第四十三章 キングスレイのビジョン ~キングスレイさんによるカリオストロ関連の調査報告です。~
そんなジョージに、キングスレイの父アーサーが言った。
「一昔前なら、私もあなたと同じ意見でしたよ」
「サー・ドイル?」
アーサーはワイングラスをふたつ手にし、一方をジョージに手渡した。ジョージがやはり唖然としながら受け取ると、アーサーからワインを口にする。
「ご存じ、私はアルビオン陸軍の軍医とそれなりに売れている小説家でしてね。陸軍では勲章を、そして騎士爵を得た。それもあって息子と娘には騎士爵家にふさわしい教育を施してきたつもりだった。しかし息子は鍛えても筋肉はつかずいつまでも線は細く少女趣味で、一方娘のアレットは男勝りで正義のためなら喧嘩っ早く名探偵ホームズに憧れて探偵になり武勲を立ててここの領主のひとりにまでなってしまいました」
「はぁ……。しかし、妹様のほうはよかったのではありませんか? こうしてこの国の国王が足を運ぶほどのリゾートを経営するようになったのですから」
「ありがとうございます。しかしアレットだけではありません。キングスレイもまた自らのコンプレックスの克服のきっかけとなった大学の服飾部を事業に変え、それを自らのグループを立ち上げ、今の地位にいるのです。だから私はもう決めました。ジェンダーちぐはぐ兄妹になってしまったとしてもそれが彼らのすべてではない。彼らが思うようにのびのびと楽しく生きられればそれでいい。今はあの子たちの幸せが、私の幸せなのです。ですからライズ上院議員。どうか娘さんの『可能性の芽』を摘むことだけはお止しになってください」
そんなアーサーのそばに、ワインボトルを持ったヴィントがやってきて「ん」と差し出した。アーサーは二杯目のワインを口にし、ヴィントとともにステージで披露した歌を歌う空とジェニファーを見やった。
「確かに女性は家を存続させるために必要な存在です。しかしだからこそ、その人の立場や意思を尊重しなければいけません。それを軽んじるだけ心は離れてゆき、それどころか結婚に対して消極的になってしまいます。また、音楽を通じたよい出会いが待っているかもしれません。今だけでいい。娘さんの幸せを願うなら、娘さんの意思を尊重して差し上げてはもらえませんか」
「しかし……。はぁ」
そして、ジョージはため息をついてワインを煽った。
「国会議員の娘が反社会的音楽をやっているだけでも外聞が悪いのに、何を尊重してやればいいんだか」
『このご時世において』その認識が間違いだということに、この男は当分気付かないだろう。
社交場としてのイベントも終わり、イハトヴ社長である空の挨拶を以ってすべてのプログラムは終了した。リゾートには多くの蒸気駆動タクシーが並び、宿泊客ではない者は領主や従業員に見送られて帰宅。宿泊客はそれぞれのコテージやテントに戻って酒を飲み直す。湖上ホテル・ヒビキも出演者控室とされた倉庫などを元通りにされ、客室に宿泊客を迎え入れる。そしてその中にはライノック、信音と伊織、エリーゼ4世、セザール、ジーク&フレイヤ夫妻もいた。
だが、錬金術師ブランシュ・ローリエがヒビキにチェックインしようとした伊織を引き留めた。
「さ~て、ヤマトの女皇ちゃん? 注文のお品の代金だけど、延滞した分しぃーっかり利子付けて払ってもらうからね?」
ブランシュの背後には、請求書(大量の魔導シャイニングブレード受注によるものと、それの支払いに対する延滞によるものの2枚)を持った先代女皇の勇実が腕を組んで仁王立ちしていた。
「ひぇっ!? おっ、お母さん……?」
「さーてこれはどういうことなのかしらねえ、伊織? こんなの収支報告になかったんだけど?」
「えーっと、それは、あたしのお小遣いから」
「どう見てもお小遣いで足りるじゃないわよねえ? どう見ても最初から国庫だよりよねえ?」
「えーっと、それは、レアガルドとヤマトの今後の関係性のために必要な経費ってことで」
「今一瞬にして言い分が矛盾したけど? さてこのとんでもない額、どう工面する気なのかしら?」
「そっ、それは、国に帰ったらアイドル活動をして」
「勉強とお祈りとこの前の折檻が残ってるんだけど?」
「じゃあ、それまで延滞して」
「日に日に増えていく延滞金まであなたのアイドル活動で工面できるわけないわよねぇ?」
「そっ、それはこれからもっと努力して」
「巫女としての仕事以外にも引きこもり気味のあなたにそんな努力なんて認められません。
今回は国庫から捻出するとし、今後1年間のお小遣いの9割5分を削減。そしてこれまでなんて生ぬるいと思えるほどの折檻を覚悟しておきなさい?」
伊織と勇実の異常性を知る者はため息をついた。
これはもう名物のひとつだな、と。
「……ローリエ店長」
「なーに、領主様?」
「レアガルドの金銭による金勘定が苦手なアレットでお分かりだと思いますが、同じように支払い能力が疑わしい者には前払い請求でよろしいかと思います」
「そーしよっかな?」
だが、これで終わりではない。
フォーマメント州領主邸ホール。
空たち領主陣4人、メイドのヴィント、大使のアシュレイ、勇者アルスパーティー、4カ国の国王たち、忠八、そして伊織たちヤマトトップ3を集め、キングスレイはテーブルの上にカリオストロ協会に関する調査報告書をずらりと並べた。
「私は先日までS・D・セイントクリフ探偵事務所の社長として、カリオストロ協会の動向を探ってまいりました。
……最初は二宮航空力学研究所にかられた詐欺を未然に防いだことでしたが、妹のアレットたちもカリオストロとの戦いに巻き込まれていると知り、これは個人ではなく組織で動かなければならないと断じ、社長兼会長である私から会社に依頼を振る形で調査してまいりました。
そしてアレットの口添えもあり、我が探偵事務所はライノック陛下から調査依頼をいただき、陛下直属の調査機関と足並みをそろえてカリオストロの調査を進めてまいり、今に至ります。そしてその職務は現在、新社長のハロルド・バスターが引き継いでおります」
そしてキングスレイは、並べた調書のうち自身の右側にあるもの(最新稿)を手にして言った。
「これがカリオストロの動向の最新版です。
現在カリオストロ協会の本拠地であるカリオストロ錬金術研究所及び関連組織・取引相手の解体及び家宅捜索が進み、カリオストロ協会の力を一気に削ぐことができました。しかし問題がふたつ残っています」




