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エピローグ そして開拓は進む ~村の名を、ギムレーとします!~

 だが。

「いえ、これはぜひ僕に譲ってください!」

 そうフォレストが言い出した。

「ちょっ、フォレスト!? これ私だぞ! 私の裸だぞ!」

「そこはちょっと恥ずかしいからマフラーか何かかけるよ。でもやっぱりさ、好きな人に由来するものなら、欲しいと思わない?」

「すっ!?」

 何の前触れもなかった突然のフォレストの告白。まさかヴィントに好意を抱いていたとは。ヴィント本人はもちろん、八極拳の師匠である空、旅の仲間であるアレットたち、リューンなど王族関係者、フォーマメント州民、誰もが驚きざわめき騒いだ。

「わ……!? 私が!? 好き? ちょっと待てよフォレスト。こんな礼儀知らずでがさつでデカパイメイドと比べ物になんない私だぞ! さてはあれか、ロリコンでメスガキ好きか!?」

「確かにリューンはきれいな女性だけどそんなんじゃないよ! でもさ、好きだって気持ちはいくら考えても理屈じゃないんだ。ヴィントがいいんだ。この人を僕のそばに欲しいって、王族の立場を以って、そしてひとりの男として、何を懸けてでも守りたいって、そう思えるのがきみなんだ。たとえどんな痛みを伴ってもさ」

「どんな痛みをって、おい」

 そう。

 いじめっ子のアッカー・クレベルトがヴィントに横暴を働こうとした時、彼のパンチを顔面で受けたのが、その何よりの証拠である。

「でも……」

「ん?」

「僕はきっと違う人と結婚させられる。王家と縁を持ちたい貴族、両親が選んだ婚約者と。王族ってそういうものみたいなんだ。実は父さん、今から僕の婚約相手を探してる。でもさ、一生に一度でもせめて好きな人に好きって言っておきたいんだ。その人にちなんだものが欲しいんだ。だからお願いだ、ヴィント。きみの女神像を僕が譲り受けることを許してくれないかな?」

 ヴィントは動揺のあまり言葉が紡げない。いいぞ王子様とはやし立てる者もいる。

 顔を真っ赤に染めてヴィントに告白してしまったフォレストに、リューンが言った。

「それは公然ときみのパンツが欲しいって言っているようなものですよ、殿下」

「それはないんじゃないかなあ!?」

 ひまりは思った。言いたいことは分かるがたとえが悪いと。

「うっさいよ、このムッツリ王子もデカパイメイドも!」

 するとヴィントは、八極拳の修業で荒れた両手で顔を覆ってうつむいてしまった。ヴィントが初めて見せる乙女の表情だ。

「ヴィン」

「分かったよ! 像でも何でも持ってけよ! なんだったら私自身もくれてやっていいぞ! 工事現場で私を守ってくれたお礼にしちゃ安すぎるけど、欲しけりゃ持って行けよ、こんくらいしかできないから!」

 それは事実上、まだ結婚を申し込まれていないのにそれを了承してしまったということだ。

 そしてフォレストは、未来の国王としてまたひとりの男として、覚悟を決めて答えなければならない。

「国王である父さんには僕から頼んでみる。僕はきみが欲しい! ずっと大切にするから! あーでも、八極拳は一緒に続けようね? ヴィントと一緒の方が楽しいからさ」

「最後で台無し! でもいいよ。こんな私でも大事にしてくれよ。いよいよフォレストの手に負えないことが起こったら、そん時ゃ私もお前をこの八極拳で守るからさ」

 ついには空が頭を抱えて悶絶してしまった。「ふたりの師匠としてこういう時どうすればいいのですか!?」とアレットに泣きついてまで。そんな空はさて置いて、ピエリーナがため息をつきながらフォレストとヴィントに言った。

