第五章 悪魔の仮面 ~慈しみの微笑みと狂気の高笑い、どっちもあんたなんッスね。~
そしてヤカは敵陣に向かって駆け出す。その際、織金剣は再び短剣になっていた。
「構うか、やっちまえ!」と暴徒たちはありったけの飛び道具や火器や鉄球などをヤカに向ける。だがそのすべてをヤカは駆け抜けながら回避し、敵の腕を自らの腕で絡め取って敵を投げ飛ばしざまに地面にたたきつけ、長剣で斬りかかってくる敵の手をやはり掴んで柔術のような動きで敵をのけぞらせて顔面に肘鉄を落として顔面を潰す。その動きは柔軟でありながら獰猛、その技は洗練されていながら敵に対して容赦ない。
「アンガンポラ……。何とすさまじき武術でしょうか……!」
暴徒も何も飛び道具ばかりではない、流星錘を持つ男も鎖を手放し、顔面を潰された男のようにウォーハンマーでヤカに迫る。だがヤカは、今度は徒手空拳ではなく左右の短剣での攻撃に切り替えた。
「どらぁ!」
「アンガンポラ兵器術、『イル・アンガンポラ』!」
抜剣と同時に織金剣の剣身は伸び、流星錘男の手首を切り落とした。更にそのまま『バックフリップキック』を仕掛けて男を吹っ飛ばし、馬の群れに激突させる。
「リーダー! ……っ! このアマぁ!」
「つぇいやあ!」
今度は斧を振り回す暴徒。だがヤカは斧を回避しつつリボンの束へと形状変化させた織金剣を振るう。その刃は斧を持つ男の右腕に無数の切り傷を刻み付ける。無数の痛みをもたらし武器を取り上げ、人間の治癒能力を上回るダメージを与えることで失血死させることも可能である。
「ぐやあああ!」
「俺の腕が、腕があああ!」
しかもヤカは、背後から襲い掛かろうとする別の長剣使いの暴徒も顔面から同じ攻撃を浴びせた。その暴徒は胸部プロテクターまで細切れにされ、やはり胸に無数の切り傷を気様れてしまった。
そんな残虐な戦い方をするヤカを見て、アレットはつぶやいた。
「アンガンポラ……。武術関連の文献で見た程度ッスが、多くの武術が護身・護衛術やスポーツとして発展してきたのに対し、それは戦争の中で実用化されるほど『率先して人を倒しに行く獰猛な武術』ッス。八極拳に匹敵するほどレアな武術、まさかこんなところで見られるなんて!」
そしてもう一つ気付いたことがある。
「ヤカ……。まるで暴徒以上の暴徒です。あの軽やかな舞い、あの笑い声。まるで彼ら以上に殺しを楽しんでいるかのような……」
何とヤカは、最初の敵の腕を切り落とした直後、残る敵をも形状変化させた剣で腕を傷つけ、牛角状の刃で喉を貫き、剣に付着した鮮血を舐めて恍惚とした笑みを口元に浮かべ、笑いながら次の敵へと向かってゆく。
それはまるで、悪魔の所業。
「人って、笑いながら人を殺せるものなのですね……?」
空は青ざめて言うが、冷静にヤカの戦いぶりを見つめるアレットは答える。
「いや、あれは違うッス」
「違う、ですか?」
「暴徒はただ殺戮を楽しむ外道中の外道。でもヤカはそんな外道とは違うッス。大丈夫。ヤカは絶対に……」
そして最後の暴徒が、アーダルベルトも装備していたガトリングガンを両手で構えてヤカに向ける。だが筋肉隆々のアーダルベルトほど軽々しく扱えるわけでもなく、銃口を向けた矢先にガトリングガンはヤカの剣に切り刻まれ、首筋に牛角の刃を突き立てられて血を噴き出して絶命。ついに暴徒七人全員が、緋色の海に沈んだ。
「全滅、だと……!?」
そしてヤカは、今度は空たちを見る。
「ひひひひ……っ」
不気味な鬼面をつけたヤカの、口元だけが狂気に満ちた笑いを見せる。空とひまりは槍と刀を構えるが、ふたりとヤカの間にはアレットが割って入った。
「アレット! 危険です!」
「下がるでござる!」
だがアレットは下がらず、しかしヤカに武器や拳を向けるわけでもない。
「……戦いは終わったッス。ヤカ。もう正気に戻ってもいいんじゃないッスか?」
ヤカはアークルの供給を解き通常の短剣に戻すが、それを構えてアレットと対峙する。それでもアレットはヤカに武器を向けることはしない。ヤカがじりじりと距離を詰めてきても、アレットは微動だにしない。
そして、アレットは言う。
「なお戦っているんッスね。優しさと、御しきれぬ狂気が」
「ひ……?」
「大丈夫。ここにはヤカを敵だと思う者はいないッス。ヤカがその刃を向けない限り、自分らがヤカに危害を加えることはないッスよ」
なお諭すアレット。そしてとうとう、アレットは自分の言葉を証明するべく拳銃が収まるホルスターと伸縮ステッキを地面に置いた。
そんなアレットに。
「……まただ」




