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第三十一章 勇者の家族、暴走する! ~かくして緊急クエストは指輪製作依頼となりました。~

 ライトアームズ邸に一泊して五日後。

「さて、一応は僕の母からの直接クエストなわけだけど」

「ええ。やってきましたね、シュトラルラントの王都」

「私にとっても初めての場所だよ! 楽しみだなー、王都!」

 空、ヴィント、アルスは、ついに目的地までやってきた。アルスは「そう言えばヴィントはシュトラルラント出身だったな」とうなずく。

 シュトラルラント王国。

 サンティーエ共和国を挟んでレアガルド王国の反対側に位置する、封建制王政国家である。

 現在、国を治めているのは若き女王とのこと。その名を、『フレイヤ・シュトラル・ワーグナー』。とても美しい姫君と評判だが、女王なのに姫とはどういうことかという突っ込みがないこともなく、若さと美貌だけを取ればそれだけ絶賛されていることが分かる。

 フレイヤ女王が統べる王国議会だが、何の問題もなく執り行われているらしい。暴君というわけでもなく、若さと色香を振りまくわけでもなく、その政治姿勢は品行方正そのもの。戦争前のサンティーエ帝国議会の面々を指して「あ~あ、どっかのお偉いさんにあのお方の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいぜ」と言われるほどである。

 だがそんな彼女にも、一部の国民(貴族)や周辺国のお偉方から「どうしてそんな判断をしたのか」と眉をひそめられていることがある。

「『王配(おうはい)』……、女王の夫、ですか?」

「ああ。フレイヤ陛下はその昔、盗賊と『食人鬼(オーガ)』に襲われたところをある平民の少年に助けられたらしい。その少年が今の王配としてフレイヤ陛下の隣にいるのだが、普通、王族と平民は結婚どころか結婚を決意させるほどの出会いすらしないものだ。まあ、平民が高貴な存在に惚れてぶしつけな手紙を送ることはよくある話だとしても、その手紙が対象に届くことはないだろうね」

「その方のお名前を、アルスさんはご存じですか?」

「ああ、名前だけなら。御名を『ジーク』。そして、この国に並ぶ者無しの槍の使い手らしい」

「槍、ですか!?」

「ああ。うちのゴールドメイルは直接会ったことがあるらしいが、僕とパーティーを組む前の当時のあいつが手も足も出なかった相手だそうだ」

「そうですか。もしお手合わせすることになったら、わたしもゴールドメイルさんと同じ結末をたどりそうです。って、まさか、ゴールドメイルさんはその時も相手をなめてかかって決闘を申し込んだりしたのでしょうか?」

「いいや、あいつはあれでも立場をわきまえるやつだ。同じ槍使いと知ってジーク殿下の方から手合わせを願い出てきたらしい。そのわりに殿下は戦い好きというわけではないようで、ただひたすら『少年のような目』をしておられた、とゴールドメイルは言っていたよ」

「少年のような目、ですか。ふふっ」

「ん? 空、どうかしたか?」

「いえ、何でもありません。そのフレーズを聞いて、少し懐かしいことを思い出していたのです」

「そうか。ならいいんだが」

 それは忘れもしない昨年末。

 アルスは『太陽国の守り神シーサー』をモチーフにしたゴーレム『ソウェルライガー』をボナパルト重工業に依頼して作り、雪の中でそれを思い切り乗り回していた。「スパロボに乗るのは少年の夢だ」と豪語したアルスは心底楽しそうで、それを見ていた女性陣は誰もがアルスを「やはり子供だ」と思った。


 シュトラルラント王国の町並みは、どこか絵本の世界のようなものであった。空は「ピエリーナから貸してもらった漫画の世界のようです」とあちらこちらへ目移りし、見たこともないグルメや飲み物と茶請けに涙を流して感動していた。

「このセリフ言うの何度目だろ。師匠、ブレないな~」

「ああ。だがそんな芯のブレない人だから、僕は惚れてしまったのかもしれない」

「おい勇者」

「仕方ないだろ? 僕だって男なんだ。魅力的な女性には夢中になるさ。そして魅力的なところを褒めちぎりたくもなるってもんだって」

「ああ、わかる。わかるからこそかゆい」

「なんできみがかゆくなるんだ」

 アルスが言ったことを、そのまま先の新年祝賀会兼即席のフォレストの婚約発表の席でフォレストに言われまくったのだから。

 ――「フォレスト殿下、なぜこのような武力しか能のない野蛮な下民をお選びになったのですか!?」

 ヴィントはその言葉にキレかけたが、フォレストは不愉快になるどころかヴィントの魅力を力説してしまったのである。

 ――「それはもうヴィントの可愛いところと言ったら!」

 ――「やめろフォレスト! もうこっ()ずかしいかしいったらないから! それさっきも言ったやつだから!」

「分かるな勇者。一生分かるな」

 そして空は「このフリカデレという料理を食べてみてください、本当においしいですから!」とふたりをグルメツアーにいざなってしまった。そんな空に振り回されることさえ、アルスは心の底から楽しそうだ。


 昼過ぎ。

「さて、母さんから言われた緊急クエストだけど、『バルムンク』という方にダイヤモンドの指輪をふたつ作ってほしいっていうものだった。なんでも大切な人にプレゼントしたいらしいが……。そのバルムンク氏はかつて森の奥にラボを構えていたが、ある日『先代の国王である、ヴィルヘルム王親殿下』に腕を買われて城の中にラボを構えて、それもあって王族や上流貴族からの注文しか受け付けていないらしい。まあそりゃそうだ、城に出入りできる人間なんて限られてる」

「つまりそれだけ腕がよいということですね。ジーク殿下もそうですが、バルムンク氏にお会いするのも楽しみです。あっ、できればジーク殿下との力比べを申し込まれるのはご遠慮願いますが」

「そりゃ師匠が槍使いってことがバレないように気をつけなきゃ、だな」

「ごもっともです、ヴィント」

 そしてたどり着いた、『シュトラルラント城』。

 レアガルド城と同様、城壁のタイプは『稜堡式城郭』。レアガルドの城が二つ重なった五角星に対し、シュトラルラントの城は二つ重なった六角星型の外側(北西、北東、南の三方角)に『追加外郭』を有する形状。主城郭と追加外郭の外側には川のような堀が設けられているところは同じだ。

 さて、南西にある賓客用の城門の門番にアルスたちは身分証明書を見せ、入場に関する要件を『訪問件名』に記入する。またここが城である以上、武器またそれになりうる日用品(キャンプ用のナタや包丁など)は預けなければならない。

 城はレアガルドのそれと同様、立派な庭園が広がっていた。訪城の際にはどれだけ待たされようとも国王への挨拶が必要だが、案内役の兵士はそのままバルムンクの鍛冶工房へと連れて行くと言い出した。

「えっ? 構わないのですか?」

「ええ。確かに我が国もそれなりに礼儀を重んじる国ですが、『その礼儀のためにお客人を待たせ無駄に時間を費やさせるなど、これ以上もったいないことはない』とフレイヤ陛下はおっしゃるのです。ゆえに陛下ではなく城の給仕人に御用がおありの場合、その者に直接通し、お帰りの頃に事後挨拶してもらう、陛下から出向く、最悪は後日に茶葉と茶菓子でも持って挨拶に来てくれればありがたいとおっしゃっておりますので」

「なんと。おおらかと言いましょうか、レアガルドの王とは別の意味でフランクなお方のようですね」

「ええ。当代国王が女性ということもあるのかもしれません」


「……『スピード感を持って進めます』が口癖だったりしませんよね」

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