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第三十一章 勇者の家族、暴走する! ~鍛冶職人バルムンク様、静かなのに迫力のあるお方です。~

 そして、主城郭内部の東側にある小さめの鍛冶工房に通された。兵士がノックののちドアを開けると、そこでは真っ赤に燃える炉の前で剣を打つ青年の姿があった。青年はアルスよりも年上だろう。細く引き締まった筋肉を誇る。

「お初にお目にかかります。私は」

「ああ、聞いてるよ。ちょっと待って。そこのベンチに座っていてくれ。兵士、そこに麦茶があるから魔術で冷やしてお出ししてくれないか」

「はっ、バルムンク様!」

「すまない、お客人。今、こいつに熱が入っている状態だから作業の手を止めるわけにはいかない。焼き入れ工程まで待ってもらいたいんだ」

「突然押し掛けたのは私どもです。お構いなく」

「助かる」

 そして青年バルムンクは、何度か剣身を熱しては叩き熱しては叩き、納得のいくものに仕上がったのだろうか、水の中に一気に浸す。水が蒸発する音が響き、勢いよく白煙が巻き上がる。この光景にヴィントは背筋を震わせて驚く。

「すっげー音……」

「ええ、ヴィント。わたしもマグの町の鍛冶屋さんで職人さんが刀を打つのを見ていましたが、本当に見ているだけで心が引き締まる思いでした」

 そしてバルムンクは、すべての工具を置いて自らも麦茶を一気飲みした。

「おっとぉ? さっきの兵士、座布団くらい用意してくれよ。すまない、お客人方。そこに座布団があるから、ベンチに敷いて座ってくれ」

「では、お言葉に甘えて」

 空、ヴィント、アルスは座布団を借りて再び腰かけ、バルムンクは(から)っぽになった空たちのグラスに麦茶を注いで自分も座った。鍛冶仕事できちんと見られなかったが、バルムンクは顔立ちも好青年そのものであった。そして雰囲気も、黒髪黒目である以外はどこかアルスに似ている。

「配慮が足りず申し訳ない。初めまして、お客人方。ここを訪ねてくるくらいだからご存じだろうけど、僕の名前はバルムンク。依頼書は届いているが、改めてきみたちの名前と要件をお聞かせ願えるかな?」

 それにはまずアルスが名乗った。

「私はレアガルド王国ライトアームズ州第九代領主のアルス・ライトアームズと申します」

「わたしは、同国フォーマメント州領主の呉空と申します。こちらはわたし直属のメイド、ヴィントです。彼女はこの国の出身です」

「どっ、ども。ヴィントです」

 用件はアルスが述べた。

「この度、私どもはあなたにダイヤモンドの指輪の加工をお願い申し上げたく、母フィリオネの使者としてまいりました。こちら、フィリオネからの直筆依頼状と事前に聞いていた加工費、ダイヤモンドの原石と爪付きの指輪にございます。お確かめとお納めのほどを」

 事前にバルムンクが受け取った郵送の依頼書と直筆依頼書は内容が同一のものだが、確認のための提出でもある。

「うん、失礼ながら改めさせてもらう」

 バルムンクはフィリオネからの依頼書を一瞥し、そして同封されていた硬貨を確かめる。

「事前に我が国の通貨に両替してくれているとは、なんとありがたいお心遣いだ」

「これも礼儀と心得ますれば」

「素晴らしお母上だ。先代勇者は『礼儀については半端もの』と有名なのに」

「あのバカ親父」

「息子にまでそう言われては本当にどうしようもない先代勇者だなあ。だがまああまり悪く言わないでくれ。彼はまあ何というか、よくも悪くもヤマトの織田家のようなものだ」

「はい? どういうことでしょうか?」

 それには空が割って入る。

「バルムンク様。わたしは昨年ヤマトに遠征の旅に赴き、その先で織田信音公に謁見しました。信音公はゲームの達人であらせられ、また戦争においては『智』を以って敵を制圧するお力をお持ちの方です。また信音公いわく、天下を統べし織田信長公以降、織田家の代々の当主は全員そろって頭がおかしい、信長公も蒸気エンジンを搭載した馬車のようなお方だったと評していらっしゃいました。バルムンク様。あなたの目から見て先代勇者アトラ氏は、まさにそのような人物だったということでしょうか?」

「もうまんまだね。あの人は勇者のわりに戦いと礼儀をわきまえることやスケジュール管理などが苦手な一方、人当たりの良さと口達者なところと『誰にもNO!と言わせない勢い』だけでそれなりに成功してきた人だ。見た感じ、きみたちも何らかの形で彼に言いくるめられる形でここにやってきたと見た。たとえお母上のご用件が本物だとしても」

