第三十章 進撃の八卦陣 ~『大きな獣を従え、大きなスーパーロボットに乗るのは少年の夢』って相場は決まっているんだよ!~
後日。
冒険者ギルド・エルメスカウンター庁舎前。
アルスがとんでもないものを持ってきた。
いや『連れてきた』。
「おーい! 面白いものができたぞ!」
それは、一機のゴーレムなのだが。
それについて、顔を真っ青にした空が尋ねた。
「あ……、アルスさん、それは何なんですか……?」
「くだんのボナパルト重工業に発注して作ってもらった。グガランナのゴーレムコアと制御装置はそのままに、賢者の石に汚染されたコアをリセットし、骨格を『ライガー』型に整え、装甲を『シーサー』風デザインに、動力は『新型アークルインテーク』とパイロットのアークルにしたものだ。我が勇者アルスパーティーの新しい戦力、その名も『太陽の獣王』だ!」
ゴーレム・ソウェルライガー。
アルスが言った通り、グガランナのパーツを再利用した、戦力と言いつつあくまで『移動用ゴーレム』。ライオンとトラのハーフの動物ライガーをベースとし、太陽国の守り神シーサーを強く意識した装甲を持つ。骨格は新造したため大きさはあのグガランナよりもひと回り小さいが、ライガーがベースだけあって俊敏性は高く、搭乗者がいなくてもアルスの言うことを聞くおとなしいゴーレムである。ちなみにアークルインテークのオンオフは、ライガーのあごの下にある『ターン式スイッチ』で切り替えることができる。つまりオフにしていれば一般のゴーレム同様全く動かなくなるのである。
「アルスさん……。それを、どうする気ですか……?」
「何って、まあ、旅の移動用に。ご存じの通り一応車も持っているんだが、『大きな獣を従え、大きなスーパーロボットに乗るのは少年の夢』って相場は決まっているんだよ。それにライオンはドラゴンと並んで力の象徴なのさ。それを勇者が乗りこなせば、さらに勇者としての箔がつくってものじゃないか!」
「えっ、ええ……。ヤマトの織田信音公も、そんな感じの漫画をお持ちでしたね……。確かタイトルは、『咆撃のアイゼンレーヴェ』でしたでしょうか、機械仕掛けの獅子に乗って旅する少年と少女の物語でした。信音公がソウェルライガーをご覧になったら、きっと狂喜するでしょうね……」
「よし! ではいつかヤマトにはこれに乗って行こう!」
「そっ、そうですね。その折りには、ソウェルライガーの小型版をご用意なさるとよいでしょう」
空、どこかやけくそであった。
「そうだな。いや待てよ。あるいはこれを荷運びギルドや金持ちの貴族に売れば……、でもって空にもひとつ」
最後はそう来たか。やはり空に喜んでもらいたいという考えに至るのか。この考えにはフォレストたちも呆れる。だがそこに、ピエリーナが意見した。
「だったら、『ミニ・ソウェルライガー』として三頭ほど欲しいのです。移動用と物資輸送用に、それだけあったら困らないのです。あと、ライガーがおとなしいゴーレムなら子供たちに乗ってもらうこともできると思うのです」
「それはいい! では一頭は僕から空へのプレゼントとして、その三頭は後日書面をかわそう。そのためにはボナパルト重工業に頑張ってもらわなきゃな!」
「あれ? でも社員の皆さんは例の分厚い本に洗脳されているのではないのです?」
「ああ、それならキングスレイさんが解いてくれたよ。まあ何というか……、いつもの通り、妹を守るために身に着けた術のひとつらしい。キングスレイさん曰く、それは『悪用したらとんでもないことになる人心掌握心理術』らしいんだけど、それを身に着けたのがキングスレイさんで本当によかった。会社経営者が社員に対して悪用したら、あっという間にブラック企業が出来上がるからな、今回のボナパルトみたいに」
