第七章 いわれなき囚人たちの華麗なる(?)日々 ~バカなガキどもとは言ってくれるッスね。~
クラウドが頃合いを見計らって門番の任に戻り、気絶したソルトを空たちが引きずって陸軍庁舎まで戻ってきた。そして今度はソルトが拘留所に叩き込まれ、バケツに汲んだ水を浴びせられて意識を取り戻したところで尋問が始まる。
「ぷぁっ!? ……んぁ? ここはどこだ……?」
「自分の勤め先、しかも昨晩の食事会の会場も忘れたッスか?」
顔をおもむろに上げたソルトの目の前には、仁王立ちする軍服姿のアレットがいた。
「てっ、てめぇえ!?」
ソルトはアレットに食って掛かろうとしたが、座らされた椅子の足に両足が縄で縛られ、手も後ろ手に組まされて背もたれに胴体ごと縛られている。
「さて、あんたはカリオストロの回し者ッスね。アレット・ドイルの存在の悪用、空、ひまり、ピエリーナに着せた冤罪。どこまでがあんたのやったことか、他にも何か隠してるなら吐いてもらうッスよ」
「けっ! ……畜生、こんな形でバレるとはな」
そんなソルトに、隊長のアクシスが尋ねた。
「どういうことだ? 口は悪くとも真面目な勤務態度のお前が、こんなスパイみたいなことを?」
「真面目なやつほど疑った方がいいですよ、隊長。俺は元からカリオストロにここに潜入しろって言われていたんです。任務は人生相談に乗りながらカリオストロ協会の詐欺集団への勧誘でしょうか。あと探偵。お前に言われたことだが、俺に与えられた命令は軍人のガキの身分すり替えとお前ら全員の殺害だけだ。俺も一応カリオストロの幹部候補だが、ひとりで多くをできるほど八面六臂でもないんでな」
「まあそりゃどんな仕事もそうだろうけど。さて、これから自分らは本物の呉空の生存と空の無実を公表し、アレット・ドイルの本当の偽者がいることが証明され次第出発するッスが、ほかにお前が知っていることを洗いざらい吐いてもらうッスよ。事情聴取と記録の保証は、保安庁諮問探偵アレット・ドイルがするッス」
「わーったよ。はぁ……」
その男ソルトは、もともとは錬金術師志望であった。しかしソルトにはアークルを自在に扱う素質はなく、失意していた時に「錬金術事業に携わる気があるならうちで働かないか?」とひとりの男に声をかけられた。その人物の名は『ジョルジョ・バルサモ』と言い、小柄で小太りな紳士であった。
意気揚々とバルサモの紹介先に行ってしばらく働いてみれば、そこは錬金術を用いた兵器を製造し、それをテロリストやマフィアなどに卸し、そのための悪徳金融や詐欺などを働く、とんでもない悪徳集団であり、それこそ先日空たちが壊滅させたルペシッサ錬金術組合であった。
ソルトは幹部のひとりから陸軍への潜入を命じられ、新兵から叩き上げで現在は軍曹に昇格。その間ずっとこのアリュールで犯罪組織への勧誘業務を行っていたのだが。
「それでも俺にだって矜持はある。狙うやつはだいたい、人に迷惑をかけて反省しない身勝手野郎、善人を食い物にするそれこそ詐欺師、飲み屋に呑みに来た盗賊団や暴徒、そういう度し難いやつばかりだ。そういう社会のゴミがカリオストロに入ったって何の問題もねえだろ」
「それを一理あると頷きたくはないッスが、善人に手を出さないことについては偉いとほめてやるッス。だが自分らは善人ッスが?」
「さっきも言ったが、俺の直の上司、幹部の『バヤール』に命じられたんだ。アルケモートで騒ぎを起こしたバカなガキどもがいる。そいつらを抹殺しろ、どんな手を使っても構わない、ってな」
「バヤール……。バカなガキどもとは言ってくれるッスね。でも、自分らが到着して今日まで時間があったはず。どうして殺さなかったッスか?」
「俺だって人殺しは御免被りたい。これでも今日まで誰も殺してこなかったんだ。だから自分の手を汚さずお前たちをバヤールに差し出す方法を考えていた。だがバヤールからせっつかれているんだ、奴らの死体を写真でいいから見せろってな」
「バヤールとの接触の方法は?」
「軍の宿坊に手紙が送られてくるんだ。あいつら、俺ら下の人間は徹底管理したいくせに自分らの素性は明かさないからな」
「了解したッス。自分の推測、推理ですらない勝手な思い込みッスが、そのバヤールが偽者のアレット・ドイルに関与していると考えるッス。そしてソルト、お前の処遇ッスが、マジックを使った公開処刑で明確な死をカリオストロに示し、罪を償って名も素性も変えてゼロどころかマイナスから人生やり直してもらうッス。そこは、保安庁と陸軍に意見できる自分らに任されたく」
