第四十三章 キングスレイのビジョン ~Force/thとHell-a-kles、コラボです!~
ジェニファーはマイクを掲げた
「新曲! 『A Fight For Freedom』! Carry on!」
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シルクの檻に閉ざされ 微笑みを強いられて
誰かの描いた未来を ただ演じていた
触れてはいけない願い 胸の奥で疼く
静寂を裂くように 鼓動が叫び出す
守られた世界よりも 本当の空が欲しい
震えるこの手で今 すべてを壊したい
This is a fight for freedom
運命なんて塗り替えていけ
繋がれた鎖を断ち切れ
心が導くまま
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ジェニファーが圧倒的な声量で歌うそれは、抑圧された心、鳥籠のような狭い世界、恋焦がれる外の世界、いっそ檻を壊して旅立ちたいという、しがらみに苦しむ貴族令嬢の悲痛な叫び。ジェニファーの美しい声が台無しになるほど荒々しい歌声は、彼女の心の内そのものであった。
若者はただただ新しい音楽に酔いしれ、伊織が配った『魔導シャイニングブレード』を振り回して会場を彩る。ライノックは落ち着いて賓客席からライブを見守るが、腕を組んで指でリズムをとっているあたり純粋に楽しんでいる様子。その様子に、彼の嫡男でありギムレー開拓プロジェクトリーダーであるフォレスト、彼の婚約者で空のメイドのヴィントもうれしそうだ。
貴族のお偉方には、初めのうちは受けがよろしくなかった様子。だが歌詞に乗せて訴えてくる『自由を求める戦い』に、次第に引き込まれるようになっていった。
キングスレイは、ヒビキ船首部からこのライブを見守り、見届ける。
「そう。ロックはただの大衆芸術ではない。包み隠さない本音を音楽にのせて解き放つことで、聞き手さえ強引に素直にさせてしまう、不思議な魔力を持った芸術。ただそこにある絵画ではなく、音に乗せて直接訴えてくるからこそ、ロックは強引に人の心に自らの存在意義を刻み込んでゆく。さあ、常識という檻にとらわれ続けることをよしとする頭の固いお貴族様方。若者の訴えを聞き、あなた方はどうお思いで?」
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This is a fight for freedom
偽りなど脱ぎ捨てて
傷つくこと恐れないで
“私”を解き放て
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アルビオンロックの荒々しいメロディーに乗せた自由を欲するという訴えに、リゾートの客たちは盛り上がる。しかも伊織から魔導ブレードを受け取った国王ライノックや、大名信音までそれを振り回して楽しんでいるのだ、貴族も彼らに続いて戸惑いながらもロックを楽しむ。
死力を尽くして歌い上げたジェニファー。そして四台の楽器も最後の最後に音を大炸裂させ、魔導ライトも黄昏のステージを色鮮やかに彩る。そして楽曲は最終局面を迎え、楽器たちは最後の大爆音を響かせて演奏を終えた。そしてリゾート全域には、ロックによって燃えつくされた空気が残響とともに漂っていた。
そして。
「うおおおおおおおお! アルビオンロック最っっっ高ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおっ!」
リゾートの客たちは一斉に声を上げ、ヘラクレスに声援と拍手を送り、口笛を響かせ、魔導ブレードを振り回してヘラクレスをたたえた。ライノックも深くうなずきながら手を叩き、信音も「この荒々しい洋楽も悪くはない」と評価する。
ジェニファーを吊っていたクレーンは下がり、ジェニファーは空中でオレンジ色のドレスを脱ぎ捨て純白のワンピースに身を包んだ姿でステージに降りた。曲が終わってなお客を驚かせるこの演出には、誰もが「天使が舞い降りた」と口にした。
