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第九章 魔術式の砦 ~サバイバルに、デリカシーとか、言ってられないのです……!~

 デッドデザート付近の集落。

 東西をつなぐ『デッドデザートストリート』は、アッシュランド州とレッドフォート州とを最短でつなぐ一本道。そのためストリートを使う行商人や旅人も多く、旅の安全のために水や食料やテントなどを売る露店を開く者が集まっている。

「お客さん、デッドデザートストリートを通るのは初めてかい?」

 空たちは、露店で旅道具を売る老人と出会った。

「はい。ひと通りの装備をそろえなければと思いまして」

「『お客さんの思うひと通り』では足りないね。このパックを持っていくといい。ほかの店でもだいたいこういうパックが揃っとる」

 ストリートを無事に通るためのパックとして必要なものは、砂除けのマスクとゴーグル、ウォータージャグ、忍者飯、羅針盤、杭と長く頑丈なロープ、木の板、車両のメンテナンス用工具、タープ。しかもタープはテント用ではなく車にかぶせるためのもので、空たちが乗るオープンカー式の蒸気駆動車にはなくてはならない。しかも三枚セットで売られている理由として、風で飛ばされた場合の予備として準備しておく必要がある。

「各種道具の使い方は説明書を見るといい。説明書だけは絶対に無くすな? あとそれと、一台で旅をするよりも『キャラバン』護衛の仕事を受注するといい。お前さんら冒険者なら、護衛のクエストをじかに受注できるでな」

「何から何まで感謝いたします。おじいさんのお店の繁盛もお祈りいたします」

「ありがとな。道中ご無事で」

 しかしパックは二人前と車両一台分。残る二人前は別途購入。更にアレットの判断で、食料も大量に買い込んだ。

「そんなに買い込んでどうするのですか?」

「今度野盗に出会ったら、戦わずに食料を差し出すのが無難だからッス。無駄に戦って体力を消耗するよりもその方がいいからッスね。だからこそ目に見える食料のほかに、車のデッドスペースに隠す保存食も用意しておくッス」

「命まで狙われたら、どうするのですか?」

「その時は戦うしかないッスね。でもま、死の砂漠でそうそう野盗には出会わないッス。少人数で構成された盗賊が列をなしてゆくキャラバンに戦いを挑むのはバカげてるッスし、大人数でキャラバンを襲うだけの戦力をそろえて待ち構えるのは様々なリスクの方が高くつくからッスね。『あくまで保険』ッス。あとそれと、何らかの理由で食料がなくなる旅人が出た場合、お裾分けするのが砂漠での生き方だって聞いたことがあるッス」

 ひまりが頷く。

「持ちつ持たれつ、でござるな」


 空たちはほかの冒険者たちと共にキャラバンで護衛任務のクエストを受注した。

 ギャラの支払いは、砂漠を抜けた先での受注者全員での山分けとなる。途中で離脱したクエスト受注者には支払われない(多くの場合それは死を意味する)。

 キャラバンは、オープンカータイプの軍事バギー『隊長車』が一台と荷台にタープが施されたトラックが三十台。キャラバンの一員の話では、「盗賊も蒸気駆動車とかを使うようになったからな、こちらも遠い大陸からロバを買ってたんじゃ対応できないんだ」とのこと。それだけ早く到着できるし車持ちの冒険者も石炭と水を多く消費するよりも同じ速度で付いて行けるメリットがあるが、強風で砂が舞い上げられて視界不明瞭になった場合の玉突き事故や遭難の発生率が高くなるデメリットもある。それだけ冒険者には危険が伴い、キャラバンを指揮する隊長にも命の責任が伴う。

 砂漠とは言いつつ、一面サラサラの砂まみれと言うわけでもない。硬い大地にコンクリートが敷かれた一本道には、数キロ置きに車両メンテナンス用の広場が整備されている。しかし風が強く、強風が吹いた場合は隊長がキャラバンを止める必要がある。

 隊長車にて、隊長の男マックスは緑の旗を大きく振ってホイッスルを鳴らしてキャラバン出発の合図とした。

「しゅっぱーつ!」

「聞いての通りッス。みんな、砂漠の冒険に出発ッス!」


 デッドデザートストリート。

 この日は風も穏やかで、多少雲が出ていることもあって旅は順調。空たちの蒸気駆動車と並走するベテランの護衛の話では、「荒れる時は荒れるし、そういう時はだいたいキャラバンを外れる荷馬車や護衛も出る」とのこと。

