第四十章 其は正義に非ず、そして革命たりえず ~なあ答えろよ、レストレード!?~
「そしてその黒幕ジャバウォックは、最初から分かり切っていた……」
そう言って、アレットは拳銃を持たない左手の人差し指でその人物を指した。
「570ミリキュビトの警察官専用革靴の持ち主、倉庫のカギを粘土でコピーするだけの型取りに関する知恵と技術の持ち主。あんたッスよね、グレッグ・レストレード警視正!?」
まさかの人物を真犯人ジャバウォックであると断定したアレット。
その瞬間、レストレードは大きく目を見開いた。
彼が何か反論しようとしたが、ドレス姿のキングスレイがハンカチを手にアレットの隣に立った。
「皆様ご覧ください。これは押収品保管倉庫の鍵です。これを顕微鏡で見させて頂いたところ、模型用造形・型取り用粘土のかけらが付着していました。またこれと酷似したかけらが、倉庫の状の鍵穴から検出されました。レストレード警視正は現場の足跡などの各種痕跡を形あるものして持ち帰る技術に長けていると聞いています。さらに犯罪者の中には合鍵を立体的にコピーして鍵を必要とする出入り口や金庫を開けて求めるものを盗み出す手口を用いるものも多いと聞きます。犯罪者や犯罪の手口と常日頃接する機会のある警察官の誰もがそれを習得する機会があり、警視正、あなたもそのひとりと考えてよいでしょう」
アレットはさらに畳みかける。
「実は自分、あんたが真犯人だってことは早い段階から気付いてたんッスが、どこからだと思うッスか?」
「は? 何を出鱈目なことを。それ以前に根拠や証拠はあるのか? 貴様こそ実績欲しさに適当に私を犯人と決めつけて名を挙げようとしているのではないのか!?」
「『貴様こそ名を挙げようとしている』? それ、どーゆー意味ッスかね?」
レストレードはアレットの反論にたじろぐ。
彼の動揺は見逃せない。アレットはさらに言葉を紡ぐ。
「では根拠から説明するッス。
ご子息のJr氏は、メルカッシュの契約している倉庫から発見された570ミリキュビトの足跡のスケッチを見た途端に『この靴跡は警察官専用の靴のそれであり、その靴の持ち主は限られている』と口走り、それに思い当たる節があると自分は見たッス。そして先の新型飛行器アイビスの披露式典の時、自分はレストレード氏の姿をこの目で見ているんッス。探偵としての職業病なのか、あんたの体格、癖、靴の大まかなサイズ、歩いた時の歩幅まで、観察・記憶済みなんッスよ。
根拠はまだあるッス。
あんた、シャーロック・ホームズ氏の警視庁諮問探偵時代、氏から推理の内容をそっくりそのまま自分の調書に書き写して提出し、すべてを自分の実績としてシャーロック氏の事件簿に調書として残すことを許さなかった。それはすなわち出世欲の表れ。
あんた、自分にさっき『貴様こそ名を挙げようとしている』と言ったッスが、その言葉をそっくりそのまま返してやるッス。出世のために人の功績を我が物にし、おそらくここにいる誰も知らない事件さえも自分の実績にし、警視正にまで上り詰め、そして今盛大なマッチポンプを働いているわけッス。早ければ今日にでも、タイミングを見計らって、メルカッシュの悪行を自分が食い止めたと報告しようとしていたことは明々白々ッスよ。
では証拠ッスが、あんたの左頬に刻まれたフットボール用ボールを当てられたというその左頬の痣。子供が蹴ったボール程度でそんなにひどい変色は起こさないッス。それはノースポートで殺害されたメルカッシュの社員ともみ合った際に殴られたもので、あんたのその着衣や体、自邸にある服などを調べれば、近頃誰かと揉み合った形跡が出てくるはずッス。残念ながら治癒が進んでノースポートで死んだ社員の拳と頬のあざを照合することは困難ッスが、それが鮮明な状態であればそのあざの形状とノースポートで死んだ社員の拳の形を照合し、それが合致すれば、それはそっくりそのまま証拠になってたッスね。
それと、あんたの靴も、自宅にある分も含めて全部まるっとご提出願いたいッス。メルカッシュの倉庫に残されていた靴跡ッスが、空がそりゃもう画家かってくらいに細密にスケッチに残してくれているんで、あんたの靴と足跡を照合し、合致すればあんたがあの倉庫にいたという決定的な証拠になるッス。そしてその靴跡がジャバウォックの行き先やグスタフ運送のトラックにも残っていれば、そして行き先にあった泥や土まで靴やトラックから見つかったら、靴の所有者であるあんたをジャバウォックの正体として問うことができるんッス。
それと決定的な証拠は、まだご遺体に残されている銃弾、それに刻まれているはずの『ライフリングマーク』ッス。拳銃の螺旋溝には加工による癖ができがちで、その癖まみれの螺旋溝に沿って放たれた銃弾に刻まれたそれが、自らを放った拳銃を特定してくれるッス。すなわち、その拳銃の持ち主こそが殺人犯であることを示すんッス。それが警視庁備品の拳銃の螺旋溝と一致したら、もー言い逃れはできないんッスよ。
さあ、この真実に対する潔白をどう説明してくれるんッスか? ……なぁ、答えろよ。レストレード!?」




