第三十一章 勇者の家族、暴走する! ~あらあら、このやり取りは何度目でしょうか(女王フレイヤのすっとぼけ)。~
翌日。
シュトラルラント城、玉座の間。
朝早くから訪問して昼過ぎの謁見になったが、観光以外は特にすることもなかったので待つことは苦ではなかった。そしてついに、空、ヴィント、アルスは女王に謁見する時がやってきた。
「お待たせいたしました、お客人方。頭をお上げくださいませ」
澄んだ声が間全体に響き渡る。
空たちが顔を上げると、低い階段の上に並ぶふたつの玉座のうち右側に赤いドレスに王冠を被った金髪碧眼の女性がかけていた。一方、左側には騎士装束に由来する立派な召し物をまとうが冠のない黒髪の男性が座している。
「お初にお目にかかります。シュトラルラント王国領主、フレイヤ・シュトラル・ワーグナーと申します。こちらは我が夫、王配のジーク。昨日は公務で時間を取れず、あなた方の挨拶に応じることができずに誠に申し訳ございませんでした」
「こちらこそ、突然の訪問に応じていただきまして、誠にありがとうございます」
そして空とアルスは、領主夫妻のために用意した手土産を大臣に手渡した。
「ご丁寧にありがとうございます。これは?」
アルスから答える。
「はい。ライトアームズ州特産品からシルクの布を数種類、シュトラルラント王国の国旗に由来する色の糸を用いた組み紐、そして果物の缶詰にございます」
「わたしからは、フォーマメント州で採れたマツタケ、そして飛行器の模型をお持ちいたしました。組み立てるお手間を要するものですが、創造を楽しむホビーであり、我が州と縁のあるアルビオンの会社が開発した有人飛行機械として運用すべく研究開発が進んでいるようです。是非お納めいただきたいと思いまして、ご用意いたしました」
フレイヤとジークは飛行器模型のパッケージを見て、「これは面白い」「二宮って、ヤマトの企業ではないのか?」と様々な意見を述べるが、おおむね好評そうだ。
だがジークは少し不満げ。
それを察した空が、彼に尋ねた。
「あの、ジーク殿下。お気に召しませんでしたでしょうか?」
「えっ? ああ、すまない。どうも僕はポーカーフェイスが苦手でね、それもあって王族に婿入りしても国王には向かないと思って王配の地位にいるんだ。あはははは~」
婿入りのくだりは嘘だろうが、ポーカーフェイスが苦手という部分だけは本当のようだ。
「では不躾ながら質問をお許しくださいますか?」
「何でも聞いてくれ。たとえば今、きみの不愉快を買ったこととか?」
「とんでもないことでございます、ご不満なのは殿下の方ではと思いまして」
「うーん……。実は昨日と同じものを貰っちゃってね」
「えっ? 昨日と同じもの?」
「ああ。このマツタケ。さっそく箱の謎を解いてスープにして飲ませてもらったんだが、僕もフレイヤも、そして城の給仕人もこんなスープは飲んだことがないと驚いたよ。同封してくれたマツタケスープのレシピは貴州の領主のひとりである河上ひまり殿によるものだが、本当に素晴らしい。いつかリゾート・イハトヴに遊びに行った時には、河上殿が作るこれも飲んでみたいものだね」
「えーっと……。それは、贈り物が重複してしまって申し訳なく……、ん?」
空、ヴィント、アルスは、ジークの顔をよく見た。
そして彼の先ほどの発言、口調、そして声。
まさか。
「まさか……、まさか、ジーク殿下って……」
空たち三人は唖然となり、ジークは少年のように笑い、「このやり取りは何度目だろう」とフレイヤや玉座の間の兵士たちは呆れ、あるいは笑いをこらえきれない。
「うん! そこの工房で剣を打ってた、バルムンクだね!」
その頃。
フォーマメント州領主邸に信書が届いた。
「という事情で、空はアルスとヴィントと一緒にお母さんの用足しという形の新婚旅行に行くことになったっぽいッス。ヴィントも一緒ッスしクエストであるなら仕方ないところッスが……、これ、自分らを傷つけさせないためのフィリオネさんなりの気遣いッスよね。どーせ先代さんが勝手に順番ちぐはぐな新婚旅行のためのチケットでも買ってしまったからその消化のためってところッス」
アレットたちに宛てた信書は、そのフィリオネが書いたものである。
「奥方、ご配慮痛み入るでござる。しかし両名の意志を無視して結婚させるなど、先代殿も何をお考えなのでござろうか。まあ貴族としては当然の考えでござろうし、ヤマトの大名家も似たり寄ったりにござるが、しかし先代殿は暴走しすぎでござらぬか」
「ホントにそう思うのです! ましてや人の心を暴露するなんて、いくら貴族の親でもやっていいことと悪いことの区別もついてないと思うのです! ……でも純情で告白もできなさそうなアルスさんと恋心に鈍感そうな空さんにくっついてもらうためなら、ある意味適切な荒療治だとも思うのです?」
「そうですね、ピエリーナさん。僕もそういう見方ができると思います。アトラ卿は確かに今回大暴走してしまい方々にそれなりに方々に迷惑をおかけしたかもしれませんが、その相手が空師匠であってくれたことは、結果としてはとても喜ばしいことになったと思います。もし今回のお相手が空師匠でなかったとしたら、アルスさんにとって目も当てられない状況になっていたかもしれませんよ?」
「そッスね。けど問題は前も言ったとおり、空の家系がここで終わってしまうことッス。空は自分らと同じ子爵、ライトアームズ家は伯爵家。どう考えたって、アルスが妹に家督を譲って呉家に婿入りするってことにはならないことッスね。貴族としての体裁、太陽手の継承者問題、そもそも爵位を自ら落とす貴族はいないものッスから」
アレットの言うことはすべて理にかなっている。だが、立場ある者ではなくひとりの男として、フォレストは意見した。
「愛する女性のためならすべてをなげうつ男も、いるかもしれませんよ……?」
「おっ、おぉ……」
お姫様を守るために顔面に敵のパンチを受けた『王子様』の言葉は、強い。




