第五章 悪魔の仮面 ~挟み撃ちされそうです!~
マグは見えた。だがそこに到着する前に馬の集団に追いつかれてしまう。こうなっては車を止めて戦うしかないか。三人が三人とも覚悟を決めようとしていた、その時だった。
「ちょい待ち! あっちからも馬が走ってくるッス!」
マグからも一頭の馬が車に向かって走ってくる。しかもなかなかの速度を出して。
「挟み撃ちでしょうか」
「考えられるでござるな。……いや、それにしては様子がおかしい」
「そうッスね、馬に武装もしていないようッスし、武器は腰のショートソード二本。どう見ても暴徒の仲間による挟み撃ちではなさそうッス。……逃げろ! その先には暴徒集団がいるッス!」
だがエンジン音にかき消されてアレットの叫びが届くはずもない。馬は高速でアレットたちに向かってくるのだが。
「え?」
何と馬に乗る人物は馬上で右手を伸ばし、拳銃を空に向けて発砲した。この距離では当たらないと踏んでの威嚇射撃だろう。
「あれ、ヤカと自分の銃ッス!」
何と騎手はヤカ、拳銃はアレットの物であった。
馬は進路を左に変えた後大きく円を描き、アレットが駆る蒸気駆動車と並走。冷めた拳銃の銃身を持って、アレットに返した。
「案外おっちょこちょいの探偵なのだな。寿司屋に落としていたぞ」
「おっ、おぅ。感謝するッス」
「で? あれは何なのだ?」
「どう見ても殺しを楽しむ暴徒集団ッス。でも、こいつがあれば。空、運転を変わってほしいッス!」
アレットは助手席に後ろ向きで膝をつく形で座り、空が運転席に飛び乗ってハンドルを操作する。空の運転が安定したところでアレットはシートに腕を乗せて照準を合わせ、そのまま馬に向けて発砲。銃弾は見事に先頭を走る馬に命中し、馬が転んで後に続く一団を転ばせる形で敵の足を止めた。
「成功! 空、ヤカ、Uターンして敵陣に突っ込むッス!」
「了解しました!」
「承知」
敵と向かい合うことで敵の総数を確認。馬が五頭、二人乗りする馬もあったようで馬を駆る暴徒が七人。誰もが凶悪な装備をしている。
「まずい! 車が突っ込んでくるぞ、よけろ!」
「ランチャーでぶっ壊してやらあ!」
回避に徹する暴徒が多い中、ランチャー持ちの暴徒はそれでも蒸気駆動車を爆撃しようとする。だがそんな彼の腕は、切れ味の良い包丁で肉を切るかのように切り落とされていた。
「は?」
そしてその暴徒は車に弾き飛ばされてしまった。
「お前……、車に乗ってたはずじゃあ!」
回避が間に合った暴徒が、ランチャー持ちの暴徒の腕を切り落としたひまりを見上げる。
「ああ。お主らがしりもちをついている間に飛び降りたのでござる」
空もアレットも飛び降りており、無人の車はエンジンブレーキが作動してゆっくりと停止し、いななきを上げて立ち上がる馬たちはただうろたえて歩き回るばかり。そして武装する暴徒たちは頭をかかえて立ち上がるが、空、アレット、そして馬を降りたヤカが彼らの前にずらりと並ぶ。
「ってえじゃねえか、クソガキども! ぶっ殺してやる!」
「初めからそのつもりだったのでしょう。あなたたちこそ、わたしの旅荷物をどうしてくれるのですか」
「知ったことか、今かから俺たちいたぶり殺されるやつらのものなんてな!」
すると暴徒のひとりは鎖を持ち、その先の鉄球を頭上で振り回す。空たちを近づかせないため、そして鉄球の威力で相手を叩き伏せるためだ。残りの暴徒もランチャーや手榴弾、ボウガンなどを手にする。どこまでも厄介な相手のようだ。それでも降りかかる災厄は祓わねばならない。
「いいでしょう、そこまで殺戮を楽しみたければお相手いたします」
空は槍を、アレットは拳銃と伸縮ステッキを、ひまりは刀を、ヤカは二本の短剣を構える。
「仁義礼智と信の字胸に、誇る力は活人が為に。武の道行く我、地鳴らす一歩は天の采配のもとにあり。命惜しまぬものから、かかってきなさい」
先に仕掛けたのはボウガンだった。
空たちはボウガンの矢をよけつつアレットが拳銃にて反撃。だが敵の防具は頑丈で、銃弾すら跳ね返してしまう。もう二発試しに撃てど、やはり通用しない。
「接近戦しか通用しないッス! 全員、用心してかかるッスよ!」
「であれば、私に任せてもらおう」
ヤカは三人の前に出て、短剣にアークルと呼ばれる魔法エネルギーを込める。するとどうだろう、刀身はバラバラにほつれ、まるで金属製のリボンの束になってしまった。
「『織金剣』。形状記憶合金を織った状態で剣の状態に成型し、アークルを込めることで形状を自在に変化させることができる万能兵器。まずはこれで、貴様らを相手してくれよう」
「そんなもので、おれらをなめてんのかぁぁ!?」
ランチャーと手榴弾が繰り出されるのは同時だった。だがヤカは飛んでくるそれらを織金剣でからめとり、左右に振ることで一瞬にして細切れにしてしまった。空中でバラバラに粉砕された敵弾は、爆発することなく無残にも地面に崩れ去った。
「貴様らの飛び道具は通用しない。正々堂々勝負しろ」
「なーにが正々堂々だ! これでもくらえ、『流星錘』!」
振り回している巨大な流星錘が繰り出され、それはヤカを狙う。だがそれすら、ヤカは双剣で受け止めようとするのだが。
「形状変化」
織金剣は更なる形状変化を遂げる、握りと鍔を『井桁』状に組んだ状態でアークルを流すことによって、リボン状の刃は再度収束され『牛の角』のような形状になる。また一方の短剣の握りがナックルガードの役割を果たし、その部分でヤカは鉄球を受け止めたのである。
「……この程度か?」
「なッ!?」
ヤカは攻撃の勢いで多少ノックバックし、地面にはサンダルが沈み込んだ足跡ができていた。だが攻撃を受けたヤカは、ダメージを負った様子もなく涼しい口調で鉄球男に問いかける。
「所詮は威勢と飛び道具だけの『弱い者いじめ』か。弱者に刃を向けるのは貴様らと同類になるようで心底いやなのだが、とは言え凶悪な武器を手にして『お山の大将』になっているのは見過ごせん。今ここで引導を渡してくれよう。我が拳法、『アンガンポラ』にて」




