第四十三章 キングスレイのビジョン ~キングってあだ名、名前負けだよねぇ。~
時をさかのぼり、空とアレットがアルビオン観光(のはずが事件の捜査)をしている最中。
ハーモニカ倉庫22番倉庫近くのレストラン、『金龍紅華・セイントクリフ支店』。
大岑式の豪華な内装の店内の一角、宴会用ホールには多くの人が集まっていた。その中には忠八とキングスレイもいるのだが、この宴会の主役はそのキングスレイであった。
キングスレイは、薔薇をモチーフとしたドレスにヘッドドレス、レースの手袋に赤いハイヒールと『アルビオンの淑女』スタイルで決めていた。なお、薔薇のような日傘を手に持っているのは紳士のステッキに相当するのだろう。
今回の宴会は、宴会というよりは『キングスレイが保有する株式の売却譲渡会』。そのため集められているのは、キングスレイが経営する会社の重役ばかりである(キングスレイが経営アドバイザーを務めるのは忠八の会社だけである)。
「お集りの皆様。本日はようこそお越しくださいまして、誠にありがとうございます。私、皆様もご存じ『キングスレイ・ドイルグループ』代表その名もキングスレイドイルでございます。
この度皆様にお集まりいただきましたのは、各社で回覧板と朝礼でもお伝えしました通り、『株式会社二宮航空力学研究所』と『株式会社セイントクリフ・ドレッシー』以外の会社の株式を各社の代表者に譲渡・売却させていただくためです。よって自薦他薦外部雇用問わず、今日までに次の社長を決めていただく運びでしたが、お決まりでない場合はこの場で決めさせていただきたいと思います。
思えばこれらの会社は、私が世界中で誰よりも愛するアレットを守るために設立しました。カネを稼ぐことで金銭面においてアレットに苦労をさせまい。力と知恵を以ってアレットを脅かす者を排除せねばなるまい。その一心で、カネになる事業を、防衛力になる事業をと複数の会社を設立し経営してきたわけですが、たくましく成長した妹を見てもうその必要はないと思い、私の会社を志ある後進にお任せすることを決意いたしました。
本日の食事は、そんな私のわがままについてきてくださった皆様を少しでもねぎらえればと思い用意させていただきました。株式売却に関すること以外はもう無礼講。皆様、飲んで食べて騒いで、心残りなくお帰りいただきたいと思います。
長くなりましたが、これを以ちましてグループ会長挨拶と致します。ご清聴、ありがとうございました」
宴会場に拍手が響く。中には「ようやくシスコンを治す決意をしたか!」「社長/会長、お疲れさまでした!」とキングスレイを囃し立てる声からねぎらう声まで様々あった。
そしてキングスレイはヘッドドレスだけを脱ぎ、リボン付きカチューシャで髪を整えてセイントクリフ・ドレッシーの席に座った。そこには、大学一年の頃からの付き合いの社員たちが拍手で迎えた。
「女装なのにかっこよかったぜ、キング!」
「ありがとう、マイケル」
キングとはキングスレイのニックネームである。それだけ聞けばかつてのキングスレイであれば名前負けしていたが、今では立派なグループの代表、すなわち王である。
爽やかな青年『マイケル・クライトン』の隣には、今では社内結婚し彼の妻となった美女『サリー・クライトン』がいる。
「それにしても、あたしたちのサークルから始まった事業がこんなに大きくなるなんてね。キングくんをおふざけで女装させてなかったらこんなことにはならなかったよねぇ。人間万事塞翁が馬ってやつかな?」
「全くだよ、サリー。でもそれはサリーのデザインと裁縫の才能とそれを伸ばした君の努力、そして君を支えた宣伝部長マイケルと」
キングスレイはもうひとりの社員を見やる。ヤマトの素朴美女『ハルカ・ヤマモト(ヤマト名:山本遥)』だった。野暮ったいヘアースタイルと黒ぶち眼鏡という華に欠けるところがあるが、ものを見極める目は一流である。
「ハルカの目利きのおかげだ。僕ら四人でなければできない商売だった。誰かがいなければこうはならなかったよ」
仲間と話している時も、キングスレイは「僕」に戻るようだ。
「そうだね。キングスレイくん。始まりはサリーのおふざけだったけど、その、あたしも、キングスレイくんがドレス着たら絶対に似合うだろうなーとは、ちょっと思ってたり。何て言うか、あたし、『腐女子』だからねえ」
「それが卑下ならする必要はないさ。それに僕も、小さいころからのコンプレックスを克服できたのは大きかったからね。そのおふざけがなければ、僕は今でもジェンダーが凝り固まった父に男らしさを叩き込まれていただろう」
「あははっ。何それぇ~」
すると、キングスレイのそばにひとりの紳士が立った。
「確かに男らしさ女らしさはフォーマルの場では重要視されますが、その常識を撃破し、己の姿勢を貫いた会長だからこそ、我々もあなたについてこられたのです。ドイル会長。お疲れさまでした」
「ああ、ミスター『ハロルド・バスター』。こちらこそ今日までありがとう。そしてあなたが『株式会社S・Dセイントクリフ探偵事務所』社長に就任することをお決めになったようだね。私の後をよろしくたのむよ」
キングスレイは椅子を立ち、互いのワイングラスを掲げ合った。
その後もキングスレイのそばには、兵器製造会社『ドイルアームズ』、農家『ドイルファーム』、傭兵団『ドイルソルジャーズ』、宝石商『ドイルジュエリー』などの会社の新社長・現副社長などが彼をねぎらいにやってくる。まだドイルジュエリーは新社長が決まっていないようで、マイケルに「ちょっと席を外すよ」と言ってドイルジュエリーの席に行き、少しの面談の末に社長が決まった。
「では今日からあなたが社長です。私の会社をよろしく頼みますね、ザンバー社長」
細いフレームのメガネがトレードマークの女性、営業担当『ネメア・ザンバー』は、胸に右手を当てて頭を下げた。
「はい、ドイル会長。このネメア・ザンバー、誠心誠意、身を粉にして働く所存で」
「そこまでしなくていい。私は身勝手な理由でいくつも会社を建ててきたんだ。こんなちゃらんぽらんと比べるまでもなくあなたはしっかりしていらっしゃる。この先はあなたの思うがままに、会社を発展させていってくれ」
さて、キングスレイはセイントクリフ・ドレッシーの自分の席に戻り、なぜこのような株式売却と社長退任の意を決意したかを語る。




