第十二章 王都攻/抗/交/鋼(こう)戦 ~それが、ジグラスとレアガルド戦記にまつわる真実でござるか……!~
リールーは語る。
「何百年前じゃろうか、サーガが各国でただの物語へと変換されて、わしがジグラスの祈り手を継いだ頃にレアガルド伝記と言う形でジグラス及び『王立書庫』に収められたのだが、これは今では『焚書を免れた貴重な歴史書』になっておるのじゃよ」
「焚書、でございますか?」
「然様。現シュトラルラント王国、かつての『創世神聖シュトラル祀国』を国王以上の権力で治めていた『聖シュトラル創世教』の教皇は、サーガを捏造された歴史とし、サーガ及びそれを由来とする書物は創世神たる聖シュトラルに対する冒涜であるとして燃やし、それを出版する製本業者を魔女裁判にかけ殺害し、聖シュトラル創世教を唯一の宗教として統一しようとしていた時代があった。その時代はもう終わったが、焚書を免れるため他教の干渉を一切受け付けぬジグラス及び国立書庫に収められたという歴史があるのじゃよ」
「そうだったのですね。焚書に魔女裁判とは、なんと愚かな……」
「然様。そして創世教の弾圧が無ければレアガルド伝記も広く普及していたじゃろう。しかし歴史は今を辿った。お主がその書をどういう経緯で手にしたかは分からんが、こうして熱心に読みふけり考察してくれる者がここに現れた。伝記の著者もさぞうれしかろう。……さて肝心要のお主の疑問じゃが、これはお主の考察通り黙示録じゃと、わしも考えておる」
「……ッ! まことでございますか!」
おどろくひまりの言葉に、リールーはうなずいた。
リールーが語るところによると、かつてこの大地には次のような歴史があった。
レアガルドはもちろんサンティーエもシュトラルラントも建国されるより遥か昔、サーガの原点となる物語を、ひとりの吟遊詩人が旅をしながら歌い広めるようになった。それはリールーが幼いころ、彼女の父が聞いた歌である。
リールーの父はとある国の民族文化研究者であり、吟遊詩人の歌に興味を抱いてその内容を大ノルド帝国領内にある洞窟の壁に刻み込み、それはおそらく最初のサーガの文書化となった。それから数年後、大ノルド帝国は大規模な内戦に見舞われ、それは数年におよび多くの官民が犠牲となり、国家は事実上崩壊してしまった。すなわち、吟遊詩人が歌い広めレアガルド伝記につづられたような災厄こそ起こっても希望の八士が現れ国を救うことはなかったのである。
しかし、内乱の首謀者は『ノルド帝の十二臣』のうち七人の謀反が原因であると、生き残った臣は訴えた。七人の謀反、それはレアガルド伝記におけえるドラゴンの角の数と一致し、ひまりによる権力者の数を意味するのではないかと言う考察とも一致している。
英雄が現れノルドを救うことはなかった。しかしリールーの父は「もし英雄が現れてくれたならこんな悲劇は起こらなかった」と言い、ジグラスを『平和を祈るための塔』としてレアガルドのみならず『ノルドの危機を黙示した歌』を吟遊詩人が歌い広めた地域をめぐって建立し続けた。そして最初のジグラスであるこのプリモディアル・ジグラスの最初の祈り手となり、リールーはその二代目としてこのジグラスと共に生き続けているのである。
では、なぜヤマトタケルを一柱とした英雄の象が尖塔の周囲に並んでいるのか? それはエンシェントエイゼルンサーガではなくレアガルド伝記のみにて明確に言及された英雄だからである。伝記の著者はある日、「我ら『八傑』を尋ねよ」と言う謎の声を夢で聞いた。毎晩見る夢の語りかけの通りに旅をし、各地を旅して英雄に出会い、その英雄の名を借りる形でレアガルド伝記を完成させたのである。
そしてその八神こそ、北の民族の守り手『オキクルミ』、雷を操る剣士『倭建命』、美しき猿の王『孫悟空』、邪悪龍殺しの英雄『ジークフリート』、海賊として名を馳せたプリンセス『アルビダ』、歌で精霊たちを呼び力とする有翼の歌姫『セイレーン』、名うての狩人と謳われた青年『アルジュナ』、そして受肉した天使『アーシュ』である。
「この地に、そしてジグラスにそのような歴史が……。やはり天使が舞い降りて受肉し世界の危機を救ったなど、おとぎ話でござったか」
まさかの結末、いや過ぎた歴史に、愕然となるひまり。そしてひまりの考察通りなら危機を迎えた国は救われたのではと言った空の観測さえも砕け散ってしまった。だが、そんなひまりにリールーは言う。
「だがあの吟遊詩人もこれで報われたじゃろうて。お主は黙示録を読み解いた。国は滅んだが人類が滅んだわけではない。挫けては再起し、人類は発展してきた。わしは過去に生きた者。世は若き者たちに託し、これまでもこれからも、わしはここで祈り続けるのじゃ」
「……ありがとうございます。リールー様に、そしてサーガを歌い続けた吟遊詩人殿に恥じぬよう、拙者は生きてゆくことを誓います」
「よい目じゃ。若者よ守っておくれ、この先の未来を」
そして一同は、祈り手リールーに別れを告げてプリモディアル・ジグラスの森を後にした。




