第三十二章 彼女はその高みへ ~わたしが槍使いだと知られて、ジーク殿下から模擬戦を申し込まれてしまいました!~
先日、城内工房で談笑した相手である鍛冶職人のバルムンクは、王配ジークと同一人物であった。この事実に空、ヴィント、アルスは「バルムンク=ジークに対して何か失礼はなかっただろうか?」と先日のやり取りを必死に思い出して詫びる点があれば詫びねばと思いを至らせる。
そんな空に、ジークは尋ねた。
「呉空。きみの手を見るに、やっぱりきみは槍使いだね?」
「へっ!? ええと、いやあ、そのお」
明かしてもいないのに槍使いだと見抜いたのは、初対面のアレット以来だ。だがジークは槍使いと知れば力比べをしたい好戦的な人物らしい。空は今回ばかりは必死に隠し通さなければならないと思ったのだが。
「それに昨晩での食堂の勇ましさと冷静な態度、武の道に身を置いていないとできることではない。勇者卿の実力は話に聞いて察しがついている、きっと僕じゃ勝てない。でもだからこそ、『太陽手の勇者アルス・ライトアームズ』、『八極拳・六合大槍なる謎の武術を修めし拳士呉空』、敗北覚悟でお手合わせ願いたくなった。この後、ぜひともお手合わせを」
「謹んで、全力でお断りいたします!」
王族に武器や拳を向けるなどできるわけがない。
そこで、ジークが「この者なら」と召喚した二名が空とアルスと模擬戦をすることとなった
場所を移し、王城練兵場。
案内された空たちを待っていたのは、男性騎士と女性海軍兵士であった。
空、アルス、男性騎士、女性海軍兵は、訓練用の木製の剣や槍、防弾ガラス製の兜を手渡された。
「まず僕から行こう。我が名はアルス・ライトアームズ。流派はライトアームズ流剣術と太陽手。参る」
「俺は王国騎士団歩兵隊長『ガリオン』。流派は『十二星剣術』。レアガルドの勇者とお手合わせ願えるとは光栄だが、無傷で帰れると思うなよ」
向かい合う両者。ジークはアルスに言う。
「遠慮は無用だ、アルス。ガリオンは強いけど結構好戦的で、お客人にも容赦しない、手加減なんて言葉は辞書にない人だから」
「はい、バルムンク様……、あ。いえ、ジーク殿下!」
そして、女王フレイヤが「はじめてください」と赤い旗を掲げた。
「ライトアームズ流剣術!」
そしてアルスは長剣を振るう。まずは小手調べのつもりか、攻防一体のコンパクトなそれこそ『小手』。ガリオンは素早いフットワークで旋回して回避し、振り上げた剣をアルスの頭に叩きつけようとしていた。
「十二星剣術、『スコーピオンキリング』!」
「とわっ!?」
それは上段からの側面攻撃。掲げた剣を振り下ろすとかと思いきや、アレットのバーティツの棒術のように手首を返す形で切っ先が弧を描きながらアルスの頭を狙ってきた。それでもアルスは冷静にフットワークだけで回避する。
「さすがは勇者、これをよけるか。だがまだまだ! 『ブルチャージ』!」
今度は剣をわきに構えての方からの突進。重戦士がこれを繰り出せば耐えられる者はいない。アルスはそれすらも回避するが、反撃に出ようとした瞬間に連続技が発動した。
「『ライオンメイン』、『アーチャーショット』!」
それぞれ、獅子の鬣のように両腕を広げて誇示する両腕防御方法、弓矢で敵を射るかのような姿勢からの突きである。アルスは距離を置いて「なるほど」とうなずいた。
「十二星剣術、聞いたことがある。神話に由来する『黄道十二星座』の十二要素を模した剣術・武術で、『宇宙の法則』を用いた武術だそうだね。言わば『神話版形意拳』といったところか」
形意拳。
そちらは『五行思想(火水木金土の五要素を唱える自然哲学)』と『十二の動物たち(その中には龍神など空想の動物もある)』の動作を取り入れた、大岑帝国において歴史を誇る武術である。
「そう思って構わない。これは俺の父が創始した武術で、まさにその形意拳のエッセンスが半分入っている。この国で独自に進化した形意拳だ、とくと味わってもらおうか!」
「でもさあ……」
アルスは左足を一歩引き、剣を前に構えた。
「十二星剣術、『クレイブダブルブレード』!」
「空っぽく言わせてもらうと、『あなたには功夫がたりない』ようだ。ライトアームズ流剣術、『低空左斬り上げ』!」
ガリオンの攻撃は長剣による連続中段左右薙ぎだが、アルスは最初から下段を狙っていた。巨漢は足元に潜り込まれると対応がしにくくなる。アルスはそれを狙っての下段から上段に向かう攻撃を選んだようだ。それは見事にガリオンの左わき腹をえぐり、彼から一本取ってしまった。フレイヤが旗を掲げ、それをアルスに向けた。
「それまでです! お見事です、アルス。ガリオンも決して弱くはありませんが、あなたの実力のかけらも見せていただけなかったとは恐れ入るばかりです」
アルスの実力を素直に認めているのは事実だろう。だがその言葉の奥には「ご指摘通り、ガリオンはまだまだのようですね」という真意が見える。
――フレイヤ陛下、腹黒いというわけではないんだろうけど、この人に話術で勝とうとは思わないことにしよう。ダメ親父はどうお相手するだろうか。
次の対戦は空と女性海軍兵士の戦いだが、彼女『クリスティア』は強敵であった。しばらく空と同じ『舞華(花が咲いたように円形に槍を振り回す動作)』を続けて向かい合うなりどちらからともなく攻撃を仕掛けた。互いに槍を繰り出しては弾き、回避し、牽制しては突き、なかなか決着がつかない。クリスティアが「本気でいいわよ」と言った瞬間に勝負は動き、空は『外纏(外払い)』でクリスティアの槍を叩き落すなり『穿槍(突き)』を腹部に当ててとどめとしたが。
「やはり使い慣れない武器では技が繰り出しにくいですね。しかし戦場ではそうも言っていられない、とも言えますが」
「ちょっと待ってよ、あんた。一気にそれだけの実力出しておいて武器にイチャモンつける気!?」
「いえ。アルミスセントラルのマイスターに拵えていただいた槍がわたしの手にとても馴染むのですよ。しかしあなたの功夫もなかなかのものでした」
「クンフーって何よ、手加減されてたとか屈辱だわ!」
「それも違います。たとえ誰であろうと、すべての手の内は見せないということです。あともう少しで、あなたに見せたくない技を見せるところでした。それだけあなたは強敵であったということです」
「そ、そう? それならいいんだけど。過去形?」
「昨日の敵は今日の友。あなたももう、拳を交えた心の友です」
「そう。じゃあ、友人としてよろしくね」
そしてまた、アルスは思った。
空もどこまで本気、そして本音なのだと。
そして模擬戦を観覧したジークは、拍手で四人をたたえた
「四人とも、いいものを見せてもらったよ。では最後に、僕が武術と鍛冶職の師匠でもあった養父、『エイヴィンじいちゃん』に教わった武術を見てもらいたいと思う」
そしてジークは、その武術の名を口にする。
「……『大岑那族』より伝えられし武術、『鈀子拳』を」




