第七章 いわれなき囚人たちの華麗なる(?)日々 ~オリジナルバーティツ技、開発ッス!~
翌朝。
陸軍アリュール分隊長アクシスが部下に「変な囚人がいます!」と言われて朝早くから駆け付けて見れば、大変なことになっていた。
「……お前たち、何をしている?」
変な囚人のひとり、空が答えた。
「訓練です」
拘留所の中で、空、アレット、ひまり、ピエリーナの四人が一定の距離を置いて立っているのだが。
「それの、どこが、なんの、訓練なのだ……?」
「戦闘です」
空は左拳を前に右拳を腰に添えて中腰の姿勢になり、アレットは右手に取った枕を頭上に掲げて左拳を前に構え、ひまりは両手で柔らかな手刀を構えて静かに立ち、ピエリーナは両手共に人差し指と中指を伸ばした拳を眼前と頭上に構え、互いににらみ合っている。
「どう見ても『カッコつけ我慢大会』にしか見えんのだが……?」
「であれば説明します。我々は今、八極拳、バーティツ、合気柔術、ガン・カタの構えを取り、それぞれの頭の中でシャドーファイトしている最中なのです。以上。尋問や釈放、食事の用意など無き限り、我々の邪魔をしないでいただきたく思います。有効であるならば、陸軍中尉相当非常駐兵の立場を命令行使に使いたいと思うのですが」
「はっ! 仰せのままに、中尉! おーいさっさと朝食をご用意しろー!」
朝食は一時間後に用意された。それまで空たち四人は、たまに構えを変えながらシャドーファイトを繰り返す。
その日の昼。
「はい? 傘をご所望ですか?」
ひとりの兵士が唖然となった。
「そッス。どうせ傘一本じゃ脱獄にも使えないッスし、戦闘訓練の道具として工面できないッスかね?」
「はぁ……。上に掛け合ってみます」
アレットの背後には、陸軍所属者を示す左腕の腕輪を掲げた空がいた。これでは軍人が逆らえるわけがない。
傘が届くまで、空はアレットに尋ねた。
「傘なんて、雨も太陽光も届かない牢屋で何をするのですか?」
「いえ。実は空の槍の扱い方にちょっとインスピレーションを受けてッスね。自分の武術バーティツは、徒手空拳から兵器術まで様々な武術のエッセンスを取り入れて発展してきた武術なんッスが、空の戦い方をバーティツに取り入れられないかって考えたんッスよ。傘が届いたらちょっとお付き合い願えないッスか?」
「それは構いません。わたしもアレットの思い付きには興味がありますから」
傘が届き、アレットはそれを振り回す。彼女たちの行動が気になるのか、陸軍の兵士もその様子を見る。
「兵士のお兄さんもよく見とくッスよ。まずバーティツの傘を使った棒術は、傘の柄を右手で持って頭上で掲げ、その際に傘の先端『石突き』は相手の側面を向くんッスが、それは敵の正面に向けると左右どちらからの攻撃も可能にさせてしまうので、あえて右、すなわち相手の左に傘の先を向けることで反対側からの攻撃に誘導するんッス」
「なるほど」
空は室内清掃用の箒を手にアレットと対面している。
「そしてこう。相手が武器を繰り出そうものなら傘をこう振り回し、左手も同じような動きをし、白鳥が優雅に羽を広げるよう両手を展開しつつ相手の後頭部を打つんッス。まあ相手が背の高い男性の場合、自分はどうしても左耳を打ってしまうんッスが」
アレットが持つ傘は、空の左耳にぴたりと当たる。
「そしてこの先も連続コンボ技を展開してゆくんッス。さすがにレディーの細腕と軽い傘では攻撃力が低いんで、一度相手をひるませたら一気に畳みかけて滅多打ちにするんッスよ」
「それが紳士淑女の武術、バーティツなのですね」
「そッス。紳士淑女は普段から武術の世界に生きていないもので、どちらかと言うと政治や商売などの世界に生きている、そして淑女は旦那の帰りを待つ、客人の接待、パーティーに顔を出す、などが主ッスね。自分だったら探偵業ッス。だから空のように、一撃で相手を沈める攻撃力をあまり持ってないんッスよ」
「そういうことなのですね」
「で、自分が空の槍術を参考に考えた技を今から検証するッス。空、その箒で自分を攻撃してほしいッス。あくまで新技の検証なんで、本気出されると困るんッスが」
「分かりました。では基本の突きから」
アレットは傘の柄から中央にある留め具のあたりに持ち替え、バーティツの基本の構えではなく仁王立ちとなる。そこから傘を手首の動きだけで回しつつ空の右腕に傘の先を滑らせて空の攻撃をいなし、傘全体をぐるりと返しながら一周した傘の柄を空が武器として振り下ろした箒の柄に絡ませる。
「あっ」
「さらに自分が右足を引いて『回れ右』すれば武器を奪え、腕であれば相手を引き倒すことができるッス。そこから連続攻撃につなげてゆくッスが、このモーションをさらに変化させると」
先ほどの攻撃を再度繰り返す。今度は傘の柄は空の体を通り過ぎてアレット自身の右腕に乗り、一周半した傘の先は空の脇腹を狙う。
「こうしてさらに自分が一歩踏み出すだけで傘の先は空の脇の下をえぐるって技ッス。どうッスか?」
「面白い発想です! 八極拳をこうしてバーティツの技に応用していただけるとは、とてもうれしいです!」
「こちらこそ。もうちょっと技の特訓に付き合ってもらってもいいッスかね」
「構いません。ところで、技に名前はあるのでしょうか?」
「そうッスね……。拘留所で考えた技なので、『ジェイル』とかどうッスかね?」
その技名案には、誰もが困った。




