第四十一章 その祝福は時を超えて ~我求めるは真実ひとつ。我重んじるは紳士道!~
セイントクリフ港。
やはり深紅のドレスとおそろいの靴に日傘と言うスタイルのキングスレイが待っていた。
一同が乗り込む船は、サンティーエ帝国北方サンクロワ行きの貨物船ムーンフェイズ。来た時と全く同じルートをさかのぼる。
「やあ、あの時のお母さんたち。と、そちらは?」
前に同じ船に乗ったムーンフェイズのクルーが、キングスレイを見て尋ねる。
「初めまして、以前は妹とその友人がお世話になりました。私、こちらアレット・ドイルの兄で2社の経営者をしておりますキングスレイ・ドイルと申します。以後お見知りおきを」
「はぁ……。って、兄? 男性です、か……?」
「はい。皆さん同じ反応をするんですよねえ」
当たり前だ。
空、アレット、キングスレイが受注した荷運びギルドのクエストは、前回と同じで積み荷のチェック運搬補佐と食事の用意と皿洗い。空は食事関連の仕事ができないため再び甲板清掃を手伝うことに。
3人は手渡されたチェックリストをもとに荷受け業務を完遂。空たちはアルビオンで知り合った人々に見送られ、輸送船ムーンフェイズはセイントクリフを旅立つ。
船旅の中、アレットはキングスレイに「実は空とふたり旅を始めた時もこんなことがあって」と話すのだが。
「と言うことは、そろそろ海賊との戦いが待っているようだね。ミステリーに次ぐ事件があるのなら」
「まっさかぁ! そんな簡単に海賊がこんな大型輸送船狙うもんかって!」
「それに海賊ならもう会っていますし、そして今から会いに行くのです。あのブローチの手掛かりを求めて。だから今は純粋に船旅を楽しみましょう」
「そッスね。しからば、自分はそろそろジャガイモの皮むきの時間ッス」
「私もだね。それでは空さんも甲板掃除頑張って」
「はい。それでは各々、業務開始ですね」
アレットとキングスレイは昼食準備と夕食の下ごしらえ。空は以前と同様に甲板掃除と、各種雑務も任されることになった。その間に娘のブレスを女性クルーに預けていたのだが、ここでもブレスは荷運びギルドやアルビオン&サンティーエ両海軍兵士に可愛がられていた。さすがに女児のおしめ交換は男性兵士には任せられない。
昼食の皿洗い後、空とアレットはデッキで八極拳とバーティツの修行。兵士たちが見ている中で気合も入る。時折船が揺れて足場が不安定になるが、海賊との戦いを想定するならそんなことは言っていられない。足をくじかない程度に修行は続ける。
海賊襲撃もなく、ムーンフェイズはサンクロワに到着。荷下ろし業務を完遂し、空たちは各々にギャラを受け取る。荷運びギルドのメンバーは、空たちよりもブレスとの別れを惜しんだ。
「ではキングスレイさん、わたしとアレットがアルビオンに渡る前に立ち寄ったバー、ボンソワールまでご案内します」
「ボンソワールか、聞いたことがある。サンティーエ語でこんばんはを意味し、海賊団としては海賊を狙う海賊、私掠船だそうだね。ある時期を境に唐突に私掠船稼業を廃したそうだが、まさかバーを経営していたとは」
だが、その時だ。
サンティーエ海軍の幌つきトラックが港に到着すると、そのうちの偉そうな男が何かの令状をムーンフェイズの船長(輸送ギルド長)に提示して言った。
「バカな! うちは郵便業だぞ!? アルビオン・サンティーエ両政府からの依頼を受けて」
「そんなことは分かっている。要件は貴様らが重要郵便物を略取している容疑がかかっていることだ」
「厳正な審査を受けての我がギルドだ。あんたらも軍ならきちんと調べなおせ、そんな事実はない!」
「だから今からこの船を押収して調べるのだ。文句は言わせん」
「だからその押収がありえないだろ。その間の我々の事業はどうなる? 船はいつ返してくれるんだ!?」
「そんなもの吾輩の管轄ではない。そしてこちらも公務なのでな。文句は言わせん。たてつくなら」
その時、海軍の偉い男は腰から拳銃を抜きギルド長の男に向けた。こうまでされてはギルドも黙らざるを得ない。
と思われたのだが。
「アレット?」
今から海賊バーに向かおうとしていた一同だが、アレットは空たちに何も言わずに海軍の一団に向かって行った。
「黙れ、この詐欺師が!」
今度はアレットが、海軍の男に拳銃を向けた。
「何? この私を詐欺師呼ばわり、だ……!?」
「ああ。忘れたくても忘れらんねえ、あんたのその忌まわしいツラはなあ!」
海軍の男はアレットの顔を見るなり酷くうろたえた。そしてアレットは、尋常ならざる憎悪に燃えていた。
「その赤い髪、その獲物を狩る鷹のような目! 貴様はあの時の小娘!」
「誰が小娘だバーロー。前にも増して肥え太ったブタのような顔、気持ち悪くて吐き気もすらあ。かつてヤマトに侵略戦争を目論み、その計画を阻止したあたしを殺そうとし、あたしを守ってくれた師匠をその手にかけた重罪人。『元アルビオン王国議会防衛庁副長官、現国家反逆囚、シルジエ・エクシディア』!」
海軍の偉そうな男は、何とアレットとは深い因縁のある犯罪者であった。
「なっ、なな、何を言っているのかな、この小娘は? 誰かと勘違いしていないかな?」
「あたしを見てなおすっとぼける気か? ちょうどいいや。聞いた話じゃ終身刑が決まったはずのお前だが、どうせ今は脱走か何かしてここにいるんだろ。だったらもっぺんブタ箱にぶち込んでやるから覚悟しろ! ……『我求めるは真実ひとつ。我重んじるは紳士道。咎人糺すも宿命なれば、罪と悪行、白日の下に』。そしてまた償わせてやる。名探偵アレット・ドイルの名に懸けて!」