「おめでとうなのです、フォレスト殿下。それではヴィントには、未来の王妃様にふさわしい修行もつけなきゃなのです。リューンさんにしっかり習うのです」

「そっ、そだね、ピエリーナ姉ちゃん。そのためには八極拳で強くなって、冒険者として活躍して、男爵とかもっと上の爵位をゲットして。やること大変だ」

 その時、国王ライノックが割って入った。

「聞いていたぞ、フォレスト。ヴィントを嫁にしたいんだってな?」

「えっ? あっ、はい! 『国王陛下』!」

 父としてではなく国の権力者の肩書でライノックを呼ぶフォレストの言葉と、そして彼の表情には、それを示す覚悟があった。

「うむ。此度の就学の旅で予想以上の成長をしたようだな、息子よ。この吾輩が許そう。そして呉空子爵がヴィントを手放すことを許すなら、存分にふたりで幸せになるがいい」

 国王の許しが出た。これにはここに集うすべての人(空を除く)が祝福の完成を上げ、フォレストとヴィントをもみくしゃにしてまで荒々しく彼らの婚約を祝った。

 だがひとり。

「ヴィントを手放すつもりは毛頭ありません!」

 空だけが純粋に祝えなかった。

「師匠!?」

「くっ、空師匠。やはり、だめですか……?」

「そういうことではなく!」

 空は、フォレストとヴィントを自らの胸に強く抱き寄せて言った。

「ヴィント。あなたはいつか私のメイドとしての役目を終え巣立つことでしょう。それでもヴィントは、そしてフォレスト殿下も、わたしにとって八極拳の弟子であるとともに、家族と同じくらい大切な人であることに変わりはないのです。それを『武林是一家(ぶりん これいっか)(武術社会はひとつの家族)』と言います。私はあなたの師匠、義理の親として、あなたの婚約成立を心から祝福したいと思います。まだ、覚悟は決め切れていませんが」

「うん。いいよ、師匠。お母さんやブリッツ、師匠たちフォーマメント州の人たち以外にも、私を大切にしてくれる人がいてくれるんだって分かって嬉しいからさ。私がここを出ていく時は私に決めさせて。でも八極拳を半端に投げ出すことはしないって、それだけはフォレストと一緒に約束するからさ」

 そう言うヴィントにフォレストも続く。

「はい、空師匠!」

 そして空はさらに強くふたりを抱きしめると、ふたりの肩に手を添えて祝辞を述べた。

「ヴィント、幸せになってください。そしてフォレスト殿下。『わたしの娘』を、よろしくお願いします」

「はい、『お義母様』!」

 一大ニュースに実の親と弟であるアウローラとブリッツも駆け付け、娘の門出を祝った。そして空のそばにも。

「よぉ。遊びに来てみればこんなビッグニュースにありつけるとはな!」

「にぎやかなことになっているようですね」

「ガムラン元大将!? それにキングスレイさん! どうしてこんなところに!?」

 その人物こそマティス・ガムランなのだが、雪越えのコートなど着ず、それどころか前をはだけたサンティーエ帝国陸軍のジャケットにTシャツにデニムパンツというラフ(もはや季節に対して非常識)な格好であった。そしてキングスレイは、相変わらずのドレスに毛皮のコートに防寒ブーツと言う姿である。並べば非常識夫婦だ。

「冒険者ギルドで報酬の交渉とかその他調査報告とか色々やることがありまして。ギルドがこまごまとした手続きをしている間に喫茶店でガムランさんと喫茶店でお茶をしていたのですが、ガムランさんが空さんのことをお孫さんのように気にかけていらっしゃるご様子だったので、手続きが終わり次第、車を飛ばしてやってきちゃいました!」

「こいつ、無駄に行動力あんのな。普段からちゃんと寝てるのか?」

「あー、あんたがどこの誰か知らんッスが、ええ、兄貴の行動力と実行速度はチーターなんて目じゃねえッス」

「お? お前がレアガルド王国保安庁諮問探偵の妹ちゃんか。ボーイッシュな顔してるが、お前ら生まれる性別間違えたんじゃないのか?」

「ほっとけや!」

「はっはっは。兄貴をウザがっているって言うのは本当みたいだな。まあそう邪見にしてやるな、兄妹だろ? そうだ、空。どうしてって、もてなされに来たんじゃないか。リゾート・イハトヴは営業中なんだろ? 空にお酌してもらいたくてな」

「それは構いませんが……。もう、頭がパンクしそうです。今日はわたしが客になってゆっくりしたい気分ですよ」

「じゃあ一緒にゆっくりしよう。あ、ご挨拶が遅れました、国王陛下」

 ガムランはついにここにいるお偉方全員で飲み明かそうとしたのだが、ここでやっと当初の目的をフォレストが思い出した。

「あ、いや! ちょっと待ってください! ヴィントの女神像のおかげで当初の目的を完全に忘れていました!」

 トワトルが尋ねる。

「フォレスト王子、当初の目的って?」

「はい、トワトル村長。この村にはまだ名前がないと聞き、我々の一存で申し訳ないのですが決めてきたんです。今からそれを発表しようと思うんですけど、構いませんか?」

「それはそれは! 大事なことを邪魔してしまって大変申し訳ございませんでした。して、この村の名前は何と言うのでしょうか?」

「はい。では、ここにいる皆さんの前で、有名な旅物語の名台詞を借りて宣言します!」


 そして、無名の村にそれは与えられた。

「ここを、ギムレーとします!」




 八拳演技 – A Saga of the Sky-Color Warrior Girl 黎明の物語

 THE END.

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