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第三十一章 勇者の家族、暴走する! ~さて、きっちり話をつけさせてもらおうか?~

 一月下旬。

 ライトアームズ領主邸への挨拶に伺うべく、空、アルス、ヴィントの三人はライトアームズ家所有蒸気駆動車に乗り込んだ。

 ライトアームズ州は、王都のすぐ北東に隣接している。もともと初代勇者卿アイル・シュナはわずかな村を治められればそれでよかったはずだが、子孫の活躍と統治能力が評価されて先々代(第七代=アルスの祖父)に至るまでに今の領土になるまで広大なものになったらしい。

 その州境を超えライトアームズ州に入るなり、それなりに発展した街に到着した。

「我が州はさっきも言ったとおり、かつての大小さまざまな町や村の集合体だ。だから中央が発展していて外に行けば田舎町なんてこともない。それに畑や農地も広大で豊か。食料自給率は150パーセント。我が州が納めている高額納税の半分が、オーバーフローした食料品を他州や他国に売って得たものだ。今、災害に備えてそれらを保存食にできないかを検討・研究している」

「災害ですか。嵐が来たら一気に農作物はダメになりますし、疫病で家畜が死に絶えればその処分どころか、農家によってはお墓を立てて供養するところもあるでしょうね。備えは大事です」

「保存食ならうちもやってるよね、師匠。根菜の漬物だっけ?」

「ええ。燻製肉もそうですね。昔の人は良くあのような保存方法を考えたものです。ライトアームズ州は更なる方法をお考えなのでしょうか」

「そうだな。父アトラが『缶詰』と言うものを発明し、養蚕業とは別に親子でその発展を試みている。金属製の容器に入れてやはり金属のシーリングを施し、加圧加熱して食品を腐らせる原因となる悪玉菌を死滅させる製法だ。まだまだ錬金術師だよりのところが大きいが、それを民間の技術でできるようになれば災害対応も可能と言うわけだ。そして冒険者にとっては、遠征中のキャンプでもおいしい缶詰料理が食べられる。要するに陸軍で言うところの軍用携帯食(レーション)だ」

「それは素晴らしい! 缶詰なるものが広く普及したら、我が州にも卸してくださいね!」

「師匠、食い意地……」

 そして見えてきた、『首都ライトアームズセントラル』。

 大きな砦をくぐり、さらに車を走らせ、たどり着いたのはとんでもない屋敷であった。

「え……? どこですか、ここ……?」

「そりゃ異質に見えるだろうね」

 そこは、『太陽手及びライトアームズ流剣術道場』にして『州議会庁舎』にして『歴代勇者記念館』にしてライトアームズ家の邸宅。しかも立派な庭園を持つ広大な敷地には『迎賓館』も存在し、そこは太陽国から武術指導に招く『太陽手の師範』を宿泊させるためだけの館である。さらに今、その向かいにある『ガラクタ屋敷』を錬金術工房へと改装中である。

「『何でもあり』すぎませんか?」

「カオスなのはよく分かってる。このカオスぶりは六代目(ひいそふ)から始まったらしい。だが錬金術工房だけは僕と父の事業だ。やがて『缶詰研究所』にしたいと思っている」

 手入れの行き届いた庭園を抜ければ、立派な門にたどり着く。アルスは何の遠慮もなく「ただいまー」と扉を開けて空とヴィントに言った。

「改めて、ライトアームズ州領主邸へようこそ!」


 誰もいないのか、アルスは空とヴィントを家族用のリビングに通してキッチンで茶を淹れ始めた。そんなアルスにヴィントが尋ねる。

「なあ勇者。普通、めっさえらい貴族ってメイドがたくさんいるんじゃないの?」

「ああ、いるよ。でも自分でできることは自分でしてる。それが家訓だからね。掃除、料理、皿洗い、すべて修行さ。まあ庭の手入れまではできないけどね」

「そうなんだ。今日は?」

「昨日のうちに終わらせるようメイドたちに伝えておいたよ。それに大体我が家では、専属の少数の給仕人と必要に応じて冒険者を雇ってる。見栄を張るためだけに部屋数は多く、国内の賓客を泊めるためにしか空き屋敷を使っていないからね」

「そこまで見栄張っといて、どうしてそこまでカネ掛けないでやってんのさ?」

「貴族また勇者の家系とはいえ僕らだって人間だ。ちょっと権力に溺れたら、きっとそこから沈んでいく。初代勇者アイル・シュナ・ライトアームズが重んじたことを常に忘れることなく、僕たちライトアームズ家の人間は強くあらねばならない。強さとは戦う力ではない。それは空が重んじる『五常の徳』そのものだ」

 五常の徳。

 それは空が弟子であるヴィントとフォレストに教え込んだ五つの柱である。仁=愛、義=正義、礼=礼儀、智=判断力、信=信頼関係である。

「だというのに、ほんとにうちのバカ親父は……」

 そう愚痴りながら、アルスはヴィントと空に紅茶を差し出した。シュガーとミルクパウダー、そしてお茶菓子としてマカロンもある。

「そのオヤジさんはどこにいるのさ?」

「さあ。あの人は人付き合いだけは上手だ。どうせ今頃喫茶店でおしゃべりでもしているのさ。まあ社交も貴族の仕事だからいいけどさ」

 その時、玄関の扉が開く音が聞こえた。どうやらアルスの家族が返ってきたようだ。

「さて、きっちり話をつけさせてもらおうか?」

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