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第三十章 進撃の八卦陣 ~ゴーレム停止を確認、そしてこれが事件の真相です。~

 工場を脱走したゴーレム・グガランナの背に舞い降りたヴィントは、強く吹く風に耐えながら頭部に向かって歩いてゆく。

「こんにゃろ! 図体ばっかデカくて歩くの遅いと思ったら、一歩が大きい分、進むのが速ぇじゃん。こりゃー足踏み外すと真っ逆さまだな」

 八極拳で鍛えた脚力とバランス感覚で一歩ずつ確かに頭部へと向かう。

 そしてたどり着けば、強化ガラス製のキャノピー越しに、コックピットのシートにかけるひとりの男の姿があった。どうやら彼だけ、戦うことを避けて逃げ出したようだ。

「おーい! ここ開けろ! 開けろってばよ!」

「なっ!? なんだお前は!? ここは危ない、逃げろ!」

「逃げろってお前が逃げてんじゃんか! もうみんなやっつけた。逃げたって無駄だ。さっさとこのバカでかい牛を止めておとなしくしろ!」

「無理なんだ! 確かに逃げようとしたけど、一度動かしたら俺の言うこと聞いてくれねえんだよ! 砲撃も俺の意志じゃねえ。キャノピーも開かねえ。頼むから俺をここから出してくれよぉ……!」

「……マジかい」

 進撃も砲撃もこの男の意志ではない。どうやら砲撃は、グガランナが自らの意志で邪魔だと断じて放ったのだろう。

「しゃーねえ。ゴキブリのおっちゃん(ジム・ウェイガン)から預かった爆弾だけど、首に仕掛けるか」

「やめて! 俺死ぬ!」

「死にゃしねーさ、頑丈な箱に守られてるんだからさ」

「落下した勢いで潰れんだろ!」

「あ、そっか。じゃあどうすっかなー」

 ヴィントの細腕ではキャノピーをこじ開けることは不可能。グガランナは内部からの操作を全く受け付けない。首を爆破したらパイロットの命が危ない。もはや八方塞がりだ。

 と思われたが。

「こうするんだよ!」

 その時ガムランが、グガランナの後ろ脚を駆け上がり、背を駆け抜け、天高く跳躍し、拳を振り上げてキャノピー目掛けてそれを振り下ろした。

「サンティーエ獣王硬拳、『跳躍硬噛(ちょうやく こうごう)』!」

「バカ言うな!」

 叫ぶヴィントなどお構いなし。ガムランが振るう拳は強化ガラスさえ粉々に砕いてしまった。これにはヴィントもパイロットも愕然唖然。ガムラン、どこまでも非常識な強さを持つ男である。

「ほい脱出しろ。じゃなきゃ俺が放り出してやる。ヴィント、爆弾で牛の頭吹っ飛ばせ」

「……おう、ハイパー筋肉。いくら最強の師匠でも一生あんたに勝てる気がしねえ」

「俺は自己満足で強さを追い求めているだけだ。無理に追いつかんでもいいだろう」


 そしてついに、グガランナは頭を爆撃され停止した。

 崩れ落ちたグガランナ動力部及びリアクターから未使用のホワイトエリクシルが回収され、タビトとガムラン冒険隊のメンバーが持つすべての爆弾でカン・ディグラックの暁鐘は破壊された。単体でも充分使える巨大アタノールリアクターは、サンジェルマンに預けようという話になった。


 グガランナで逃亡を図ったボナパルト社員の話によれば、次の通り。

 陸軍よりサンティーエ敗戦の責任を取らされる破目になったボナパルト重工業は、向こう百年間、あるいは廃業するまで、売り上げの半分を国に治めることになってしまった。だがそれでは社員や家族にものを食べさせることはできず、敗戦直後は途方に暮れていた。