「……厳罰に処すどころかそんな温情を。よくそんなことができるな?」
「加害者である以前に被害者だった。情状酌量の余地がある、ってやつッスよ」
さらに一週間。
王都より「アレット・ドイル探偵事務所所長こそが偽者だった」という報告が届き、晴れて四人は冤罪から解放された。それを機にソルトの公開処刑が決定し、容疑者の濡れ衣を着せられたピエリーナが自前の拳銃で射殺するという演出がなされたが、ペイント弾による偽装死である。さらに翌日、ソルト改め『トルソー』は、陸軍の蒸気駆動車で刑務所まで連れていかれることとなった。
そして、忘れてはいけないアリュール長期滞在の理由。
ソルト=トルソー護送の後に、空に会いに来た人物がいるのだが。
「アシュレイさん!?」
「ヤッホー、クーちゃん! 名前忘れないでいてくれてうれしいよ!」
陸軍アルミスセントラル分隊長アシュレイ。空がアルミスセントラルに流れ着いた時に最初に世話になった女性兵士である。
「お久しぶりです。お元気でしたか?」
「そりゃもうね! 八極拳の武道がひとつ『武医同源』の考えのおかげで、肉体痛めつけまくりの訓練の後のケアでみんなぴんぴんしまくり! クーちゃんも元気そうで何より。いろいろガールズトークに花を咲かせたいところだけど、任務だからそうもいかなくてね」
荷物を取り出そうとするアシュレイの左肩を見て、空は気付いた。
「アシュレイさん、少佐に昇格したのですね。おめでとうございます。何のお祝いもできませんが」
「えへん! またひとつ偉くなったぞ~! まぁお気遣いなく。それよりこれ。アルミス辺境伯からの親書。確かに渡したからね」
「ありがとうございます」
空はさっそく封筒を開き、便箋を読む。
何事だろうと真剣に読み進めれば、次第に空の表情は引きつってきた。
普段から感情の起伏が少ない空の張り詰めた表情に、これはただ事ではないとアレットは感じた。
「空?」
「……どうやらわたしたちの手配書は、アルミスセントラルやアンカーボルトにまで届いています。そしてわたしたちに駐留指令をしてまでこの親書を届けたということは、早急にわたしたちの身分保障が必用であると言うことです」
そして、封筒には空に宛てた親書とは別にある人物への紹介状が同封されていた。
「今すぐ王都に向かい、国王陛下に謁見されよ。辺境伯はそう綴り、封筒に陛下への紹介状も同封していました。ジグラス参拝を済ませたら、わたしたちはわき目も振らず王都に向かいます。意見があれば、今のうちに」
そこに、ひまりが意見した。
「それならばジグラス参拝は後に回していただきとうござる。拙者の旅は急ぐものではござらぬ。故国の皇(=レアガルド領主)への謁見こそが最重要事項でござろう」
「ありがとうございます、ひまり。……アレット、運転をお願いします。アクシス隊長、旅荷物を雑で構わないのでまとめてください。ピエリーナも、構いませんね?」
「了解ッス!」
「了解!」
「旅支度は、すでに整えてございます」
「はいなのです!」
一同の返事を受け取り、空は踏み出す。
「ただいまお伺いいたします。レアガルド王国領主、『ライノック・レアガルド』陛下」
空たちを乗せた車は走り出す。
去り行く車を見つめながら、アシュレイは小さくつぶやく。
「あんな顔するようになったんだ……」
そんなアシュレイに、アクシスは尋ねた。
「どういうことですか?」
「あの子、クーちゃんはね、記憶喪失の状態でアルミスセントラルに流れ着いたの。その時は食べることにしか執着しなかったほぼほぼ無表情の子だったのに、旅に出る前と今とでは感情の現れ方が大きく違う。そして戦い以外であんなに険しい表情をするようになったんだなぁって。クーちゃんの過去がちゃんと見つかるかは分からない。でももし過去の自分を取り戻せなくても、今こうして旅の仲間に恵まれ旅ができている。カリオストロ協会に目をつけられても、助けてくれる後ろ盾がある。大丈夫。あの子なら自分の旅を素敵なものにできる、そう思うのよ」
そしてアシュレイの考えるところは。
「人生って、それだけでめんどくさい旅じゃない?」
「……ふふっ。詩人でいらっしゃいますね」




