第七章 いわれなき囚人たちの華麗なる(?)日々 ~旅立ってすぐお尋ね者なのです!?~
「見えてきたッス。あれが次のジグラスのある町ッスね!」
アルミス州より北に位置する州、アッシュランド州。
寺院のある州境の町、アリュール。
観光名所もご当地グルメも何もなく、「州境だけあって戦争の歴史に関する資料館があるらしい」とアレットは言うが、戦争に興味のない空もひまりもどう返せばいいか分からず、ピエリーナは「武術があったら習いたい、演劇やお祭りがあったら見てみたい」と言う。
そして防壁の南門に到着するのだが。
「失礼。保安庁諮問探偵のアレット・ドイル卿に、陸軍中尉相当非常駐兵の呉空殿のお車ですね。そちらの軍服の方が呉殿でよろしかったでしょうか?」
門番に聞かれ、空は「はい」と答える。
「呉殿には駐留命令書が届いておられます。命令発信元は、アルミス州領主イフリクス・イオ・アルミス辺境伯。連絡がつき次第使いの者を向かわせるので、ご一行様、あるいは呉殿には我々に宿泊地をご報告いただきたく存じます」
「分かりました。お勤めご苦労様です」
「はっ!」
門番は命令書を空に手渡して敬礼する。門番をしているのは陸軍アリュール分隊の伍長階級の兵士であった。
ハンバーガーショップ『ワイルドメリケン・アリュール支店』。
「空。一体何用ッスか?」
「さあ。ただ使いの者をよこし、わたしに必要なものを届けるとしか。それが何かが分からないと言うことは、書き記すことができない機密なのでしょう」
「なるほどッス。んじゃ腹ごしらえしたら冒険者ギルドに向かうッスよ」
「アレットの財布を軽くするためにも銀行にも寄りましょう」
「賛成でござる。支払いの旅に釣り銭が増え、腰からはジャラジャラと小銭の音が響いているでござるからな」
「お金たくさん持ってまーす、襲ってくださーい、って言っているようなものなのです」
「うぐっ……」
そして銀行で小銭を小貨や中貨に交換したのち冒険者ギルドへ。
冒険者ギルド・アリュールカウンター。
ギルド脇に車を停めて庁舎に踏み入った次の瞬間、それは起こった。
「囲め! 例の四人だ!」
「ドイル卿を語る偽者め、覚悟しろ!」
何と、大勢の冒険者たちが武器を空たちに向けて構えたのだ。
「は!? 自分の偽物!? あんたら何言ってるッスか!?」
「手配書が出回ってるんだよ。アレット・ドイルを名乗る偽者が近くの町で大暴れしたってな!」
冒険者たちが手にしているのは指名手配書。しかもアレット、空、ピエリーナ、ひまりの四人分用意されており、懸賞金まで掛けられていた。
「これはどういうことですか!?」
「解せぬ。だが我々はやましいことは何もしていないでござる!」
「そうなのです! 身分証を! 私は錬金術師で冒険者の!」
「双方待つッス!」
自分たちを囲う冒険者と、身の潔白を訴える空たちの間に、アレットが割って入った。
「ここの責任者にお目通り願いたい! 指名手配とあれば大人しく事情聴取に応じるッス!」
「吾輩だが?」
茶色のスーツに身を包んだ紳士に、アレットは伸縮棒と拳銃が収められたガンベルトを投げて武装を解除した。
「おいそこの鼻の下伸ばしてる男。まさか公衆の面前でズボン下ろすとでも思ったッスか? このヘンタイ」
冒険者ギルド、独房。
四人は別々に収監され、それぞれ事情聴取される。
「さて、アレット・ドイル卿。あなたが本物であることは、一度あなたにお目通りいただいている吾輩がよく知っております」
「ん? 所長、自分と会ったことがあるッスか?」
「はい、王都の殺人事件では冒険者としてあなたに事情聴取されました。しかし今はここの所長、そしてどうやらあなたはアレット・ドイルの偽者という扱いを受けています。現在本物は王都にて探偵業を営んでいるとされており、しかも探偵事務所も運営されているようです」
「そこまで分かってるなら、どうして自分らをこうして逮捕してるんッスか?」
「どうやらあなたは、誰かに陥れられたのでしょう。身に覚えは?」
「あー、あるッス」
するとアレットは、アルケモートでの出来事を詳細に話す。すると所長は「なるほど」とひとつため息をついた。
「どうやらそのカリオストロ協会とやらがあなたたちを脅威と断じて、あなたたちの存在を葬ろうと考えたのでしょう。しかしここに私がいてよかった。あなたたちの命だけは保証された、とまずはお考え下さい」
「了解したッス。あ、ところでお名前をお聞きしてもいいッスか?」
「はい。私、冒険者ギルド・アリュールカウンター長、略称は所長、名をオーガストと申します」
その後。
空、アレット、ひまり、ピエリーナの四人は、所持金と武器と車は没収されたもののいずれもオーガスト預かりであり、現金は全額通帳に入金することで現金が徴収される恐れはなくなった。
しかし四人を開放することはできず、ひとまずはギルドの独房から陸軍分隊の庁舎内拘留所(五人部屋)へと移された。ひまりとピエリーナは「軍もカリオストロの回し者ではないか?」と疑念を抱くが、拘留所のベッドに腰かけたアレットはそれを否定する。
「もしさっきの伍長のお兄さんが自分らを拘束するつもりなら、門番として何らかの理由をつけて車を停泊させ、戦力をそろえて戻ってくるはずッス。あるいはこれから先の行き先を尋ねて泳がせ、その間に仲間をその行き先に差し向けるとか。カリオストロが陸軍に潜り込んでいるかどうかはさておき、さっきのお兄さんだけは無関係ッスよ」
「おぉーっ、さすが名探偵なのです! 理解したのです。でも旅に出て早々お尋ね者なんて、これでは逃げてもアルケモートにも帰れないのです」
これから先のことを案じて腹痛にさいなまれたか、腹を抱えてピエリーナは自分のベッドに腰かけてうずくまる。だが、空は冷静にこの先のことを考える。
「……待ってください。カリオストロの目的はアレットの存在を葬ること。ではなぜ、無関係なわたしたちまで指名手配されてしまったのでしょう。ましてやひまりは旅の剣客、ピエリーナはカリオストロに立ち向かった時点で旅人ですらなかったはずですが」
「そこは自分も考えてたッス。空と自分には軍人相当客人と探偵と言う肩書があるッスから邪魔に思うのは当然。二人が狙われる理由として考えられるのは、カリオストロにとってただの意趣返し、あるいは純粋に戦力としての脅威と見ている可能性があるッスね」
その推理にひまりはなるほどと返すが、ピエリーナは「ただのとばっちりだ」と憤慨する。
「でっ! これからどうするのです!?」
腕を抱えてうなる一同だが、空が答えた。
「おいしい料理は生きる力。通帳から引いてもらう形で、まずは出前で何か頼みましょう」
「空さん!?」
「一理あるが、ブレないでござるな」
「……もー慣れたッス、空の食にかける意地きた……、情熱は」
「今何と言いかけました?」