 それでも必死にゴーレムや兵器を製造・販売し続けた。敗戦によって軍備を制限されていた、そしてどこも貧乏なサンティーエ陸軍と建築業者は顧客にならず、しばらくの(おも)な顧客は国外の軍部や建築業者であった。

 そんなある時、ひとりの若い女がボナパルト重工業を訪ねてきた。それは、アークル砲とそれを搭載して移動できるゴーレムの発注であった。当初、アークル砲は『砲』の名がついていたが、それはあくまで水と養分とアークルを荒野に撒いて緑豊かな土地に生まれ変わらせるための『緑化効率化装置』であると聞かされた。

 だがある時、社員の誰かが『アクチュエーターを少しいじると兵器にも転用可能だ、これは危険だ』と言う事実を発見し、社長が例の女性にそれを話したところ、そこから社の上層部がおかしくなったという。何がおかしいかは具体的に言葉にしがたいが、とにかく『会社こそ命、顧客こそ命、売り上げこそ命、品質こそ命』と言う姿勢を貫くようになり、社員にもそれを強要するようになっていった。そして彼らの手元には常に、聖書のような部厚い本があったという。なぜかいつの間にか、自分のロッカーにも。

 そしてついに、アークル砲はカン・ディグラックの暁鐘として、それとリアクターを搭載して運べるゴーレムは力強さの象徴から牛型ゴーレム・グガランナとして完成された。しかしそれらを運用するためには大量の賢者の石が必要で、動物実験の廃棄動物からアークルを抽出した賢者の石ももう底をついた(ほかにも動物型ホムンクルスの納品まで例の女性にせっつかれていた)。そこで目を付けたのが、最近になって新エネルギーとして開発されたホワイトエリクシルと、その発明者サンジェルマンだったのである。

 あとは空たちの知るところ。盗まれたホワイトエリクシルの奪還と、それが叶わなかった時のためのホワイトエリクシル増産の手伝い、ゴキブリ傭兵団との衝突とガムランの勧誘、キングスレイによる追跡とフォレスト率いる冒険者パーティー・タービュランス発足、そして此度の戦いに至る。

 ところでどうしてグガランナに乗って逃げようとした社員はそのような行動を取り、他の社員同様に戦いもせず、例の本に洗脳されなかったのか? それはキングスレイいわく。

「催眠術にかかりづらかったのでしょうね」

「催眠術ってかい?」

「ええ。あなたのように催眠術がかかりにくい体質あるいは脳の構造の持ち主は多少なりともいるようですよ。分厚い本とやらは誓約の書と思われ、誓約の書にはどうやら人を催眠術にかける文章がつづられているようですね。私はそのページを一瞬見ただけですが、見ていて吐き気を覚えるような文章が散見されました。あれを一ページでも読めば、面白い漫画のように全部読み進め、一気に人格を汚染されていたでしょう」

「じゃあ、俺以外の社員は……」

「洗脳の度合いは個人差あれど、全員そろってグガランナを完成・納品させるために命を捨ててかかれと、その本に、顧客の女性に命じられたのでしょう。国際条約に反し兵器としてのゴーレムを製造した罪は重いですが、しかし全員そろって洗脳されていただけ。誓約の書の凶悪性が証明され、それによって操られていたということが証明されれば、ボナパルト重工業は軽い罪で済むでしょう。あなたはそんな会社を離反したに過ぎず、あなたもまた微罪で済むと思われます。あるいは無罪に持ってゆくために私から有能な弁護士をお呼びしますが、どうします?」

「いいよ。微罪で済むなら受けてやる。逃げようと思っても逃げられなかった。俺は貧乏だから、働かないと食っていけなかった。俺は弱かったんだ。まあいいや。しばらく牢屋でおとなしくして、また新しい工場で頑張ればいいさ」

「分かりました。では私は、ボナパルト重工業そのものにかかる刑を減刑できないか、そのための弁護士を探すとしましょう。我々にできることは、ここまでです」

 そして事件は終わりを迎えたのだが。

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