第十一章 互いの溝 ~エヴィルさん、なにげに初めて見るのです。~
その頃。
王城、王国議会。
各庁長官を集めての定例会議。
議長サティルス・ラジアータが言う。
「これより定例会議を開始する。全員起立、国王陛下に一礼!」
会議は巨大な円卓を囲って執り行われる。議員は各庁の長官及び議会に名を連ねることを許された上級貴族の家長からなる。ライノック以外の議員は起立して上座にかけるライノックに頭を下げた。
「着席! 各庁、実績報告!」
法務省の報告:精霊族や魔族などこれまで『亜人(――種)』と呼び差別していた頃の反省をもとに亜人と呼んできた種族の人類認定より十三年、差別意識がいまだに残ることが問題である。特にレアガルド王国にはエルフもエヴィルも少ないことがその溝が埋まらない原因でもあり、行政機関にも積極的に彼らを採用した方がいいという見方がある中、数ある各民族や集落の文化レベルが低く普通の人間には扱えないアークルをたやすく扱える人種の導入は更なる問題を引き起こしかねないと言う反対派も多い。法務省は貴族以外の国民の意見を問おうとしている。
錬金魔術庁:レッドフォート州五区砦のアークル収集魔術式の悪用が発覚し、それは違法なホムンクルス製造及び賢者の石の錬成を目的とするものであった。レッドフォート家本家はお家取り潰し、第七代レッドフォート伯爵は亡き妻子を甦らせようと言う非人道的行為に手を染め終身刑に処され、第六代も服役中であることから事実上お家は断絶することになる。分家も連帯責任を取らせようという意見もあるが、分家に罪はなく、そんなことをすればレッドフォート州を統べる者がいなくなってしまうとし、分家の取り潰しは保留となっている。
陸軍庁及び海軍庁:大きな戦争もなく、その兆しもないことから至って平和である。各州各分隊でもパワハラなどの問題行為は見られないと報告されているが、縦割り社会によるもみ消しも考えられることもあり、引き続きモラル研修は続けてゆく。アッシュランド州のパワハラ疑惑も、処罰対象は近頃問題になっているカリオストロ協会のスパイであることが報告され、それはパワハラ問題にはならない。
保安庁:保安庁各分隊庁舎、陸軍海軍の庁舎や冒険者ギルド庁舎、学校、駅舎、傭兵団派遣庁舎、そのほか公的機関や大型ギルドの庁舎に『こどもたちの屋根』を設置して十と余年、児童虐待や誘拐など未成年者を狙った犯罪の抑止につながっている。しかしそれで十全とは言い難く、郵便配達員が駆る蒸気駆動車や自動二輪車など移動式の児童保護体制を敷こうとしている。また陸軍海軍と連携して、奴隷狩り対策及び奴隷狩り被害者の救助にも力を注いでいる。
学習庁:ヤマトの『テラッコーヤシステム(寺子屋のこと)』をベースに発足した本庁は、『シュトラル創世教』の教会を学舎とし、それ以外にも各地に学舎を建設し教育者を置くことで、『平民の』未成年者の識字率・計算能力の飛躍的向上が認められた。しかし国費を回すにも限界があり、寄付金で運営される教会にも国が寄付をする必要がある。現在の教育水準を上げるよりも先にあまねく国民に同水準の教育を施すことが、結果として国力増強になると考えられ、その対策をまとめている。更なる学舎と教育者の補填には国費が必要で、そのための増税も視野に入れている。また、そのシステムの導入にジグラスを対象にしてはどうかという意見もある。
冒険庁:冒険者ギルドを運営する当庁は保安庁との連携で便利屋業から害獣や盗賊団の討伐まで小遣い稼ぎ程度の仕事から命の危険を迫られる仕事まで幅広く取り扱っている。であればいっそ保安庁と合併しようとする動きもあるのだが、冒険者は個人事業主であり公務員ではないためそれは不可能。しかも新人冒険者ともなればまともな教育が受けられなかった平民の出身から元ならず者まで多くおり、彼らの養成には時間がかかる。そのため、新人冒険者に向けた薬草採取や機械修理などの簡単な仕事に関するガイドブックを出版し、金勘定に関する基礎的な計算力を身に着けさせる新人養成プログラムを盛り込むことも検討している。
貴族ライトアームズ家:報告を担当したのはアルスの妹リィン・フィル・ライトアームズ、十七歳。兄アルスが率いる勇者パーティーによるアルケモートの政府復興は順調。汚職の撲滅も進み、欠損した人員はゴールドメイルのつてで陸軍から随時補填し、事業引継ぎと無駄事業の撤廃も進んでいる。
ほかにも財務庁、国土庁、貿易庁、国交庁など、貴族各家の報告が上がる。そしてひと通り報告が終わった後、議題はついにカリオストロ協会について。
「……と、保安庁諮問探偵アレット・ドイルの報告により、彼女らの旅先で少なくとも三件、カリオストロ協会の関与が認められた。二件が錬金術の悪用、一件が陸軍庁舎へのスパイ及び詐欺組織への勧誘である。
現在、アレット・ドイル一行にカリオストロ関係者の捜査を依頼している。しかしカリオストロ協会はパダーノ共和国に拠点を構えており、我が国から手出しすることはできない。
そのためパダーノ共和国に対し、過去三件の事例を理由として周辺国家と連携してカリオストロ協会の解散に向けての交渉を開始しようと考えている。その交渉は、国交庁長官に一任する。ほかにも各庁各家からカリオストロ協会に関する情報があれば報告・共有せよ」
その夜。
魔族の町ハバレー。
「エヴィルさんなのです? なにげに初めて見るのです!」
防壁の門番をしているのは若いエヴィルの女性であった。エヴィルの特徴は、浅黒い肌に鋭い角とシッポ、エヴィルにもいくつか人種があるがウロコを持つ者もおり、この女性もハバレーの町民もウロコ持ち、すなわち『有鱗種』である。
「ガンマンの嬢ちゃん、ほかの子もエヴィルは初めてかい。言っとくけど、『サーパス』に対してはいい印象を持ってない連中も多い。肌に合わなきゃさっさと立ち去った方がいいよ」
「どういうことなのです? それに、サーパスって?」
それについてはアレットが説明した。
「『賢人族』、つまりありふれた人間のことを指す言葉ッス。サーパスはエルフやエヴィル、その他の人種と比較すると人口が多く高い文化を持っているとされることから、人類は自分たちをいつしかサーパスと呼び、エルフやエヴィルを下に見て差別するようになったんッス。まあその話はそのうち。……お姉さん。自分たちはここで一泊したいだけッス。宿だけ借りられれば、こちらに敵意も害意もないッスよ」
「目的は観光と言うことで登録しておくよ。ゆっくりしていきな」
そしてアレットは車を走らせ、宿を予約すると宿の近くのバーで夕食を取ることにした。




