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第三十一章 勇者の家族、暴走する! ~なあ師匠。先代勇者、みんなからバカバカ言われてるんだけど。って師匠まで!?~

 ライトアームズ邸、家族用の長テーブル。

 上座には当代頭首であるアルスがかけ、アルスの右側に空とヴィントが、アルスの左側に父アトラ、母フィリオネ、祖父(七代目)アガン、祖母メリルが並んでいた。空はてっきりこの場で「ご婚約おめでとう、そして我が呼びかけに応えてくれてありがとう!」とアトラに言われるのかと思えば、彼はフィリオネに『発言禁止マスク』をかけられ、一切の発言を許されなくされていた。

 そして、アガンによる息子アトラの蛮行に対する謝罪から始まってしまった。

「この度はうちのバカ息子が、本当に申し訳ないことをしてしまった。呉空子爵には深く深くお詫びを申し上げる」

「まっ、まあ……、お父様もここライトアームズ州の行く末のことを思っての行動でしょうし、確かに多少、いえかなり困惑してはいますが、根っからの迷惑者だとは思っていませんので、これ以上の謝意は不要です」

「そうか、そう言ってくれると本当に助かる。本当にこのバカ息子のせいで」

「なあ師匠。先代、勇者からもじいちゃんからもバカバカ言われてるけど、ほんとにポンコツだって私は思うよ?」

「思っていても口に出してはいけないのが人としての礼儀です。あなたはいずれ王妃になるのですから、そこはきちんとわきまえてください」

「うっ、ごめんなさい」

 そこに、フィリオネが続いた。

「それでも本当にごめんなさいね。今日は主人、お二方の婚姻届を役所に届けに行ったんだけれど、受理されないからって喚いていたところをとっ捕まえてね。危うくお二人は本当に夫婦にされるところだったわ」

「そ、そうですか……。ところで、役所はここではないのですか? それと受理されなかった理由は?」

「いくら議会兼領主邸でも分別すべきお役所仕事はあるものよ。それと受理されなかった理由は、二人がサインし押印した婚姻届ではなかったこと、そして空ちゃんの名前の綴りが分からなかったからねえ」

 フィリオネがアトラから奪い取った婚姻届には「Go Ko」と書かれていた。

「……これで受理される方がおかしいです」

 空は名前の部分を「Qu」に書き直し、苗字と名前を入れ替える矢印も書き足した。

「わたしは呉がファミリーネームで空がファーストネームです。まあ血縁者(ファミリー)はいませんが」

「ここで『本当にファミリーになっちゃう?』って冗談のひとつも言いたいところだけど、その冗談は、さすがに今は通じないわよねー」

 アトラ以外の誰もがうなずいた。

「しかもこのバカ夫、婚約発表式も結婚式もまだなのに、あなたたちの新婚旅行プランまで立てちゃってるのよ。ほら、シュトラルラント王国の王都の高級ホテル3泊4日チケット。いくらしたと思う? ねえいくらしたと思う? 額を聞いたらこの男を叱らずにはいられなくなるわよ?」

「なあ師匠。先代、奥さんにまでバカって言われてるよ」

「ええ。もう擁護できません。散々各地各国を旅してきたわたしたちです。王都の高級ホテルが一泊でいくらするかなんて想像できてしまいます。ライノック陛下への最初の謁見の折に陛下から紹介されたホテルが本来いくらするかをあとで知り、それを思い出してしまったら今でも眩暈を禁じえません」

「マジ?」

「ええ。イハトヴの社長になった今でもそんなホテルなど易々と使えません。だから先代様。わたしからも『あえて申し上げましょう。バカであると』」

「普段から人を悪く言わない師匠にまで悪く言われちまったよ先代!」

 言われたアトラは心から思った。「ひどくね?」と。

 そんな空に、メリルが提案した。

「でも、そうね。このチケットは払い戻しもできないし、いっそ使ってくれないかしら」

「えっ? しかし、お婆様」

「いいのよ。うちのバカ息子が迷惑をかけたことへの慰謝料代わりと、それからたまにはゆっくり羽を伸ばしてくるのもいいと思うわ。あなたはこれまで軍人として冒険者として、そしてイハトヴの経営者として頑張ってきたのだし、大きな詐欺集団との戦いにおいて数々の死線を潜り抜けてきた。その功績は大きいものよ。だから、たまには楽しむための旅に出るのもいいと思うのよ。ね、アルスも」

 アルスは「でも、おばあちゃん……」と申し訳なさそうに返し、空も「受理できかねます」と答えてしまった。

「そうおっしゃってくださるのはありがたいですが、それはわたしの仲間も同じです。仲間を置いて自分ひとり旅行を楽しむことは、仲間たちへの申し訳が立ちません」

「そうね、確かにそうだわ。とはいえ同じチケットをあと三枚用意することもできないしねえ」

 うーん、と誰もが頭をうなっていると、ヴィントが提案した。

「だったら、今までみたいに任務や就学の旅に出ればいいんじゃないかな?」

「えっ? ヴィント、それはどういうことですか?」

「簡単じゃん。今回のことは『勇者のママさんからの緊急クエスト』ってことで急にシュトラルラント王国行きが決まって、その用足しのために王都のホテルに泊まらせてもらえばいいんじゃん」

「そうか、その手がありましたね。あっ、でもヴィントの分のチケットがありませんが」

 この作戦もうまくいかないかと思われた時、「もごもご」して何とか発言禁止マスクを外したアトラが言った。

「問題無用! そのチケットはファミリーチケットだ。不本意だが、連れの家族がいても使えるぞ!」

「おいバカ先代、私を指して不本意って言ったの!? 私が本当に王妃になれたら、あんたを真っ先にシバくけど!?」

 アトラはついにヴィントにまでバカ呼ばわりされてしまったが、あっさりと問題は解決してしまった。

 いや、そもそもの根本の問題は一切解決していないが。

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