第四十三章 キングスレイのビジョン ~飛び入り参加のロックバンドHell-a-kles(ヘラクレス)、熱唱です!~
食後の皿をイハトヴに従事する子供たちが回収した後。
湖上ホテル・ヒビキに、キングスレイ(やはりドレス姿)がやってきた。そして彼のそばには、ジェニファーを一人とするアルビオンロックバンドのメンバーがいるのだが。
「皆様、なかなかに派手でいらっしゃいますね……」
空は開口一番、自己紹介も忘れて感想を述べた。
そんな空に、キングスレイが言う。
「ああ。でも彼らの演奏はきっと、このリゾートの観客たちの心に響くだろう。決して彼らの歌に害意はない。今日はよろしく頼むよ」
「ええ。では最初で最後の段取りの調整と参りましょう」
その後もステージは続き、ステージの合間合間にリゾートの利用客たちは出し物の感想を言い合う。リゾートの利用客にはキャンプ客の中には庶民もいるが、芸術に造詣のある者は貴族のほうから「君もあれが分かるのかね」と言い寄って盛り上がる。
料理においてはアルケモートの大衆食堂が出張食堂を開き、ヤマトや大岑の屋台がずらりと並び、多くの人に大陸東方のグルメを提供し、客たちは美味あるいは珍味に唸る。フォーマメント州も負けてはおらず、開拓中の村ギムレーからはクマやイノシシのステーキ、ギネー草のポーションティー、畑の恵みと裂き鶏肉の新鮮サラダなどを提供した。特にクマステーキは国王ライノックもうなるほどで、「陛下がお認めになったのなら!」と庶民貴族問わず求めた。
そして冒険者バンド血の洗礼の演奏中、ヒビキの甲板から見下ろす空とライノックに信音と伊織が声をかけてきた。
「久しいの、お主ら」
「あっ、ご無沙汰しております、信音公、伊織陛下」
「かしこまるな。して、どうじゃった? 先程の飛び入り参加は」
「はい、とても楽しませていただきました。ボケとツッコミの掛け合いとハリセンの一打は、笑いをこらえきれないほどに。しかし、予定にあった『バカ&アホ』はどうなさったのですか?」
「ああ。『ハン民国』で食べた料理に中ってしまってな。祝いに向かうはずの童らが急遽出演という運びになったわけじゃ。台本はバカ&アホから譲り受け、それを列車内で練習しているうちに魔導通信で連絡を入れるのをすっかり怠ってしまったというわけじゃ」
「そうでしたか。あとで手紙を書きますので、バカ&アホの所属をお教え願えますか?」
「あやつらが入院しておる病院まで、帰りがてら童が直接届けてやろう。さて? お主らの出し物のほうはどうじゃ?」
それについては、キングスレイとアレット、そしてジェニファーたちが練っている。空は、プログラムが無事に進行していることを確かめつつライノックとこれから先のことについて話し合っていたところだ。そして、ライノックは空たちの話に一区切りついたところで血の洗礼を評価する。
「空。あのバンドはどこで拾ってきた? ロックでありながらなかなか美麗で、貴族の晩餐会に呼ばれていそうだな」
「はい。彼らはビジュアル系を名乗っているらしく、叙事詩的な歌詞とクラシカルな旋律が特徴のジャンルです。最近ではそれこそシュトラルラントの宴席に出て以降、男爵家や子爵家から引っ張りだこらしいです」
「商売繁盛でなにより。ロックというジャンルはわが国ではあまり聞かん。ここらで大衆芸術として取り入れてみよう。血の洗礼もだが、お前たちとのコラボレーションも楽しみにしているぞ」
そう言うライノックに、信音と伊織も「童もじゃ」「バカウケ間違いなしだね」と胸を躍らせる。
陽が沈んできたころ。
ヒビキ船体左舷に多くの魔導ライトがともり、ステージ下のライトとともにステージを照らす。弦楽四重奏団『シュピーリア』のステージが終わるとともに、音響魔道具の撤去と空たちのバンドForce/thのための機材が運び込まれてゆく。その運搬人員の中にはボルタがおり、株式会社パワードの同期や後輩たちが「頑張ってるねえ!」と声をかける。
フォーシスの方向性としては、ロックではないがロックバンドに構成が近い。アレットによるバイオリン、空によるボーカルと『ショルダーベース(構え方はロックで使われる魔導ベースに近い)』と、ピエリーナによるチェロ、ひまりによる琵琶と言う『四弦楽』で構成されており、歌は大衆芸術であるロックではなくオペラである。
空がオペラを歌えるのもこれまた陸軍によるもので、空はアレットと旅立つ前に『軍楽隊』のボーカルの代役を担当していたことがあった。本職の代理であるにもかかわらず空の歌は軍の人々に高評され、軍楽隊のステージも大成功を収めている。やはりアレットたちからは「アルミスの陸軍いろいろヤベェ」と評された。
空は、ベースを構えてステージに上がった。
「さて、開業2周年イベントにお越しの皆様。ライブとお食事は楽しんでいらっしゃいますでしょうか。皆様に心からお楽しみいただくべく、我々リゾート・イハトヴ及びギムレーは一丸となって力を尽くしてまいりました。しかし、その時間も次のステージで終わりを迎えます」
途端、リゾートからは「え~!?」と残念がる声が響く。まるでアイドルステージの最後の一曲が始まるかのような反応は、まさかこの短時間の内に伊織が調教したのだろうか。
「ですので、ご宿泊のお客様は力尽きるまで楽しんでください。お帰りの皆様はその余力だけ残して楽しんでください。今宵は燃え尽きるまで皆さまを熱狂させるでありましょう、素敵な『船のゲスト』を招いております。我々フォーシスと共演しますのは、アルビオン諸島連合王国よりはるばるお越しくださいましたロックバンド、『Hell-a-kles(ヘラクレス)』です!」
そして魔導ライトは、ステージの上だけではなくヒビキ左舷デッキをも照らした。そこにはいつのまにか、魔導ギター、魔導ベース、クレーン宙吊りグランドピアノとドラムセット、それを構える4人の男女と、地上と船を結ぶスロープの上には魔導インカムを頭にかけたオレンジ色のドレス姿のジェニファーがいた。
そして、ジェニファーはスロープの上で叫んだ。
「わたしたちの歌を! 聴けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええっ!」
インカムが拾った声はステージ横のスピーカらーから響き渡る。
そして、ヘラクレスメンバーは一斉に楽器をかき鳴らして大爆音を響かせる。ドラムは大地を揺るがし、ベースは音ですべてを殴り、ギターは空気を燃やし尽くし、ピアノは彩を添えつつ不気味な旋律で聞く人すべての心を縛り上げる。
それまで聞いたこともないロックに、イハトヴの誰もが驚きを隠せない。中には耳をふさぐ者もいるが、それに忖度してはロックではない。衝撃的かつ怪しいメロディーに乗せ、もう一台のクレーンに釣られ宙を舞うジェニファーはマイクを掲げた
「新曲! 『A Fight For Freedom』! Carry on!」
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シルクの檻に閉ざされ 微笑みを強いられて
誰かの描いた未来を ただ演じていた
触れてはいけない願い 胸の奥で疼く
静寂を裂くように 鼓動が叫び出す
守られた世界よりも 本当の空が欲しい
震えるこの手で今 すべてを壊したい
This is a fight for freedom
運命なんて塗り替えていけ
繋がれた鎖を断ち切れ
心が導くまま
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