第七章 いわれなき囚人たちの華麗なる(?)日々 ~アルミスの陸軍の連中の趣味はマニアックス過ぎるッス。~
その後。
「……中尉。それにお連れの皆さま。刑務所暮らしを楽しんでいらっしゃいませんか?」
陸軍隊長アクシスが呆れるのも無理はない。
空たちは食事の時間以外を戦闘訓練やシャドーファイトに充て、旅の思い出話に花を咲かせ、トランプでのババ抜きや神経衰弱、連想ゲームを楽しみ、ひとり気分が乗らないとその日はみんなでだらけることを決め、軍で出される料理に飽きれば通帳から引く形で出前を頼み、時には酒すら届けさせる。その飲食ゴミを片付けるために格子の外に出ることは許されるが、鼻歌を奏でながら牢に戻ってゆく囚人など見たことが無いので呆れもする。
「そうでもないですよ。日光が届かないのは不調の原因になりますし、観光もできません。何よりおいしい食事は、出前よりも店でいただくのが何より楽しいのですから。これでもカリオストロの妨害が解決されるのを今か今かと待っているくらいなのです」
「それは誠に申し訳ございません……。しかし先程届いた調査報告書によれば、王都では確かにアレット・ドイルの探偵事務所が運営されており、『所長ドイルはガーリーな少年』で、数人の探偵を雇っており自らは経営者のような立場にあるとのこと。実態がある以上は手も出しづらく」
「なるほど、アルミスセントラル分隊で皆さんがよく読まれているコミックの『男の娘』というものですか」
「どーゆーの読んでんだよアルミスの連中」
「しかし『実は可愛いボーイッシュな少女』ならここにいるのですよね。わたしの偽者はいるのでしょうか」
「おい、実はが余計ッス実はが」
「その報告も先程。少し前に着衣も荷物もない黒髪の女性の変死体が発見され、セントラルが発行した冒険者ギルドのFランクライセンスが落ちていたことから、それを『殺害された呉空』であると断じ、あなたを殺人と身分詐称の容疑にかけているとのこと。軍人でもない者が相当客人と言え軍人を名乗ればそれだけで重罪です。犯人を何としても突き止めねば、皆さんは永遠にここを出ることができなくなってしまいます」
「せめてひまりとアレットだけでも釈放してもらえませんか? もし我々が呉空とアレット・ドイルの偽物であると結論付けられた場合、彼女らに踊らされていたということで無罪放免もあるかと」
「可能ですが、そのような結末を迎えぬために尽力いたしますれば、もうしばらくのご辛抱を」
「分かりました。引き続きよろしくお願いいたします。ところで今夜はピザを頼もうと思うのですが、隊長もご一緒しませんか?」
「よろしくお願いいたします!」
それは心底嬉しいのか、上官からの誘いを断れないからか。
格子を隔てての食事会にはなったが、分隊の全隊員を集めての食事会は大いに盛り上がった。この日の食事ゴミの片づけは、門番として空たちの車を通した青年が担当した。
その夜。
就寝の準備を整えた空に、ネグリジェ姿のアレットが言う。
「いや~、空のおかげでいろいろ分かったッスよ!」
空の寝間着は相変わらずの質素なパジャマ、ひまりは浴衣、ピエリーナは猫の着ぐるみ型パーカーワンピースであった。
「わたしのおかげですか? 何かしたでしょうか」
「空が隊長を夕食に誘ったことがきっかけで、隊長が兵士のみんなを夕食に誘ったことッスよ。食費が軍持ちになったばかりじゃなく、兵士一人一人を観察して大きな収穫ができたッス! ここから先は声に出せないんで、『魔導通信用信号』で伝えるッス。ひまりとピエリーナには申し訳ないんッスが」
ふたりを見やれば、ひまりが頷く。
「それだけ重要なことなのでござろう」
「はいなのです!」
「んッス。空、手を」
相手の左手の甲に自分の右手の四指を添え、相手の左掌に親指を当てることで信号とする。
そして、アレットが気付いたこととは。
「丸刈りで背が高い男性兵士、階級は軍曹。鼻の穴にクモの巣がこびりついてたッス。あれはおそらく不衛生な場所にひそんでいた証拠。軍人たる者、身綺麗にしておかねばならず、濡れタオルか何かで体はぬぐったとしても鼻の穴まではケアできていなかったッスね。そして彼はそうなるまでどこにいたか? 床下じゃないッス、ここには地面の上にコンクリートを敷いているッスからね。考えられるのは天井。おそらく、この拘留所の天井裏から自分らを監視してたッス。脱獄や外部との連絡をしようとしていないか確かめるために。軍が自分らを完全に信用したわけではないのか、彼がカリオストロの回し者なのか。現時点では不明ッスが、後者と見るべきかと」
「なるほど。ではもう少し様子見を続けようと?」
「今はそれしかないッス。でも大丈夫。もうすでに外部に、伝えたい情報は流したッスから」
「何に気付いたのですか? あて先は?」
「アクシス隊長を介して、次の文章を王都へ送ったんっス。『国王陛下。私はかつてアレット・ドイル卿にとある事件を調査してもらったのだが、その者の調査報告と事実は違っていた。国王陛下には、王都所在の探偵事務所所長アレット・ドイル本人に、必ず本人に、損害賠償と事件の再調査の請求の代行を申請致す。アルミス州領主イフリクス・イオ・アルミスより。代筆:メイドのミザリー』」
「勝手に辺境伯の名前を出してよいのですか!?」
「国王陛下に届ける以上、中身は検閲されるはず。要は、自分の文章が陛下に届けばいいだけのこと。陛下には自分が保安庁諮問探偵になるにあたっての実力テストとして殺人事件の調査協力をするように言われた時に謁見しているッス。本物のアレット・ドイルに何かあったと陛下が知れば、何かしら動いてくれるはずッス。何も起こらなければここの隊長アクシスはカリオストロの回し者と考えるところっスが、今はアクシスが出してくれる手紙が陛下のもとに無事に届くことを信じるだけッス」
「そういうことであれば。では、ここしばらくは獄中生活が楽しめますね」
「あれ? 観光と食べ歩きができないとボヤいてたのはどこの誰ッスかね?」
「うっ。おなかと耳が痛いです」
信号による会話が済むとアレットは「もう終わったッスよ」とひまりとピエリーナに言い、全員で酒を飲んで眠りについた。




