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第三十一章 勇者の家族、暴走する! ~父が、止まりません。~

 レアガルド王国王都。

 王城、新年祝賀パーティー。

 貴族はこのような場に代理人を立てることもあるが、年の節目の会食にはそれはできない。そのため、どの貴族も自邸にこそ代理人を立て、頭首自ら足を運び国王であるライノックに新年の挨拶に伺うのである。そしてそれは空、アレット、ひまり、ピエリーナも同様だ。

 そして今年は重要な発表がもうひとつある。

「皆の者、聞き届けよ。急な発表になって大変申し訳ないのだが、この度、我が息子フォレスト・レアガルドの婚約を発表したいと思う。お相手はそちら、フォーマメント州領主がひとり呉空子爵付きのメイド、シュトラルラント王国出身、階級は騎士、ヴィント・フォン・リヒトホーフェン嬢である」

 ヴィントは過去に着たこともないきらびやかなドレスをまとい、アオザイ姿の空にエスコートされてフォレストの横に立つ。

「ご存じの者も多かろう。呉卿は八極拳なる勇猛な武術を修め、陸軍アルミスセントラル分隊の兵士として各種訓練を受け、その実力で多くの武勲を立て、吾輩がその実力を認めて、彼女の戦友らと共に子爵の位とフォーマメント州を治める権利を授けた。

 そのメイドであるヴィント嬢もまた呉卿の武術を継承し、我が国の汚職の一掃に尽力してくれた。その功績と悪意に立ち向かう勇気をたたえ、吾輩は嬢に騎士の位を与えた。平民の出ゆえに作法は多少つたなく見えるであろうが、正義感も武術の腕前も師匠譲り。そしてその揺ぎ無い気高さは我が息子が認めたもの。国王としても父としても、ヴィント・フォン・リヒトホーフェン嬢が未来の王妃の座に収まることに異議はない。

 皆にはこの両名の幸福と、両名がレアガルド王国にさらなる希望の光をもたらしてくれることを願って祝福してもらいたい。さて」

 そう言ってライノックは、フォレストとヴィントに命じた。

「ここで八極拳を実演せよ。功夫と言うものをここに示せば、フォレストを嘲笑する者やヴィントを下級の出とさげすむ者はおるまい」

「はい、父上」

「分かったよ、王様」

 アルスや空たちが規制線を展開し、ホールには大きな空間ができた。

 その空間にて、フォレストとショートドレスに着替えたヴィントは向かい合う。

「八極門、フォレスト・レアガルド!」

「八極門、ヴィント・フォン・リヒトホーフェン!」

 立会人として空が言った。

「『散手(さんしゅ)』、実演!」

 それは、多くの武術で採用されている模擬戦にも近い『二人一組で繰り広げる型』。あくまで修行のためにするものであり相手にダメージを与えるようなものではない。それでも、レアガルド古式硬拳にも酷似する大迫力ながら洗練された動作に、誰もが息を呑む。

 そして、散手は両手を合わせる姿勢で終わりを告げた。互角の決闘すら思わせるそのフォレストとヴィントの散手に、多くの人々が拍手喝采で讃えた。だが、かつてヴィントと決闘したことがある陳拳王(チェン チュアンワン)は気に入らなさそうにしていた。

 その後、フォレストとヴィントの周囲には人だかりができてしまった。フォレストに「この平民の出のどこがよかったのか?」と言う無礼な質問に対し、それでもフォレストは「ヴィントのこういうところに僕は惚れたんです!」と不愉快になるどころか誇らしげに嬉しげにヴィントの魅力を語り尽くしても止まなかった。それはもう、ヴィントが「かゆいからやめてくれ!」と悶絶しても。


 その後、会食の場はイハトヴの湖上ホテル・ヒビキに移り。

「いや~、はっはっは! ああいう『示し』も大事だが、こういうところでくつろぐのも大事だな。昨日はまことによい日であった!」

「こんにゃろ。すぐそこに別荘があるってーに、どうしてわざわざお金をかけてヒビキでパーティー開くかね」

 もともとライノック付きの秘書だったリューンは、平気で国王である彼に毒を吐く。

「まあそう言うな。心を許した者だけの集いだ」

「つまり、それ以外は心を許していないと?」

 周囲を見渡し、ライノックは本音をばらした。

「国の運営にもいろいろあるのだ。今、貴族として認めている家々はそれなりに歴史と実績がある。だが言ってみれば我々は、社長と社員の関係のようなものだ。サラリーマン気質の貴族など、今よりよい条件をチラつかされれば風見鶏のようになびくものだ。それが本当のサラリーマンならよいだろう。それが貴族であってみろ。かつてこのイハトヴをなんだかんだと理由をつけて破壊しようとした『風見鶏御三家』のように国を脅かす。だからこそ、吾輩はことあるごとに貴族らの動向をうかがい、問題があれば是正を促し、国への反逆が認められれば首を切らねばならんのだ」

「なるほど、そういうことですか。国家運営も大変ですね」

「そういうことだ。まあ、今は我々が客だ。思う存分楽しむがよかろう。あちらの新婚も楽しそうだしな」

「まだ『婚姻の儀』は先ですけどね。はぁ、あの無作法な少女が王妃として認められるまで何年かかることやら」

 フォレストとヴィントは、空に習った散手を何度も繰り返していた。

 それは修行のようでデートのようで、そのどちらでもありそうで。

 生暖かい目で見ているのは、ライノックやリューンや師匠である空だけではないようだ。

 しかし、そんなふたりの幸福を喜べないどころか眼中にない者が一名いる。

「さて、どうしたのだ、勇者卿アルスよ」

 そう。せっかくのヒビキ甲板上パーティーだというのに、フォレストは酒にひと口もつけず串焼きばかりをむさぼっていた。

「……父が」

「おお。先代勇者が?」

「父が、暴走して止まりません」

「はぁ?」

 アルスはさらに網焼きのピーマンの肉詰めやシイタケの炭焼きなどおよそ貴族が食べるようなものではないものばかり焼いて食す。

「祖父も呆れるほどの怠惰な性格の父が、僕がある女性を好いていると知った途端に僕の意志など無視して結婚式を開こうとしているのです。最悪、明日にでも開かん勢いで。一応は祖父が全力で食い止めているのですが、それもどこまで持つか」

「えーと、それは喜ばしいことではないのか? ついに貴卿にも奥方ができるわけではないか」

「何をおっしゃいます。僕は空のことをあくまで尊敬に値する者としか見ていないわけで、空にもまだ自由であってほしいと願っているんですよ」

 途端、ライノックはブラックボア(狂暴イノシシ)のフィレをのどに詰まらせてひどく咳き込んだ。

「いや、それは! ……なあアルスよ。空を嫁に迎えることに何の不満がある?」

「不満とかそういうことではありません。彼女の意志を無視してまですべきことではないということです。それは空を嫁に迎えられるなら無上の喜びではございますが」

 アルスは空を愛しているがゆえに、ライトアームズ家の、と言うよりは父アトラの思惑に準じさせるわけにはいかないのだ。

「彼女には、自由に起因する笑顔こそがふさわしいのですから」

「彼女、なぁ……」

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