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第五章 悪魔の仮面 ~あなたたちは北斗ですか狼牙ですか!?~

 そうこうしているうちに、女性の前に寿司が十巻並んだゲタが置かれた。ネタはアンカーボルト直送、シャリはヤマト産、酢はマグ製を使用。鬼面の女性は「相変わらずうまい。ひと仕事のあとのご馳走はこれでなければ」と満足そうに食べ進めてゆく。

 そんな女性を見上げて唖然となるアレットだが、そんな彼女の肩に手を置いた空が彼女に言う。

「アレット。お寿司はおいしくいただきましたし、猫たちとも存分に触れ合いました。このあたりで出発しようかと思いまして」

「そっ、そうッスね! うん、自分も食べちゃうッス! ちゃんと味わってから行くんで、先に車で待っててほしいッス!」

「了解。そちらの冒険者さんも、失礼しますね」

 空とひまりは鬼面の女性にも会釈し、アレットの分も会計して店を出てゆく。

 アレットは寿司をつまみながら、落ち着かない様子だ。また鬼面の女性を見てみると、カウンターの上で丸くなる猫に切れ端の刺身を分け与えて口元に笑みを浮かべている。

「お姉さん、猫が好きなんッスか?」

「好きだ。この店の寿司は大変美味であり、猫にも癒しをもらっている。ここほど癒される店を私は知らない。私は冒険者としてこの町に流れ着いて、三年はここに居ついている」

「はー。やっぱりマグは人を引き付ける町なんッスねぇ」

「お前もこの町は、居着くほどに好きか?」

「好きッス。だからこそ、目的を達成するために涙をこらえて今日旅立たなければならないんッス」

「目的?」

「うッス。ヤマトの女性の目的は、ジグラス巡りの果てに主の骨を最後の旅先に奉納すること。陸軍の女性の目的は、失った過去の自分を探しながら世界中のグルメを堪能するため。だから、ここに居つくことはできないんッス」

「そうか。よい目的があるのだな。旅は大変だ、それは私もよく分かる。気を付けるのだ。盗賊もそうだが、病も呪いも見えないところから手を伸ばしてくる。その時に助けてくれるのは仲間だ。信頼に足る仲間だ。仲間は大切にしなければならん。そして大切にしてもらわねばならん」

「そうッスね。ひまりも空も、大切な仲間で、親愛なる友ッス」

「ならば大丈夫だろう。達者でな」

「うッス」

 鬼面の女性は海鮮丼を追加注文、アレットは寿司を平らげて席を立つ。

「……お姉さん。お名前は? 自分、レアガルド王国議会保安庁諮問探偵アレット・ドイルと言うッス」

「Aランク冒険者の、ヤカだ」

「ヤカ。どこかで会うことがあれば、あるいは自分らがこの町に帰ってきたら、また一緒に寿司と、それからうまい酒も味わいたいと思うッス」

「そうだな、ドイル卿。杯を交わす日を楽しみに待つ」

 そう言う鬼面の冒険者ヤカに、アレットは敬礼して踵を返す。

「おやっさん、めっちゃうまかったッス。ご馳走様ッス」

「おう! この町に帰ってきたら、『いの一番』にここに寄っとくれ!」

 寿司をつまんだ指をお茶で洗い流して暖簾で指を拭く。これが寿司屋での作法なのだとか。

「空、ひまり、お待たせッス!」

「エンジンは温めておきました。いつでも出発できます」


 ジグラスを目指す旅路。

 空も運転を覚えてきたとはいえ、運転席がアレット、助手席で地図を見るのが空という構図が定着している。「たまには拙者もお役に立ちたいのでござるが」と言うひまりだが、「見張りをお願いするッス。何分、空は景色ばっかり見てるッスから」とやんわり断られた。こうして役割は決まっている。

 そしてその役割を果たす時が来た。

「アレット、空! 二時の方角より接近する馬の一団あり! 戦闘態勢!」

「了解ッス! 武器を!」

 ひまりは腰に刀を提げ、空に槍を手渡す。アレットも左手でハンドルをさばきながら右手で銃を抜こうとするのだが。

「あれ? あれ? あれぇ!?」

「どうしたのですか、空?」

「銃ッス! 拳銃が無いッス! まさか、まさか失くしたとか!? スられた? この諮問探偵たる自分が!? だとしたらとんだ失態ッス! まずい、まずいッス!」

「銃は保安庁の支給品なのですか?」

「自分のギャラで買ったものッス! 純粋に戦闘力の問題ッス! くっそ、こーなりゃマグにとんぼ返りッス!」

「馬の一団はいかがしますか? もし盗賊なら逃げればよし、もし助けを求めているなら助けないと」

 だが、ひまりが言った。

「間違いなく盗賊でござる。いや盗賊と言うよりは荒くれ者かと。馬にも武装させ、流星錘(りゅうせいすい)をハデに振り回し、旅人をいたぶり殺すことを生きがいとする『暴徒の集団』でござろう。まあ問題はござらん。馬とその騎手の数からして、我々が本気を出せば殲滅などたやす」

 だが、ひまりのその言葉は続かなかった。

 何と、敵軍はランチャー砲を構えてミサイルを空たちに向けて砲撃してきたのだから。

「とーりかーじいっぱーいでござる!」

「ここは陸(おか)ッス!」

「つまり逃亡一択と言うことですね」

 アレットはハンドルを切って蒸気駆動車の出力一杯で逃亡する。空とひまりは次ぐランチャー攻撃に備えて武器を構えるのだが。

「提言します。この車にもガトリングなどの遠距離攻撃装備を搭載すべきかと」

「それは拙者も考えていたでござる。しかしそれだけ銃弾の購入を強いられ車の重量も増え、しかも車の主(あるじ)は空であるがゆえ、気軽には相談できなかったでござるよ」

「命を守るための策なら講じるべきと思います。とはいえ、今は」

「然様、逃げるが勝ちかと!」

 それから先もランチャーによる砲撃は続き、可能な限り舵取りによる指示でミサイルを回避する。だが敵の砲撃が蒸気駆動車に直撃すると踏んだ空は、自分の旅荷物が詰まったリュックを投擲してミサイルの先端に当て、軌道を外れたミサイルは車の後方に落下して暴発した。

「わたしの、着替え……。わたしの、下着……。わたしの、ギャラ……!」

「命には、代えられぬでござる……!」

「……殺します」

「気持ちは察するでござる!」

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