第四十三章 キングスレイのビジョン ~ようこそ、イハトヴ2周年パーティーへ!~
翌週。
フォーマメント州、リゾート・イハトヴ。
この日は『イハトヴ・オープン2周年記念パーティー&スペシャルライブ』を開催していた。
いつもなら穏やかな空気の中で利用客が憩いの時を味わうレイクサイドミニリゾートだが、この日は大きく違っていた。
イハトヴの円形劇場にはライブ、演劇、ミュージカルを開催するために様々な楽団が利用している。今回もフォーマメント州の『キッズバレエ教室ペガサス』、シュトラルラント王国の冒険者バンド『血の洗礼』、旅の吟遊詩人『レイヴン』、弦楽四重奏団『シュピーリア』、そして空たちによる『領主陣バンドForce/th』による舞台や演奏がプログラムされており、昼食の間はヤマトからやってくるお笑い芸人による漫才と喜劇が披露される予定でいる。
キッズバレエ教室のプログラムが進行中、控え室代わりの湖上ホテル・ヒビキの食堂では、空、アレット、ひまり、ピエリーナ、そして進行役アシュレイが話し合っていた。
「さて、先日あの人騒がせ兄貴が魔導通信で要望してきたとおり、このどこかに『アルビオンロック』スタイルのバンドを組み込んでほしいということッスが」
「しかし演目の枠はすべて埋まってござる。どこかにと言われても、はてさてどこに組み込めばよいものやら」
「ええ。すべてのプログラムから1曲ずつ削ってもらったとしても、楽器の配置や撤去を考えれば、段取りにないことをすればそれだけもたつき、お客様方の不安をあおり、退屈な時間も増えるでしょう」
「一番手っ取り早いのは、領主陣バンド・フォーシスのプログラムを削るか、私たちの後に演奏してもらうかしかないのです。後者が一番現実的なのですが、私たちはそのバンドの実力を知らず、アルビオンロックというジャンルがお客様方に受け入れられなかった場合目も当てられなくなるのです」
うーん、とうなる一同。そこにアシュレイが意見した。
「『ライブジャック作戦』、どうかなー?」
「ライブジャック、ですか?」
「そ! 最後の領主陣バンドの途中でアルビオンバンドが乱入し、アルビオンロックを披露してもらうの。クーちゃんたちはお手並み拝見的な感じでふんぞり返って脇で鑑賞し、最後はポジションを奪い取って締めるの。どうかしら?」
これには、一同は「それもありか」とうなずいて熟考するが。
「いや、もっと慎重に行こう」
ブレスを抱きかかえたアルスが、食堂のドアを開いて言った。
「アルス。何故ですか?」
「そのアルビオンロックというジャンルは知っている。それは貴族ではなく平民の音楽で、アルビオンのいまだ縮まらない格差や横暴な貴族、その他世の中の不平不満を音楽という形で表現した『大衆芸術』だ。それを上院議員のお嬢様がやっているというのはレアなケースだが、それが貴族や議会に対する不満の爆発であるならば、それを演奏させるこのリゾートの評判にもかかわる。……と、僕は愚考するわけだが」
「アルビオンロックをご存じのアルスの意見は、とても貴重ですね」
空はそううなずくが、アレットはまた別の視点から切り込んだ。
「自分もアルビオン人としてそこは承知しているッス。確かにロックは世の不満をぶちまける大衆芸術。またそれとともに、自由を認めろ、心を抑圧するな、と言う人権尊重を訴える人間賛歌の表現方法でもあるッス。また貴族がロックをやっている事実、それを兄貴が支援しているという実情を、自分らは真摯に受け止める義務がある事もまた宿命。以上のことから自分は」
プログラム表に、こう書き添えた。
「『共演』を提言するッス!」
キッズバレエ教室ペガサスの演目が終わり、次なるステージの段取りに取り掛かる。それもすべて何度も領主邸裏で練習しており、このリズムを崩すわけにはいかない。さらにステージは進み、ヤマトのお笑い芸人の登場なのだが。
「えっ!? 信音公、伊織陛下!?」
領主陣四人誰もが、リストにいるはずのお笑い芸人ではなくヤマトツートップの登場に度肝を抜かした。これにはすべての観客はもちろん、賓客席にいたライノックまでもが口をあんぐりと開けた。
トランペットの軽快な音とともに、信音と伊織は「やあやあ皆の衆」「やっほーみんなー!」と言いながら拡声魔道具マイクロフォンの向こうに立った。
「はーっはっは! リゾート・イハトヴ開業2周年記念パーティー&スペシャルライブにお越しの皆の衆、楽しんでおるか? 童らは領主陣やお偉方のそのような反応が見たくてずっと片隅で美食を堪能しておったわ。童こそ大倭皇国大名にして初代『皇国議会総理大臣』、織田信音である!」
「同じく、ヤマトのアイドル伊織ちゃんだよー。よっろしくー!」
尊大な態度の信音に対し、陽気やフランクを通り越したノリノリな雰囲気の伊織の自己紹介に、誰もが唖然となりながらまばらに拍手をする。
「さて、宴の舞台に立ったからにはお主らにヤマトの伝統芸『漫才』を披露してくれよう。伊織。漫才とはなんじゃ? 異国文化を紹介してやれ」
「漫才、それはみんながあたしをアイドルだって持ち上げて応援してくれることだよー!」
「……は?」
「こーんなに可愛いあたしが巫女さんとヤマトの皇帝やってるんだし、たまにはこうして外に出て愛嬌ふるまって歌でも歌って、みんなに喜んでもらえたら、まあ気恥ずかしいけどあたしも嬉し」
「それは違う、断じて違う! 『まんざらでもない』と言いたいのじゃろう、このボケ! えーこのように、基本的には二人一組となり一方がボケて一方がツッコミを入れるという手法が漫才じゃ。間違っても今こやつが懐から取り出した松の木が乗った小鉢『盆栽』でも、こやつが縄で引きずってきた卓の上にある料理『前菜』でも、領主邸裏から引っ張ってきた水道設備である『管材』でも、ましてやその管材を童の裃の襟に突き刺してあたかも童が盗んだように見せかける『冤罪』でもない! そして御覧のとおり、こいつは病気の次元で自分が楽しみたいことを好み、そのためには他人の迷惑など顧みぬ。こいつの暴動を食い止めるのは、悪友である童ももう匙を投げたものじゃよ」
「……諦めたら、そこで試合終了ですよ?」
「悪の根源たるお主が言うなぁ!」
権利が絡んでその名を口にすることはできない。
ステージが始まる前から始まっていた伊織の非常識っぷりは信音の軽快な語り口でリゾートの客の多くの人に受け入れられたようで、「そんな展開になるとは思わなかった!」「いいぞもっとやれ!」と好評だった。
信音と伊織はその後はきちんと台本通りの漫才を繰り広げ、人々を爆笑の渦に巻き込んで締めた。その際、相変わらずヤマトのアイドルを自称する伊織に対して信音が「いい加減にせぬか」とハリセンでひっぱたく様子がとどめを刺してさらに場は盛り上がった。
「これが、ヤマトの万歳……ッ!」
「いや漫才でござる」
ヤマトの笑いに賭ける魂に空は笑いをこらえながら震えあがり、アレットとピエリーナも抱腹絶倒して動けなくなってしまった。




