第九章 魔術式の砦 ~盗賊団にしては様子が変でござる。~
デッドデザート折り返し地点であるオアシス、『三日月泉』。
その名の通り、青く澄んだ三日月形の湖を持ち、周囲には大きな樹木が立ち、広場はキャンプサイトとして設備が整えられており、管理棟が奥にぽつんと立っている。どうやらこのキャンプサイトは国営のようで、王国議会からの使者が一か月ごとに管理担当を交代しながら運営しているらしい。
キャラバンが到着したかと思えば、キャンプサイトには武装した一団がいた。
「盗賊!? 全員武器を構えろ!」
キャラバンの団長マックスが旗とホイッスルで合図をするが、盗賊の一同は武装せずただ両手を上げるだけだった。
「だー、待て待て待て! 確かに俺たちは盗賊だが、お前さんらに敵意はねえ。何なら今すぐ出発する! あーいや、ウォータージャグに水を汲むまで待ってくれ」
空が最前線に出て槍を構え、「どういうことですか」と尋ねる。
盗賊は、十人を超える男衆とそれを超える女性や子供たち。男たちは腰に長剣や拳銃を提げ、タープが張られたトラックの助手席の脇にはガトリングガンまで装備している。どうやら連れの女性や子供たちは奴隷ではなく旅仲間のようだ。
「こんなところでお前ら相手に盗み働きなんかするか。そこまで俺らもバカじゃねえ。それになあ、俺たちゃ逃げるために盗賊になったんだ」
「逃げる、ですか? 誰からですか」
「そりゃあ、レッドフォート州のバカ高え税金からな。あんなもの払えるわけがねえだろ。今お前らが運んでいるその荷物も、ここではいくらで買えて、レッドフォートではいくらで納めて売られるのかねえ。それに俺たちゃ確かに盗賊だが、こっちだって生きるのに必死なんだよ」
「生きるのに必死……。それは分からないでもないですが、人としての矜持を捨てる者にかける情けはありませんよ?」
「返す言葉もねえ。安心しろ、追い剥ぐ額も半分だけ残してやっている」
「額の問題ではありませんが、この先もまだ盗賊を続けて逃げるつもりですか?」
「いいアイデアがあるなら紹介してくれ。何だったら、田舎にでも腰据えて罪償いながら自給自足の生活楽しむさ」
「それなら……」
空はしばし思案し、盗賊の代表に提案した。
「アルミス州南西部にある、アンダーウッドという村を訪ねてください。そこで、わたしこと呉空の名前を出し、これまでの事情と贖罪の意を示し、そこで働かせてもらえるか尋ねるとよいでしょう」
「マジか!?」
「マジです。あまりこういうのは好きではないのですが、あなたたちに本当に贖罪の意思があるのであれば、金貨十枚を手渡すのでそれで何とかたどり着いてください。ちなみに借金です、そのうち取り立てに行きます。あと、昼食はご一緒しませんか? 今、レッドフォートで何が起こっているのかもうかがいたいと思います。……マックス隊長?」
空の提案に、マックスは警戒しつつもうなずいた。
「構わんが、見張りは立てさせてもらうからな。あと武装も解除してもらおうか」
キャンプサイト、湖のほとり。
一同は昼食を取りつつ、盗賊団の男たちからレッドフォートの事情を聞く。
「最近はなぁ。去年にレッドフォート州知事が代変わりしてなぁ、その頃から『州全体の防衛を強化する、それについて増税する』とか言い出しやがって。防衛なんぞ冒険者ギルドに傭兵ギルド、それに保安庁と陸軍の分隊があるだろっつーに。そこに無駄な砦を建設しようってんだ。
今、人々の生活はその防衛のための税金が高くなって、州の外側の町や村から州を出ていこうって言う動きが起こっているんだ。俺たちはそんなに裕福でもない農家出身だ。天候に左右されがちな農業、それも小規模事業者はすぐに税金が払えなくなる。現に今、払えてねえんだ。だからこうして盗賊まがいのことをして逃げてる最中ってわけよ」
「事情は分かりました。アレット、どう思いますか?」
「どうって……。そりゃまあ、そういう事情があるってことは把握したッス。しかしとは言え、自分らはレッドフォートの外の人間。意見できる立場にないッスねえ。元農家のあんたらであれば、それこそアンダーウッドまでたどり着ければ村に貢献できるとは思うッスが、ほかの州民たちとなれば話が……」
すると、マックスが口をはさんだ。
「ああ。俺たちはレッドフォートとアッシュランドを往復する定期便を任せてもらっているんだが、最近レッドフォートに納品と仕入れに行くと誰もが活気を失っている。それに土産でも買って帰ろうかとすると、最近は去年の倍近く、特に一部の食品は三倍近くになってる。とても買えたもんじゃないが、人は食わねば生きていけないし、それで苦しんでいたのではどうしようもない。金の支払いのほとんどが税金、それを砦の建造費に回すとか、最近のレッドフォート州は何かがおかしいのは分かっている」
「なるほど。確かに金ばかりかけて民衆を苦しめギルドや公務から仕事を奪う事業みたいッスね。……待てよ? そんなことして何の意味がるんっスかね?」
「だが俺たちは商人だ。商人が町の防衛や州の税制に口をはさむもんじゃない。だがこのままレッドフォート州が滅びるのは、このキャラバン、そしてほかの荷運びギルドにも大きな影響を及ぼす。定期便は俺たちだけじゃないからな」
そこまで聞いて、空はうなずく。
「つまり、レッドフォート州の増税問題はレッドフォート州と取引のある人たちの生活にも影響している、と言うことですね」
だがそこまで分かっていて、できることはないのだろうか?
すると、ピエリーナが意見した。
「……癒着、ではないのです?」