 大金を要するダイヤモンドの加工など、旅行のチケットを消費するためだけにお使いによこす内容ではない。

「バルムンク殿。具体的に、父はどのようなことで成功し、私の代までライトアームズ家を運営してきたのでしょうか?」

「さあねえ。ただ我が国との外交においては、『健康効果をうたった保存食の提供』が多かった。そして事実、ライトアームズ家が卸してくれた『ドライフルーツ』には感謝している。保存食と言えば大体が塩漬け、発酵、乾燥だ。だが塩漬けは塩分の取りすぎにもなり、発酵と乾燥は環境を整えなければ逆に腐らせてしまう。まあ麺類などゆでる必要のある料理は別だけどね」

「確かに」

「その点、ドライフルーツの大半は水で戻さなくても柔らかい食べ応えで、そもそも栄養価が高く、味も甘い。そのまま食べてよし、パンに混ぜて食べてよしの万能食材だ。ああそれと、最近挨拶回りで持ってきた缶詰というのはいいね。多少においは独特だが、まさか内陸で海の魚が食べられるとは。陸軍や騎士団のみんなからは防衛戦演習のキャンプグルメに最高だと好評だそうだ」

「それはありがたい! 缶詰は今、そのシーリング技術に錬金術頼りのところが多い課題を抱えています。その課題をクリアすれば民間の鉄鋼業に仕事を振り、今以上に多くの海の幸を内陸に届けることもできましょう」

「それは楽しみだ!」

 すると、ヴィントが至極当然の疑問をぶつけてきた。

「でもさ勇者、ライトアームズ州って内地じゃん。それでどうやって海の魚を加工できるのさ?」

「いい目の付けところだな。実はうちのバカ親父、『北方のワルマース州』、『南方のアンカーボルト町』の錬金術工房に『魚介缶詰工場』の拠点を構えているんだ。ライトアームズ州内の工場ではドライフルーツを作ってる。現在父はドライではない『果物の缶詰』を研究し始めたんだ。僕の家のラボもそうするつもりさ」

「そうなんだ。果物の缶詰か、缶詰って言っても色々あるんだな」

 ヴィントのその言葉に、バルムンクもうなずいた。

「ああ。ライトアームズ八世は最近、パイナップルと桃の缶詰をお持ちくださったよ。まさかそれをみずみずしいまま保存できいつでも食せるとはと、城の誰もが驚いていたようだ。あとひとつ。我が城にヤマトからの奉公人がいるんだが、さすがに『おでんの缶詰』は作れないよな……?」

「そのおでんというものが何なのか、私は存じ上げないのですが、もし可能ならやってみたいと思い」

「いえ、アルスさん」

 空が、おでんなる料理そのものならヤマトへの遠征で知ったわたしが作れると言ってきた。レアガルドにはひまりとミオ・ナカハラがいるし、おでんの缶詰なら時間をかければ可能かもしれない。

「いやぁ~、しかしバルムンク殿。今日はあなたのおかげで、あのバカ親父を少しは見直すことができました。父の働きで皆様にお喜びいただけたのであれば、息子として大変うれしく存じます」

「そんなかしこまらないでくれ。そうだ、本題はそのお父上のダメっぷりとダイヤモンドの加工の話だったね。ダイヤは少し日数を要する。何日か滞在してもらっても構わないか?」

 その時ヴィントは思った。「あれ? 本題に親父さんのダメっぷりってあったっけか?」と。

「はい、よろしくお願いします。そうだ。すっかり手渡すのが遅くなりましたが、我が州からの手土産にございます。お嫌いでなければお納めください」

 そう言って、アルスはくだんの果物の缶詰の最新版『りんごの缶詰』、シルクとアカマツの扇子、特産品の組み紐を、贈答用の箱に包んで差し出した。空は飛行器の模型一式とフォーマメント州の森で採れたマツタケをアカマツの箱に収めたものを手渡した。

「これはご丁寧に。ここは年中熱いからね、この開閉式のうちわはさっそく使わせてもらいたい。それにこのきのこは何だろう。とてもいい香りがする。直接焼くかスープにしたら、きっとおいしいだろうね」

「はい。その贈答箱は『ヤマト式からくり箱』にもなっていて、仕掛けが施された底板を外せばスープのレシピが出てきます。箱は鍵や金貨の収納などお好きにお使いください。ヤマトではそうする方も多いらしいです」

「ありがとう。こういう遊び心とセキュリティーが合わさったものは大好物だ」

 そしてバルムンクは兵士を呼んで「このからくり箱の謎を解き、きのこをもちいたスープ料理を僕と妻に作ってくれ」と言い、爪付きリングとダイヤの原石と指輪の仕様書を見てデスクにかけた。指輪の完成はせめて四日見繕ってくれと言われたので、空たちはこの日はこれで工房を去ることにした。

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