第四十章 其は正義に非ず、そして革命たりえず ~なっ! 何をしてる(ん)だァ―――――ッ、分からんッ!(左拳)~
その昼。
港町セイントクリフ、警視庁庁舎。
同、大会議室。
アレットは『藁半紙』に油性マーカーで可愛らしい雰囲気のタイトルを描いて議論用ボードに貼り付けていた。タイトルは『ノースポートで起こった殺人事件の情報共有の会』である。
アレットに集められたのは次の通り。彼女の身内から空、アーサー(ジーンは空の娘ブレスとともに留守)、シャーロック。二宮航空力学研究所から忠八とキングスレイ。セイントクリフ大学からジェームズ・モリアーティー。株式会社メルカッシュから『社長モリス・メルカッシュ』。グスタフ陸運より『輸送ギルド長アドルフ・グスタフ』。警視庁よりグレッグ・レストレード&レストレード・Jr親子および警視総監『アーサー・ペンドラゴン』、見回りをしていた警備員。捜査協力者として地質学者アレン・ジャックである。
そして、インバネスコートの裾を翻してアレットは一同に言う。
「さて! 皆様をここにお招きしたのはほかでもないッス。ここに題した通り先日起こったノースポートでの身元不明男性殺人事件に関する話し合いの会……、『などではなく』!」
アレットはせっかく作ったタイトルの藁半紙をすべて引きはがしてしまった。
まさかのオープニングに、警視総監ペンドラゴンが左拳を掲げて叫んだ。
「なっ! 何をしてる(ん)だァ―――――ッ、分からんッ!」
「……警視総監はどっかの呼吸法使いッスか。
ヤマトの漫画のネタ発言はさておき、本当にお話しすべきはこれこそほかでもない、先日警視庁の押収品保管倉庫の搬出入口破壊に始まりメルカッシュ製武器関連品の強盗に至る一連の事件についてッス。
これについてすでにグレッグ・レストレード警視正率いる調査隊と、警視正のご子息であるレストレード・Jr警部率いる別の調査隊がすでに調査をしていたようッスが、残念、この名探偵アレット・ドイルの手にかかれば、こんなもの朝飯前どころか昨晩の夕飯前なんッスよね。これから皆さんにお聞きいただくのは、その事件の全容ッス!」
アレットは腰から拳銃を抜き、天井に向かって一発発砲。すると色とりどりのアークルの花火が咲き誇り、アレットの周囲を彩る。
そんなアレットに、胸の前で腕を組むレストレード警視正が鼻を鳴らす。
「ふん。レアガルドではどうだか知らんが、この『世界の中心アルビオン』でそれだけでかいことを口にしたのだ。場合によっては国外追放のみならず両国間の国交問題に発展すると思え」
「おー上等。何ならこの首差し出してやってもいいッスよ?」
そう言ってアレットは、自分の首に自分の拳銃を向けて引き金に指をかけた。それだけの覚悟があるということだ。
「ふん。では聞こう。貴君がどれだけ愚かな推理を自慢げに披露する様を」
「では御意のままに。その前に聞きたいんッスが、警視正。左頬の痣はどうしたんッスか?」
レストレード警視正の左頬は紫色の痣ができている。
「ああ。朝早くからフットボールの練習をしていた少年たちにボールを当てられてしまったんだ。その子たちは私の顔を見て逃げて行ってしまったがね」
「そッスか、了解。では真実を」
そしてアレットは推理を話し始める。
「まず押収品保管倉庫の錠ッスが、あれは外部から破壊されて犯人が侵入して武器を強盗したのではなく、首謀者ないしその関係者がトイレにひそみ、警備員さんの見回りをやり過ごした後で内側から開錠し搬出入口を開き、グスタフ陸運のトラックに積み込み、その後に搬入口破壊工作を行い、一度メルカッシュが契約している倉庫に立ち寄り、武器を輸出すべくノースポートに向かったんッス。
メルカッシュの契約倉庫に立ち寄った理由は、メルカッシュに罪を着せるためと言うよりは押収品にあった設計図や工具などを返却するため。ついでにまだ倉庫に隠されていた武器やそれに使える弾薬なども積み込んだ可能性もあるッス。
そう、メルカッシュもまた強盗と輸出に絡んでいたんッスよ。今すぐに家宅捜索令状を発行して本社社屋や契約している倉庫などにカチコミかければ見つかるはずッス。一度押収されたはずのそれらがね」
すると、メルカッシュのモリス社長はその場でひざを折ってうなだれた。
「ああ、そうだよ。先週だったかな、『ジャバウォック』と名乗る黒衣の男が行きつけのバーに現れてこう言ったんだ。『貴様がかつて失ったものを取り返してやろう。それをもとに新たなる武器を作り吾輩に売れ。応じれば業績上昇を約束するが、断れば私ひとりでもこなし、貴社に罪を着せても構わんよ』とね。それは取引ではない、脅迫だった。私はジャバウォックの話に乗るしかなかった。どこかでジャバウォックを裏切る機会を見出すまで」
「ジャバウォック……。自分も初耳の名ッスが、そのジャバウォックこそ黒幕にして真犯人。そしてジャバウォックは、この中にいる!」
アレットは端から端まですべての人間を見やる。それにはシャーロックもジェームズも愉快そうな表情を浮かべ、アレットの次なる推理を楽しみに待つ。
「さてくだんのトラックは、地質学者アレン・ジャック氏の分析の結果、惑わしの森を抜けてノースポートに向かい、ディンドンに立ち寄りグスタフ陸運まで帰ってきたッス。しかしトラックは港で武器を輸出するはずが、手前まで行っておいて武器の輸出をせずにUターンしたんッス。今朝、うちの兄貴がノースポートの海上輸送ギルドにコンタクトを取ったら答えてくれたッスよ、ヴィリーキィ帝国に輸出するはずの武器がやってこない、キャンセル料をちょうどクライアントであるジョン・スミスに請求したところだってね。
そこで起こったことは次の通り。トラックを借りていた人物ジョン・スミスは、メルカッシュの社員か首謀者ジャバウォックのどちらかによる偽名。二人一組になってノースポートに向かったのち、ジャバウォックはメルカッシュの社員を裏切り揉み合いになった末に銃殺したんッス。
その後はディンドンのどこかの倉庫に武器を隠し、現地でトラックを返してくれるための臨時ドライバーをカネで雇い、ジャバウォックは何らかの交通機関でセイントクリフに帰還しここにいる。ジャバウォックは最初から、メルカッシュを救済するつもりも、武器輸出商業をするつもりもなかったんッスよ」
まさかの真犯人の行動にざわつく一同。だが、ペンドラゴンがアレットに尋ねた。
「そんなことをして何になる? 闇に生きる者が金を目的とせず何を理由に動くというのだね?」
「ジョナサ……、じゃなくて警視総監。これは闇に生きる者の仕業ではなく、光に準ずる者の仕業ッス。ジャバウォックの目的は最初から忌まわしき武器の抹消とメルカッシュの撲滅、そしてその果てに得るものはカネではなく名誉。そう、ジャバウォックは名誉欲しさに、かつては汚職に関われど今は真っ当に生きる会社さえ食い物にしたんッス。そしてその黒幕ジャバウォックの正体なんぞ、最初から分かり切っていた……」
そう言って、アレットは拳銃を持たない左手の人差し指でその人物を指した。
「570ミリキュビトの警察官専用革靴の持ち主、倉庫のカギを粘土でコピーするだけの型取りに関する知恵と技術の持ち主。あんたッスよね!?」




