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第八章 王家の加護と迷惑な武人 ~レアガルドの国王陛下に謁見です。~

 アッシュランド州よりさらに北。

 レアガルド王国中央、『レアガルド州』。

 二日飛ばしてやってきた王城は、巨大かつ堅牢な城壁に囲われ周囲には大きな堀もある。城壁の形状は『角が鋭くない五芒星』がふたつ重なったような『稜堡式城郭』。「独特な形状」とつぶやくピエリーナに、空は「これが大昔に考案された城塞の建造方式だ」と説明した。

 要人専用の馬車を停めるための駐車場を、習わしで『厩舎』と呼んでいる。厩舎の番人にアルミス辺境伯の紹介状を見せて蒸気駆動車を停車、同じように城郭の番人にも紹介状を見せて門をくぐり、国王謁見の許可が届き次第入城した。

「素敵な庭園ですね。まるで美術の世界に迷い込んだようです」

「あははは、空は詩人ッスねえ。その通り。ヤマトや大岑など東洋では自然を敬い自然を重んじる道を選んだッスが、レアガルドなどこのあたりの国々では王の力を以って自然すら支配すると言う考えが昔から続いてるんッス。こうしてきれいに整えられる庭師を雇えるか、庭園でお茶会を開くにあたり美味な紅茶が淹れられるメイドを雇えるか、それらも王の力次第ということッスね。王は絶対の存在なんッス。政治以外では」

「『政治以外では』? むしろ政治で最強であらねばならないのではないですか?」

「現在、レアガルド王国は『立憲君主制』のもとに政治が行われ、王は王国議会の議員のひとりでしかない、そんな立ち位置なんッス」

「そうなのですね。政治に関しては座学ではあまり習わなかったもので」

「そうなんッスね。今度、軍ではどんなことを習うか聞いてみたいッス」

「話せる範囲でお話ししますね」

 城は広く巨大である。歴代国王の自邸であるばかりではなく王国議会の議事堂でもあり、メイドや執事などの仕事場であり、住み込みの従業員の住まいでもあるのだ。

 謁見に際する四人の服装だが、空はドレスシャツにジャケットにロングパンツというフォーマルな軍服、アレットは深紅のゴシックドレス、ひまりは赤い着物に桜柄の帯、ピエリーナはピンク色のフリルドレスと、誰もが上品に着飾っていた。

 兵士が玉座の間まで案内すると、数人の兵士が並ぶ程度の護衛の下、国王と思われる冠をかぶった男が玉座に座して出迎えた。

 四人はレッドカーペットの上にひざまずき、代表して空が挨拶する。

「国王陛下。この度は謁見の機会を頂きまして、誠にありが」

「いや、いい。そんな堅苦しい挨拶はなしだ」

「えっ?」

「皆の者。面(おもて)を上げ、楽にして構わん。我こそは第二十一代レアガルド王国領主、ライノック・レアガルドである」

 国王ライノック・レアガルド。

 波打った長い髪と立派な口髭、鋭い眼光を放つも穏やかな目、古くから続く立派な赤い騎士装束の上に赤いマントに杖といういでたち。指輪などのアクセサリーはないが、杖と頭上の王冠が彼が王であることを示している。

「アレット・ドイル。久しいな。今は何をしている?」

「はっ。お久しぶりにございます。自分は今、この一団の代表である呉空とともに世界のグルメと美観を求めて旅をしてございます。探偵業は、立ち寄った町で人生相談などの臨時窓口を開く形で行っております」

「なるほど、面白い。祖国発祥のバーティツの腕はどうだ?」

「稽古は欠かしておりません。それと、空の珍しい武術を参考に新しい技を開発したばかりでございます」

「うむ。では呉、ドイル。それぞれの武術を披露してみせよ」

 技の披露のために用意されたのは、護衛の兵士であった。

「我こそは王国騎士団歩兵隊隊員、カーネル」

「八極門、呉空。お手柔らかにお願いします」

 騎士カーネルの武器は剣、空の武器は同じリーチの短槍『杖(じょう)』。

 カーネルが剣を振りかぶった瞬間、空は右足と右手に持った杖を同時に繰り出し、それなりに開いていた距離を一気に詰めた。

「なっ!? お前、今ワープでもしてきたのか!?」

「八極拳『絶招歩法(ぜっしょう ほほう)・箭疾歩(せんしっぽ)』。ワープでもマジックでもありません」

「マジか……。負けた、降参だ。訓練のメニュー倍にさせられるぞこれ」

 次にカーネルの相手をしたのは本命のアレット。彼女もまた、空が使った杖を武器として持つ。握る位置は杖の中央、前方の先端を地面に向けた状態で構えとする。

「戦いが本業じゃない探偵に負けたら大恥だ。行くぞ!」

「はいどーぞ!」

 アレットが繰り出したのは、アリュールの陸軍の拘留所の中で空に試した新技。杖の石突き側でカーネルの剣を弾き、グリップ側を自らの右腕に乗せた状態で一周半した石突きの先をカーネルの右脇に突き立てる。そこは完全に死角になるため、寸止めではなくグイと押し当てる形で一本とした。

「マジか……今、何をされたんだ……!?」

「八極拳とバーティツによる『ミクスチャーマーシャルアーツ、ウィンドミル』。空が名付けてくれたッス」

 もともとは傘を武器とした、傘を手首のスナップだけで振り回す技。そこから技名のヒントを得て、空はアレットの新技に風車の名を冠したのである。

 その様子を見て、ライノックは拍手でふたりを称えた。

「いやいや、見事であった! しかし八極拳とは珍しき武術。アレットも新技と言いながら見事に使いこなしているのがよく分かる」

 立ち上がって拍手するライノックに、空とアレットは「恐れ入ります」と返す。

「さて、余興はこの辺にして貴君らに渡さねばならぬものがある。サンバー大臣、これへ」

 ライノックが言うと、王国議会の一員である騎士装束にマント姿の男・サンバーがトレーを持って四人の前に立った。

「陛下、これは何でございますか?」

 アレットが尋ねる。サンバーが持っていたトレーには、四本のショートソードが乗っていた。

「各々それを取り抜くがよい」

「はっ、仰せのままに」

 アレットが先に取り、空たちも続く。鞘、そして抜いた剣身には、レアガルド王家の紋章が箔押し、および刻印されていた。しかも呉空、アレット・ドイル、河上ひまり、ピエリーナ・マルゲリータの名もその横に刻印されていた。これが意味することとは。

「そのショートソードを受け取ったこの瞬間より、貴君ら四人を我がレアガルド王家の重要客人と認定する。すなわち今後何が起ころうと、貴君らを王家が庇護すると言う証である」

「こ、こんな素晴らしいものを……! ぅぉお、お聞かせください陛下! おそらくはカリオストロ協会から自分らを守ってくださるための温情とは思うッスが、なぜここまでしてくれるッスか!?」

 アレット、いつもの口調に戻るほど同様している。

「うむ、答えよう、アレット・ドイル。だがその続きは茶でも飲みながらな。その剣を持ち、庭園に来るがよい。メイド長リューン、紅茶と茶菓子を用意せよ」

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