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エピローグ そして開拓は進む ~えっちなのはいけないと思うのです。~

 年末。

 レアガルド王国フォーマメント州領主邸。

 三日かけて帰ってきた空たちは、全員そろって風呂に入り(フォレストも強引に引きずり込まれた)、温まったところでひまりのスープを飲み、フォーマメントを開けていた間のリゾート・イハトヴの経営状況を聞く。

「そうですか。わたしのアイデアはどれもご好評いただいているんですね」

「そりゃーもう大好評ッスよ! 雪合戦は子供たちに大人気、そんな子供たちを見守りながら親御さんはコテージに集まってひまりのマツタケスープをご堪能、雪見露天風呂も風情があっていいってお褒めのお言葉をいただいてるッス。ただ、猟犬ハンティングだけはダメだったッスね」

「ダメとは?」

「猟犬の中には気性の荒い個体もいて、それは食料を取ってくる分には申し分ないんッスが、アトラクションには向かなかったッス。まあそういうこともあって今は開拓中の村に預けてるんッスよね。犬ぞりだけなら、おとなしい個体を集めてアトラクションに使えているッス」

「それはよかったです。ほかのサービスはどうですか?」

「んッス。『湖上レッドギル釣り』は一応初開催なもんでライフセイバーを置いて、安全に配慮して楽しんでもらったッス。釣果は、最初こそよかったんッスけど最近釣れなくなってきたッスね。多分個体数が減っているのかもッス」

「では、今季はもう釣らないであげた方がいいと思います。我々が共存させていただくためにも、期間限定イベントにするがもよいでしょう。反省です」

 そう言う空にひまりがうなずく。

「うむ。それに人は期間限定など恒常的に味わえぬ催し物や商品には弱いもの。来年からその線引きや調整などをうまく行えば、レッドギルの急減にもリゾートの売り上げにも対応できるでござろう」

 そこにピエリーナも意見した。

「あのっ! それと、レッドギルが減ったことで湖の生態系に変化がないか、湖の氷がなくなったころに確かめる必要もあると思うのです。やっぱり、リゾートと湖棲魚たちの共存のためにはほかの動植物のバランスも考えなきゃって思うのです」

「そうですね、ピエリーナ。では今すべきことと春を迎えてすべきことをリストアップしましょう。それと、村の開拓はどうなっているでしょうか?」

「んッス。雪が降ってから開拓はほとんど止まってるッス。その代わり水回りを主としたライフライン整備は雪が降る前に何とか整え、今は雪をかき集めて溶かしながら生活用水にしてるッス。さすが錬金術の町アルケモートが近いだけあって、汚れた雪をきれいにして飲み水や調理用水にしてしまうとか、開拓途中の村にしては清潔な暮らしができてるんじゃないッスかね?」

「それはすごいことです。病人などは?」

「それも、アルケモートのポーションがすごいってことッスかね? ギネー草がここらに大量に生えているってこともあって、それを鍋料理に使っているせいか風邪を長くこじらせる人は少ないッス」

「それは良いことです。陸軍でも習いましたが、感染症対策は大事ですからね。呪術など間違った民間療法に頼ることなく科学的処置ができるのは我が州の強みです。しかし、村の名前はあるのでしょうか?」

 それはフォレストも気になっていた。フォレストも凡人並みにネーミングセンスがない(壊滅的とまでは言わないが)。ネーミングセンスならひまりが抜きん出ているが。

「そうでござるな。拙者もイハトヴのもてなしや出し物の品質向上に尽力していた故、村の名までは考えてござなかった」

「即席や仮で構いません。名前がないと不便ですよ」

 そう言うフォレストに、ひまりはひとつうなって答えた。

「では、あくまで仮でござるが、『ギムレー』と言うのはどうでござろうか? レアガルド伝記やエンシェントエイゼルンサーガなどとはまた別の物語、『ノルド神話』に語られる地名に由来するものでござる。ギムレーの意味は、『戦火より守られたる大地』。すなわち、戦争や動乱、人々を苦しめる災厄より隔絶された理想郷、その願いを込め、拙者はギムレーと名付けとうござる」

 その時、領主邸はだんまりとなった。

 それこそ、まるで時間が止まったように。

「……あの? 拙者、変なことを申し上げたでござろうか?」

「違うッスよ!」

 途端、アレットがひまりの肩をつかんだ。

「アレット!?」

「いやあ、ひまりのネーミングセンスはいつでも自分らを凌駕すると言うか、神話に由来するって言ってもその神話を知らない自分にしてみれば『さすがは考古学者!』って感じでもあるッス。みんな! そしてフォレスト殿下! 自分はひまりの意見、ギムレーを村の名前にしたいと思うッスが!」

 そう言うアレットに、フォレストが答える。

「その神話は知っています、学問としてリューンに教わりましたから。それは、神々と人間、神界保守派と世界掌握派の勢力が引き起こした『存亡をかけた大戦争・ラグナロク』のあとの結末です。それは『礼節をわきまえし人民は、善良なる神々と共に、肉体こそ滅びれど魂は永久にその地にて生き続ける』とされる場所。緑に囲まれ、大地の恩恵を一身に受けるこの地、これ以上の名があるとは思えません。ひまりさん、その名をありがたく頂戴したいと思います!」

「かしこまりました。フォレスト殿下の御意のままに。それでは明日、今年最後の村の集会にて村の名を正式発表することに致しましょう。空、アレット、ピエリーナ。明日は盛大なる催し物が!」


 ……あった。

 これには、空、アレット、ひまり、ピエリーナ、ヴィント、フォレスト、リューン、そして多くの人々が口をあんぐりと開けて固まった。

「拙者は、このために人を集めたわけではござらぬが?」

「ひまり。これにはわたしも想定外と言わざるを得ません」

「わーぉ。随分色っぽい銅像が出来上がったッスね」

「私は、これもまあ芸術って思うのです……?」

「芸術どころじゃないよ! 私の裸を勝手に銅像にされるとか!」

「ヴィント、僕はきみに心底同情する。鼻血が止まらない」

 フォレストがこの村の名前を正式発表するより先に、彼らの到着を待つ間ベールで被われていた『村の象徴』がその姿を現したのだ。その銅像の制作者である暫定村長トリスタン・トワトルが誇らしげに言った。

「そうですとも! やはりこの村には女神が必要です。その女神こそ空様! ……と言いたかったのですがそれはあまりに恐れ多く、お弟子(でし)様のヴィント様を女神と祭りそのお姿を銅像にかたどらせていただきましてございます! どうでしょう、この誇らしげな神々しきお姿!」

「いや普通に恥ずいっての! やらしいっての!」

 誇らしげどころではない。

 銅像のヴィントは、空が持つ槍・穿雲を台座に突き刺し、その槍を背にして力強さどころか成長途上の胸を強調し美少女らしい曲線美を強く押し出している。確かに美術作品として美しいには美しいが、これを村の象徴とするにはいささか刺激が強すぎる。

 そして空は言った。

「領主命令です。撤去してください」

「えっ? いや、しかしこれだけ美しい女神像を」

「撤去してください。この村の象徴はフォレスト殿下であり、ヴィントではありません。ましてや愛弟子の裸をさらすなど言語道断。さもなくばわたしの権限で、あなたを村長から引きずり下ろします」

「わっ……、分かりました。ではこれは我が家に飾るとして」

「処分はこれから会議します。それはさておき、どうせ作るなら王族の衣装をまとったフォレスト殿下か、殿下にまつわる、殿下を連想させるものを象徴としてください。いいですね?」

 そういう空の目は、かつて誰にも見せたことのない凄みを帯びていた。

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