その場の全員「あー」と言って納得してしまった。製品のために命を懸けさせられてはブラックどころではないが。
すると、猛焔がふっと笑ってアルスに言った。
「実は俺の地元にも『鉄獅子』って像があるんだ。鉄獅子は水害から守ってくれる神獣として祀られているんだ。お前の地元と通じるところがあるようだな」
「そうだな、猛焔。ライガーに乗っていつか鉄獅子を見に行こう。刑期を終えたら、いつか太陽国にも来てくれないか。僕の地元じゃないが太陽国は先祖の故郷で、気候も人々もいいところだからさ」
「互いの約束として交わそう。ソウェルライガー、いいご主人に恵まれたな」
猛焔の穏やかな笑顔を見てか、ソウェルライガーは小さくうなって鼻を猛焔の頭にこすりつけた。
12月27日。
今度こそ、すべては終わった。
雪が降る中でも空たちはこれまでにかかわってきたすべての人に礼を述べに行き、アルスから贈られたミニ・ソウェルライガーにまたがった。空が所有する蒸気駆動車は、ピエリーナが運転することになった。
なお、空の車もアルスの車も屋根のないタイプの軍用蒸気駆動車だ。冬の雪風をしのぐために、これもまた軍用『雪中行軍タープ』を車体に施すことで防寒対策している。
「空さん、アークルがなくなって疲れたら言うのです。座席は空いているのですし、ライガーが乗るスペースも確保しているのです」
レンタルのガトリングガンは取り外している。
「ありがとうございます、ピエリーナ。アルスさんたちも」
アルスはさっそくソウェルライガーを乗り回し、リィンたちパーティーメンバーはいつもの車で帰る。両陣営とも全く同じ構図で、リィンは苦笑いを隠せない。
「あたしたちも自領の面倒を見なきゃだし、ここでお別れだね。兄貴ってばあんなの作っちゃって、列車で帰れないじゃないってねぇ」
「あははは。どこかで『男ってやつは一生少年なんだ』ってフレーズを聞いたことがあるのですけれど、アルスさんを見ていると本当にそんな気がするのです」
「でしょ? でもって何を隠そう、この堅物のジョンもね」
「言うな」
普段から無口のジョンが珍しく口を開いたと思ったらこれだ。
「アルビオン語訳版のアイゼンレーヴェ単行本、全巻三セットそろえてるのよ。観賞用、保存用、布教用にってね」
「言うなと言っただろうが」
無念。手遅れである。
だが寒い中駄弁ってばかりもいられない。フォレストが収拾をつける。
「それでは皆さん。それぞれの領地で待っている人がいますし、みんなでよい年越しをしたいでしょう。年が明けたら必ずご挨拶に伺いますので、今は我々の帰りを待つ仲間たちのもとに帰りましょう。無事に帰って元気な顔を見せるまでが、旅ですからね」
「おっしゃる通りです、フォレスト殿下。それじゃあジョン、フリューゲルちゃん、車に乗ろっか? ……兄貴はほっとくか」
空とアルス、ミニライガーとソウェルライガーも、互いに別れを告げた。
「アルスさん、よいお年を」
「ああ、空も。そしてまた会おう」
そしてフォレストたち一行とアルスパーティーは、それぞれの方向に走り出した。
今はそれぞれの仲間と共に新しい年を迎え、それを喜ぼう。
空たちにとっては、リゾートを経営して初めての年末年始を迎えることになる。さて、どれほどにぎやかな年越しになることやら。
だがその前に課題が残っている。
「ライガーが可愛くて夢中になって遊んでいましたが……。お尻、痛いですね」
「あはは。空師匠、帰ったらさっそく鞍と鐙を作りましょうか」
「師匠、私も手伝うよ!」
「では、みんなで作りましょう!」
ピエリーナも一緒になって「おー!」と拳を振り上げて盛り上がるが、リューンは「お子様は元気ねえ」と呆れていた。