「ヘラクレスの新曲、A Fight For Freedomでした。イハトヴ社長にしてこのライブの主催者である呉空様には出演の機会をいただきましたこと、皆様におかれましてはレアガルドに馴染みのないロックをご清聴くださいましたこと、心から感謝します。すべての人に、ありがとうございました!」
ジェニファーがお辞儀をし、観客は誰もが拍手を贈る。だがひとり、キングスレイに連れられたジョージ・ライズだけは不愉快を隠そうともしていない。
その空が、ステージ上でジェニファーに言う。
「ジェニファー・ライズさん、素晴らしい歌でした。またヘラクレスのメンバーの演奏力の高さもお見事です。あなた方の楽曲には人の心に強く訴える者がありました。今後はぜひこのレアガルドでもアルビオンロックを広げていってください。今は難しくとも、遠い未来で人々の心のよりどこりとなり、文化として根付くでしょう」
「ありがと、社長さん。……さて?」
「ええ。ここから先は、ヘラクレスとフォーシスの競演。皆様、燃え尽きる覚悟はできていますか?」
空は観客たちに問う。さすがに誰もが落ち着きを取り戻したようで、貴族たちは拍手で返し、庶民たちは口笛と声援で返す。
「それではここからはスペシャルコラボ。お送りしますはバーで流れていたらきっとムーディーな一曲、魔王ディリゲント様による『美酒に溺れて眠りたい』。そして癒し系ヤマトロックからRAMAR様による『Wild Flowers』と、フォークソングから高木大丈夫様による『この世界は愛で溢れているだろう』。最後の最後まで、お楽しみください!」
空とジェニファーによるMCの間、ステージではアレットがバイオリンを、ひまりは琵琶を構え、ピエリーナはチェロを置いて『サウンドボックス』にかけ、ヴィントとフォレストがダブルギターとして参加した。観客の中には「えっ? 王子様が!?」と騒ぐ者もいたが、フォレストは王族らしく堂々と手を振って応じた。
そして響くムーディーな旋律。続く癒し系ヤマトロックとフォークソング。一気に会場の空気を爆発させたヘラクレスの曲と打って変わって、ジェニファーと空の歌声は貴族庶民問わず多くの人の心に癒しを届け、アレットたちの演奏はレイクサイドミニリゾートの夜を彩る。すべてのプログラムが終わり、空の挨拶を以ってスペシャルライブは幕を閉じた。
ライブが終われば、その先は社交場。
貴族庶民問わずライブを楽しんだ者は「さっきの出し物は本当に良かった!」とイハトヴの料理とともに盛り上がる。空は「さっきの歌をもう1回!」とせがまれてアカペラでステージで歌った歌を歌う。そしてジェニファーは、キングスレイのもとへやってきた。キングスレイはライノックと信音と談笑していた。
「おかえりなさいませ、ジェニファー嬢。素晴らしいステージでしたよ」
「ありがとうございます、ミスター・ドイル。あたしも最初は不安でしたけど、こうして皆さまに」
だが、そんなジェニファーの言葉をジョージが怒鳴って遮った。
「ふん! あんな騒々しいだけの何が音楽だ。あんなもの薄暗いステージで細々と楽しんでおけばいいものを、ミスター・ドイルに呼ばれてきてみれば国王陛下もお越しのリゾートでのライブだったとは思いもしなかった。こんなもの、ライズ家のいい恥さらしだ!」
「パパ! それはせっかく拍手をくださった陛下や皆さまに対する!」
だがそのような場の空気を壊すような親子喧嘩を、リゾートの客が許さない。
「まあまあ! ロックのお嬢ちゃんもこっちに来て飲みなさい!」
「ロックだけに『ワイルドターキーオンザロック』ってなぁ!」
「領主様と一緒にさっきの歌頼むよ。ついでにお酌も。な?」
「えっ? あっ? ちょっと? ちょっとー!?」
ジェニファーは男爵家の男性に強引に連行され、ついには空と一緒にまた歌う破目になった。これにはジョージも唖然。ジェニファーは一家の恥さらしどころかすっかり人気者である。
そんなジョージに、キングスレイの父アーサーが言った。
「一昔前なら、私もあなたと同じ意見でしたよ」
「サー・ドイル?」