 ところでひとつ、死の砂漠と言う割に気がかりなことが。

「緑、意外とありますね」

「あるッスね」

 ストリートの左右には、意外と草木が生い茂っている。

「何なら、クモやネズミまで草の陰に隠れているでござるな」

「意外と死と言うほどの砂漠でもないのです?」

 これもまた並走するベテラン護衛の話。

「ああそれ。人間のポイ捨てと糞尿だよ。汚い話で申し訳ないが」

「糞尿ですか!?」

「ああ。こんな砂漠に当然ゴミ箱もトイレもないから、ゴミや排泄物はそのあたりに捨てることになる。それを養分に草木が育ち、それを目当てに虫たちが、その虫たちを目当てに小動物がやってくるんだ。まあでも旅をしていると、そこら辺の地面を掘って用を足して埋め直すなんてこともあるだろう。女の子にこういう話をするもんじゃないが」

「ありますね。陸軍のサバイバル訓練でも、たまにありました。たまに……」

「それに食料をダメにした荷運びギルドや護衛も、ネズミを狩って生き血をすすって肉を焼いて食うなんてこともある。人間が出した養分が巡り巡ってまた人間が食う。砂漠じゃそうやって地べたを這うようにして生きる覚悟を持っておけば、意外と死の世界じゃないのさ。はっはっは!」

 そう愉快に言うベテラン護衛と空の会話に、アレットたちはついていけない。

「デリカシーの問題なのかサバイバルへの覚悟なのか、分かっていてもついていきたくない会話ッス」

「同じく」

「私には、旅に対する覚悟が足りなかったみたいなのです……」

 その日はまだ硬い地面が続く砂漠の途中でキャラバンを止め、大勢で火を囲んで水で戻した保存食と酒で夜を迎える。護衛の中には今のうちに仮眠を取り、夜中の見張りに就く者もいる。

「捕れました!」

「おお、さすがは槍使いの嬢ちゃんだ」

 ベテラン護衛の話に興味を持ったか、空は陸軍仕込みの罠と共に自らの槍でもネズミを仕留めた。そのネズミを火あぶりにして体毛をすべて焼き、首を切って頭上に掲げて滴る血を飲み、血が抜かれたネズミをマグの鍛冶屋で買った包丁で解体して共用のキャンプファイヤーであぶって食べる。多くの荷運びギルドのメンバーや護衛たちが「よくやるなあ」と見守るが、果たしてネズミの味は。

「塩コショウをまぶしたところで、最悪にまずいです」

 分かっていたことだ。「そらそうだ」、と誰もが叫ぶ。

「しかし、これが砂漠を生きると言うことなのでしょう。このネズミも生きるために必死にこの荒野を駆けまわってクモを仕留めて食べて、明日も、そしてその先も。我々人間は火を使い料理を覚え、毎日美食にありつける。これは先人たちの苦労があってこそなのでしょうね。だから、この酷い味のネズミにすら感謝しなければ」

「空……。そうッスね。それが生きるってことかもしれないッスね」

 空の生命観に、キャラバンの一同は「確かに」とうなずく。そして彼らもまた、空とひまりが仕掛けた罠にかかったネズミを思い思いの方法で口にしてゆく。調理法次第ではネズミもおいしく食べられるようで、焼酎やワインとよく合うと絶賛されるネズミ料理まで現れた。

 すると、別の護衛がとんでもないことを言いだした。

「お前ら! 分かってるやつもいるだろうが、小便はここに掘った穴の周囲に撒いとけ! 明日の水が調達できるか否かが掛かってるからな!」

 せっかくおいしく仕上がったネズミ料理の最中に排便に関する話は聞かされたくない。黙る者もいるが、「うるせーやい空気読め!」と愉快そうに騒ぐ者もいる。

 ピエリーナはさすがに限界だ。

「ここが砂漠じゃなかったら、『デリカシーゼロな下品野郎集団』の太鼓判を押すのです」

「拙者は、もうあきらめたでござる」

 その後、キャンプファイヤーを囲んだり各々の車に戻ったりして一同は眠りにつく。仮眠を取っていた者が食事を取りつつ見張りに就き、夜明けとともにオアシスを目指す。

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