ゴーレム。それこそ騎士のような純白の甲冑に兜、胸部搭乗用ハッチと背部緊急脱出用サブハッチを備え、頑丈な装甲が施された腹部にアークルリアクター一体式ゴーレムコアを搭載している。右腕の外側に飛び出し式の剣身、左腕にやはり純白の盾を装備している。メーカーは株式会社オオマツ工業で、以前ひまりが操縦した茶坊主の姉妹機である。
「避難の呼びかけに出向いた拙者らだが、またしても大方終わっているようでござる。いかが致す」
「逃げ遅れている人がいないかチェックして回るのです!」
「分かりました、ピエリーナ。アレット、微速での運転をお願いします。わたしたちは周囲の確認を」
すると、ピエリーナは銃を上空に向けて一度引き金を引いた。銃口からは緑色に輝く粒子が飛散してゆく。
「『アークルサーチライト』! アークルの反応があれば、粒子化したアークルが発光しながらそちらへ向かってゆくのです!」
事実、空たち四人の周囲の粒子は強く輝いている。空たちのアークルに反応していると言うことだ。
「これは素晴らしいですね。頼みました、ピエリーナ!」
「はいなのです!」
ゴーレムに近づき過ぎず、安全を確保した上で要救助者の捜索を続ける。いないに越したことはないが、見過ごして被災されたら悔やんでも悔やみきれない。
その時、アークル粒子がかすかに強い光を帯びながら裏通りに流れていった。アレットがそちらに車を向けると、次第に子供の泣き声が聞こえてきた。
「子供が残っていました! 大丈夫ですか!?」
その少女はエヴィルの五歳程度の女児。エプロンドレスに麻布の靴、クマのぬいぐるみと言う格好だが、いずれも粗末なものばかりだ。
「要救助者保護ッス! ケガは……、無さそうッスね。お嬢ちゃん、名前言えるッスか?」
「あぅ、あぅ! あだぢ、アヅヅヂュ。孤児院、びんだ、逃げぢゃっだよぉおおお!」
泣きじゃくるせいで発音は悪いが、『アルルス』と言うらしい。
「あまり悪いように考えたくないッスが、とにかく今は救助優先。ピエリーナ、アークルバレットはまだ撃てるッスか?」
「大丈夫なのです!」




