第四十二章 探偵少女アレット ~汚職ブタ野郎なんぞ、成敗してやるッス!~
後日。
防衛庁庁舎前。
「副長官、大変です!」と叫んで駆け込んできた部下に応じてエクシディアが出てみれば、そこにはリヴィンストン長官、探偵のシェリングフォード、同じくアレット、依頼人ヴァーリング、そしてグレッグ・レストレード・Jr警部率いる警官隊が待ち構えていた。
「これは……! これはどういうことだ……ッ!?」
「さあ、どういうことだろうな、エクシディア『容疑者』?」
そう言い放ったのは、上官であるリヴィンストンであった。
「ちょっ、長官!? 私が容疑者ですか? 何の!?」
「とぼける気か? 決まっている。防衛費着服及びヤマト植民地化計画の容疑者だ。ちなみに今頃、貴様に賛同した、あるいは貴様が高額ワイロと脅迫で従わせた関係者のもとにもこのような逮捕令状が届いているはずだ。その中には今回の告発者クルム・ヴァーリングくんのご実家『株式会社ヴァーリング・アームズ』の社長『バリル・ヴァーリング』に対するものもある。クルムは議会内で大いに表彰されるだろうが、彼の実家である会社の経営が打撃を受ければ、それは防衛庁がなすべき国防任務に大きく影響する。さてこの始末どうしてくれようか」
「くっ……!」
肯定も否定もしないエクシディア。だがその悔しそうな表情がすべてを語ってしまった。
「だっ、だが長官! 何の証拠があってこのような暴挙に!?」
「悪をただすための行動を暴挙と言うか。であれば答えよう。先週、『大倭皇国植民地化計画書』と題された紙切れの一枚が王国議会庁舎の廊下で見つかったのだ。それを拾った下院議員が私のところに届けてくれてね、その下院議員を含めた私個人の人選による調査隊を結成し、その首謀者を逮捕し、その者の家宅捜索を行う、そのための令状を発行するに足る証拠を固めて今に至る。さあ、ここに逮捕令状と家宅捜索許可状が存在する。きみには大人しく降伏してもらおうか」
「そんな! でたらめだ! 計画書は一枚残らずファイリングしており一枚だけ抜け落ちるなどと、はっ!」
「ボロを出したな。レストレードくん、あとは任せた」
レストレード・Jrはエクシディアの両手を背後で拘束し、警官隊を引き連れ彼の屋敷へと踏み入っていった。エクシディアは「そんなことが許されてたまるか! 貴様ら訴えてやる!」と怒鳴り散らすが、そんなものが通るはずもない。
「であれば! せめて真実を! 計画書は完璧に保管していたはずだ! それをなぜ見抜けた!?」
ついにすべてを認めてしまったエクシディアだが、そんな彼にリヴィンストンは答えた。
「では条件付きで答えてやろう。警官たち、そこで止まれ。……条件だが、どうしてこの度、ヤマトを植民地化しようと思い至ったのだね? 今ここで真意を洗いざらい吐いてもらおう」
「そんなの決まっておりましょう、長官。すべてはこのアルビオン王国を偉大な国にするため、そして先の戦争の終結を機にだらけ始め、ついにだらけ切った全国の陸軍海軍の気を引き締めるためです。それに国をひとつ手に入れたとあれば、我々防衛庁の存在は国民に認められます。戦争終結以降、各国の国民は自国の軍事機構に対して何と言っているか分かりますか? 『無用の長物』ですよ。そう言われて悔しくはないのですか? 私は悔しいどころではありません。ゆえに、国ひとつ手に入れることで陸海軍の存在意義を改めて国民に知らしめる必要があったのです!」
「そうか。であれば正々堂々とこの私に言えばいいだろう。防衛費を着服し各方面に汚職の罪を背負わせ、挙句植民地化だと? それを『国の財産の私物化』と『侵略戦争』と呼ぶのだよ。侵略戦争がうまくいったためしはない。一度国を支配しようと、内側から滅ぼされて終わりだ。そしてアルビオンがこれまで仕掛けた侵略戦争の果てに何が起こった? アルビオンが掛けた高額の税金に苦しんだメリクス共和国は独立戦争を起こして我々を圧倒し、ヤマトよりはるか南の大陸にある『シドニア聖魔王国』も『海獣包囲作戦』によって海軍艦隊を沈める形で我々を退けた。すべてはアルビオンが傲慢であるが故のしっぺ返しだ。アルビオン人は己の傲慢さを反省しなければならない。だというのに、貴様はアルビオンとサンティーエの失敗を知ってなお新たなる植民地支配をしようと言うのか? 愚かと言う言葉では片付かんほど、なんと貴様は度し難いことか!」
「ええ。あなたのような平和ボケしたような方にわかってもらおうとは最初から思っていません。それで? どうしてこの計画が明るみに出たのでしょうか?」
「それは」
リヴィンストンは視線をアレットに向け、アレットがその先を引き継いだ。
「自分発案! 『噓から出た実』作戦ッス!」
「は? 何だそれは?」
「作戦立案者が説明するッス。ヴァーリングさんはあんたたちの計画を偶然知ってしまい、あんたたちを告発すべくその汚職の証拠を手に入れてほしいって師匠の探偵事務所を訪ねてきたんッス。防衛庁長官を交えて作戦を練り、あんたたちの動向を探れど尻尾は出さず。そこでわざとニセモノの計画書を師匠が作り、クルム・ヴァーリングさんが偶然拾ったってことにして大騒ぎしながら長官さんに報告し、それをもとに手始めにあんたの取引相手だったバリル・ヴァーリングさんの兵器製造会社を訪ねたんッス。
そこから先は芋づる式ってーのはこういうことを言うのか、ヴァーリング社長とともにほかのエクシディア氏の取引・ワイロ贈与・脅迫相手を当たり、エクシディア氏逮捕の日まで彼に協力し続けてほしいと頼み込み今に至るッス。反省する意志ある者は無罪あるいは微罪で済むだろうッスが、あんたみたいに意地汚い奴には今もなお見張りがついているッス。
さて、こんな小娘が提言した作戦に乗ってくれた師匠や長官さんや汚職取引相手の皆さんには感謝の念が尽きず、その作戦に見事に引っかかってくれたあんたは心から笑ってやりたいッス。あんたにはあんたの目的や目標があったんだろうが、他者を踏みにじって切り開ける未来はないッス! 正々堂々の道を行かなかったその行い、ブタ箱でしっかり反省しやがれ!」
アレットは探偵としてだけではなく、ひとつの事件を解決するに至る作戦立案者としても成長していた。弟子の成長と活躍に、師匠シェリングフォードは心から嬉しそうに笑った。




