第十一章 互いの溝 ~そんなもの、ただの人殺しッスよ。~
夕方。
ハバレー北門付近、『エヴィル自治軍北門庁舎』。
男は『運び屋のシャーリン』と言い、御者の男は馬車貸し屋の店員でシャーリンの悪事には関係なかった。シャーリンは正規の運送ギルドではなく、個人で裏稼業を営む運び屋である。もともと傭兵団に所属しており銃火器の扱いには長けていたため、足(つまり馬車)さえ用意できれば法に触れるものであろうと金次第で運送を請け負っている。
そんな裏稼業を営む者は、当然裏稼業に目をつけられるもの。やはりと言うべきかカリオストロ協会に違法薬物の運送を依頼されるようになり、これまでにもいくつかの町に違法な品を卸している。
しかし、シャーリンはどうしてもこのハバレーに来たくはなかった。その理由だが。
「そろって行方不明になる、ですか?」
空の尋問に、シャーリンは答えた。
「そうだ。本当の荷届け先は王都ではなくハバレーの町長邸で、ハバレーに荷物を届けに行った者は例外なく行方不明になるそうだ。俺は何度も断ったよ、サーパス殺しのエヴィルだらけと噂される町に荷運びをするなんて。でもカリオストロの連中には逆らえない。奴らの依頼を断って別の依頼を受注しようものなら、その取引相手が殺されるんだ」
「なんて卑怯な……。でも、どうして行方不明なんかになるのでしょうか」
空の疑問に答えたのは、クリューだった。
「そんなの、イラハが食べたからに決まってるでしょ」
「あー……」
空はもちろん、誰も言葉にできなかった。
「しかし尋問はとりあえずこれで充分です。あなたがカリオストロ協会とつながりのある人物であることが確認でき、あなた個人としてはハバレーに対する害意が無いことが分かりましたので。結果的にあなたはこの町に麻薬を持ち込むと言う罪を犯したわけですが、それはあくまで結果論。この町を崩壊させようとしていたのはカリオストロ協会であることが分かりました。しかしエヴィルの町を狙うなど、アレット、何か考えられることはありますか?」
「結果論で終わらせないでよ!」と憤慨するクリューだが、アレットは思案して答えた。
「戦争を起こそうと思っているのかもしれないッス」
「戦争、ですか?」
「カリオストロ協会が悪意を持つ人間を食うドラゴンのイラハの存在を知ってか知らずか、この町に裏稼業の人間を送り込めばその人物は間違いなく『不帰の者』になる噂は少なくとも把握している可能性があるッス。そして王都に向かう途中でハバレーに宿を取ろうとしたサンティーエ共和国民または裏稼業に携わる者が多く行方不明になれば、サーパスに強い不信感を抱くエヴィルが我が国の民や重要事業者を無き者にしているだろうとレアガルド王国を訴えることができるッス」
「では、カリオストロ協会はパダーノやサンティーエの政府とつながりがあると言うことでしょうか?」
「両国政府・カリオストロ間の直接のパイプがあるかどうかは現時点では不明ッスが、より確実な答えを出すことができるとしたら、『戦争によって活発化する軍需産業で大儲けする』と言うことッス。血なまぐさい話ッスが、戦争はカネになるんッスよ」
アレットのとんでもない爆弾発言。これには空はもちろん、ひまりにピエリーナ、エヴィル自治軍の兵士、そしてクリューは驚愕のあまり青ざめる
「どういうことなのよ!? 人殺しであるはずの戦争がカネにって、そんなの、おかしいじゃない!」
「ところが『一部の人でなしども』はそうじゃないんッス。奴らは『人を食い物にしていると言うより、まさに人の命を金にコンバートして生きている』ような連中なんッスよ。水や食料は無論、保存食や医療物資は高騰し、それらや武器は高く売れ、武器を買うための金を貸せ、貴重な水源を奪い合い、その混乱に乗じて様々な言い分を掲げて身勝手な改革を推し進められるようになり、その改革や混乱に便乗することでさらにカネを稼ぎ……。戦争は国のトップ同士のケンカに国民を巻き込むもの。あるいは国を挙げての侵略と防衛。そしてそのためには膨大な予算と軍事力が必要。そこに『自分らが力と資金を貸しますよ』とささやくことで戦争は激化する。多くの命の犠牲の上に、裏稼業の連中は血のように真っ赤な高級ワインをすすって生きているんッス。それが、戦争の実態なんッスよ」
「じゃあ、じゃあ……、あたしたちの、エヴィルのサーパスに対する感情は、そのカリ何とかって連中に利用されていただけだって言うの!? あたしたちが戦争を起こす口実に使われていたって、そう言うことなの!?」
「覚悟して聞いてほしいッス。答えは、是であると」
あまりにひどい真実を聞かされたクリューは、膝から崩れ落ちてしまった。
「じゃあ、今まであたしとイラハがしてきたことって……」
「レアガルドと諸外国との戦争の火種にしかならない、ただの人殺しッスよ」




