第十一章 互いの溝 ~一度、旅の仕方を考え直すタイミングなのかもしれないッス。~
その後。
緊急魔導通信にて王国議会と陸軍に今回の事件を報告し、空たちはハバレーにもう一泊することになった。夜になって国王ライノックと連絡が取れ、アレットとライノックは信号通信でやり取りをし、一同はエヴィル自治軍北門庁舎に宿泊することとなった。
翌朝、山のような信号印刷紙をずらりと並べた結果、このようなやり取りになっていた。
「……以上が本日の事件の報告ッス。/」
最後に『/』をつけるのは、「どうぞ」という意味である。
「ハバレーを魔の手から守り、カリオストロの関係者を捉えたこと、まことに大儀であった。しかしもし貴君の推測が正しければ、サンティーエないしパダーノと我が国は戦争に発展するところだったかもしれぬ。あるいは同じ手口を、ほかの州、ほかの国にも仕掛けていたとしたら、両国に戦争を仕掛ける口実をすでに与えていることも考えられる。貴君らは引き続き旅をしながらレアガルドの人民をカリオストロの悪意から守りつつ連中の動向を伺え。あとはこちらで何とかする。/」
「何とかとは、どのようになさるおつもりッスか?/」
「排サーパス派が多く集まるエヴィルやエルフの町や集落、たとえそうでなくともカリオストロに暗躍の隙を与えかねない州や町に騎士団などを派遣し、カリオストロの魔の手あらばこれを排除する。また王国議会はこのような魔導通信ではなく『クーリエ(外交文書配達使)』などで周辺国に呼び掛ける。/」
「委細了解ッス。陛下、くれぐれもお気を付けくださいますよう。/」
「うむ、貴殿らもな。それでは、今宵はこれにて。/」
「失礼するッス。よい夜を。/」
これを読み、空たちは固唾を呑んだ。
「そうですか……。カリオストロ協会、何ということをたくらんでいるのでしょうか」
「空。開戦(戦争の勃発)は現時点では考えられる最悪のシナリオのひとつに過ぎないッス。そうならないために我々は少しでもカリオストロの力を削ぎ、今回のように守れるものは守り抜くんッス。そして国同士の問題は王国議会に任せるッスよ。そこで提案なんッスが」
アレットはひまりとピエリーナを見やる。
「今日こそは最後のジグラスへの参拝を済ませ、その後はもう一度陛下に挨拶をしてからピエリーナの故郷であるアルケモートに戻ってマルゲリータ夫妻にピエリーナの無事を報告。その後については、アルケモートでゆっくりみんなで話し合いたいと思うッス」
「それは構いませんが、旅はしばらくやめると言うことですか?」
「そッス。それには理由と言うか考えと言うか、そういうものがあるッス。ライノック陛下より与えられた自分たちの役目は、空の過去を探しつつ美食と美景を味わう旅の中、行く先々でカリオストロの悪事を探り、カリオストロの魔の手が伸びればそれらから人々を守護する、いわば『ライノック直属遊撃隊(ライノック指揮下における別働戦力)』のような立ち位置ッス。ひまりのジグラス巡りも間もなく終わりひと段落着くことッスし、すべての目的や任務を整理し、これからどんなスタイルで旅をするか、あるいは空の過去を探すという目的の優先度を下げるか、それについてもきちんと議論したいッス。アルケモート訪問まで時間はあるッスし、各々、これからどうしたいか考えてほしいと思うッス。自分はアルミスセントラルを出る時に空の旅の目的を優先すると誓ったんで、空の選択や意思を尊重したいと思うッス」
アレットの意見に、空は「ありがとうございます」と返し、ひまりとピエリーナもうなずいた。
「かしこまった。しからば、まずは拙者の旅を終わらせよう。皆には今しばらく、拙者にお付き合いただきとうござる」
「私も賛成なのです。いろいろ複雑な感じのことは整理して、それからまた旅をしたいと思うのです!」
「それでは、アレットのプランでよろしくお願いします」
「決まりッスね。それじゃあ腹ごしらえッス! どこの店で食うッスかね!」
「昨日の喫茶店は、間違いなく除外ですね」
「だったら門番さんおすすめのところで食べるのです!」
「であれば、外れはござらぬな」
そして四人はエヴィル自治軍『北門分隊長』のエヴィルに機材拝借と宿泊の礼を述べて車に乗り込む。
白い煙を吐き出す車にかけ、空が思うことは。
――悪意は悪意を呼び、それは周囲の人々を巻き添えにして負のスパイラルへと陥り、破滅への道をたどる。どこかで誰かが許さなければ、そのスパイラルは止まらない。だからせめてわたしが許しましょう。わたしもどこかで許されたり許されなかったりしているはずですから。
そう、どこかで誰かが許さなければならない。
屈辱を味わわされたら憎まずにはいられない。その憎しみを問答無用で忘れて許せなど誰にも言う資格はない。だからいつか自分の意思で許さなければならないのだ。時に、名も顔も知らぬ誰かに成り代わってまで。
――だからこそ。
「だからこそわたしは戦うのです。滅ぼすための戦いではなく、救うための戦いを、これからも続けてゆかなければならないのです。……そう。仁義礼智と信の字胸に、誇る力は活人が為に。武の道行く我、地鳴らす一歩は天の采配のもとにあり、と言うことです」
道は続く。
到着は、新たなる出発となるだろう。




