第十二章 王都攻/抗/交/鋼(こう)戦 ~陛下に報告です。その時……!~
国立公園を出て再びハバレーに向かう。
その道中、今度は空が運転し、助手席で地図を持つのはピエリーナの役目となった。
後部座席で左右を見張るアレットとひまり。誰もが穏やかなドライブを楽しんでいると、ひまりが言った。
「拙者の役目は終わりでござる。我が主の願い、世界の建造物、それも美しきジグラスを巡る旅を終え、主の魂を見送った。お三方、拙者の旅にお付き合い賜ったこと、深く感謝申し上げる」
「ちょい、何ッスか、いきなり?」
「いや、拙者の旅の終わりの余韻に浸って、言うのが遅れたと申そうか」
「そんなの、別にいいってことッスよ! 仲間じゃないッスか!」
「仲間だからこそでござる。『親しき中にも礼儀あり』。ヤマトの教えのひとつにござる」
「まっ、まぁ、分からんでもないッス。当たり前が当たり前になってしまっちゃいけない。そのうち気付くんッスよね。些細なことでも、いつもそばにいてくれる仲間の存在がありがたいって」
後ろの会話を聞いていて、空もピエリーナもふっと微笑む。
「さて、ここからは拙者が貴殿らの旅にお供いたす番。改めて、よろしくお願い申す」
「はい、こちらこそです、ひまり。……そうです。ひとつの節目を迎えたと言うことで、王都に着いたらパーティーをしましょう。今回は豪勢に行きますよ」
「うむ。節目と言うものは大事でござるな」
「私もなのです。旅は大変なことがたくさんなのです、たまーにはぱーっと景気よく飲んで食べて笑い合うのです!」
「そうッスね。んじゃ、自分がいい店を紹介するッスよ!」
ハバレーのエヴィル自治軍北門分隊の庁舎にて王国議会に参拝完了の報告をし、北門近くの市場で食材を調達、先日の道を辿って南に向かい、二日かけて王都へと戻ってきた。
すると、王都防壁の北門でひとりの騎士が敬礼して空たちを出迎えた。
「呉空様、アレット・ドイル様、河上ひまり様、ピエリーナ・マルゲリータ様。ようこそ王都へ。国王陛下が皆様をお呼びです。つきましては本日十六時、王城正門にお越しくださいますよう」
「分かりました。お勤めご苦労様です。……時間からして、腹ごしらえしている暇はありませんね」
空は懐中時計を一瞥して、顔には出さないように心掛けたが残念そうにつぶやいた。
国王への謁見には、大衆浴場で入浴して服装も上等なものに着替えねばならない。その時間を考えれば、屋台の串焼きを口にしている暇さえもない。
大急ぎで身支度を整えて王城へ。賓客室で待っていると、時間通りに国王ライノックが空たちの前に現れた。
「長旅ご苦労。報告を受けた時間から、この時間には帰ってきていると思っていた。夕飯までゆっくりしようではないか」
その後は前の顔ぶれで晩餐をご馳走になりながら旅の土産話をし、食後はやはりライノックの執務室でハバレーでの差別的扱いと運び屋の捕獲についての詳細の報告となる。それについて王国議会は空たちが帰ってくるまでに議論を重ね、サンティーエ共和国とシュトラルラント王国との三国でカリオストロ協会の解散に向けた法的行動に関する同盟を結ぼうと考えていたらしい。
「そうか。貴殿らにはつらい思いばかりさせてしまったな。申し訳ない」
「そんな! 陛下が頭を下げることなんて何もないッスよ!」
たびたび謁見していては互いの距離も縮まり、アレットの口調も砕けてしまうものだ。
「いや、アレット。そんなことはない。国王とは先代までの責任をすべて背負うものだ。国はモノを言わない。国王こそが国そのものなのだからな」
「そういうもの、ッスか……」
アレットは困惑するが、いつまでも重い空気を引きずるわけにはいかない。
「さて、ここから先は他言無用に願いたい。
実はある部隊に、カリオストロ協会がつながりを持とうとする可能性がある機関や組織、実力のある個人などを探らせておる。その結果、カリオストロ一世ジョルジョ・バルサモは錬金術製品に関する詐欺行為を主に行っていたが、協会が錬金術を兵器に転用したり麻薬を製造したり、違法金融や戦争商のようなことを始めたのはジョルジョの退任後、カリオストロ二世フランソワ・バルサモの代になってからだ。二世は金を得るためなら見境なく事業を拡大する。今後どの分野に進出するか。見当もつかぬ。
組織形態は未だつかめぬが、今までの貴君らの報告によれば、違法事業のトップの上にその協力・監視・管理を担当するカリオストロ協会の幹部がいるようだな。そしてその事業が失敗すれば、幹部は容赦なく見限る。そもそも幹部は自分を多く語らず、秘密を徹底している。復習になったが、一応これから話すことの前置きだ。
朗報がある。我が国に詐欺の拠点を置く組織『有限会社ウツボカズラ』の帳簿を押収したことからカリオストロ協会の幹部『ラ・ガリソニエール』の身柄を拘束、現在は王都で取り調べを行っているが口を割らないため、さすがに言葉にできない方法での拷問を行い、先述のカリオストロの実態の一部を把握した。これを機にうまく事が運んでカリオストロ協会の内部を更に探れればよいと思っている」
そんなライノックに、アレットが尋ねた。
「そ、その、言葉にできない方法って……」
「『尋問官』だけに許された方法で、それを尋問官以外の者がやろうものなら間違いなく重罪だ」
「みんな! この先は聞いちゃダメッス!」
アレットが青ざめて叫ぶと言うことは、少なくとも彼女は知っているか、思い当たる尋問方法があるのだろう。
そろそろ紅茶も飲み終わる。
任務の報告とそれにまつわる話はここまでにしようとライノックはメイドを呼ぶのだが、その時空はふっと顔を上げた。
「空? どうしたッスか?」
だが空はソファーを立って窓の外を見やる。だが窓の外には平和な街並みが望めるばかりだ。
「何かが、来ます……」
「空? 一体何を」
その時、城全体が微震に見舞われる。
どうした、地震か、敵襲かと誰もが動揺する中、空だけは執務室を飛び出して南側に面するバルコニーに出た。
空が、そして彼女を追いかけてきた一同が目にした光景は。
「何と、いうことだ……!」




