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第三十章 進撃の八卦陣 ~まじいよ師匠! ゾイ、じゃなくて牛ゴーレムが動き出しやがった!~

 サンティーエ共和国、株式会社ボナパルト重工業。

 あってはならないことが起きた。

「そんな! 牛型ゴーレムが動き出したなんて!?」

「避難です! 総員避難してください!」

 なんと、牛型ゴーレム・グガランナが突如起動したのである。

 誰もが驚かずにはいられない。それでもフォレストは努めて冷静に、全パーティーメンバーの避難を呼びかける。ピエリーナの眠り薬で眠らされた社員たちを引きずって避難している暇はない。

 ゴーレム・グガランナは、低いうなり声をあげてゆっくりと動き出した。ギャルドは自陣をグガランナの足元に構えていたため、眠らされた社員のうち何人かがグガランナに足蹴にされ、中には手足を踏み潰される者もいた。

 グガランナの進撃は止まらない。ついには社屋の壁を角で破壊し、両肩で穴をこじ開けてしまう。背中のリアクターとカノン砲が邪魔になるが、ついに。

「撃つぞ。撃っちまうぞ、あいつ」

 ヴィントの言うとおり、グガランナは前足を折り両肩を下げ、地面とカノン砲が水平になるように構えると、その砲口から銀色の光を放ち、壁をうがった。そして大地は揺れ、爆音と衝撃波が地域一帯を襲った。これには誰もが悲鳴を上げる。

「くっ……! わたしが確認してきます。ピエリーナ、殿下!」

「はいなのです、空さん!」

「はい、空師匠!」

 空、ピエリーナ、フォレストが建屋を出てカノン砲の砲撃着弾地を見やる。

 すると何と言うことか、大地はえぐれ、舞い上げられた石や岩が降り注ぎ、銀色の砲撃がついに霧散した地点では2キロキュビトを超える谷ができていた。空はただただカノン砲の威力に愕然となるが、ピエリーナはそれにとどまらずさらに分析していた。

「仮に『アークル砲』と呼ぶのです。あのカノン砲がまだアークルを出力することができ、かつ一直線上に収束することができたら、アークル砲は大地を一直線に切断するほどの威力さえ持っているのです。破壊兵器としては、とんでもないものができてしまったのです!」

「本当ですか、ピエリーナ!? もし、もしこんなものが戦争に使われたら!」

「はいなのです。初手にこれを繰り出した側の圧倒的勝利が約束されるのです。人間がそれを食らえば最後、自分が殺されたという感覚もなく蒸発してしまうのです。こんなもの、こんなもの……!」

 ピエリーナの表情はひどくゆがんでいた。

 怒り、唖然、恐怖、その他さまざまな感情が、震える目が強く語っている。それは武の道に生きる者としてだけではなく、それ以前から錬金術に携わってきた術師として、カン・ディグラックの暁鐘と言うアークル砲を放つカノン砲の存在を許せないのだろう。

 そんな震えるばかりのピエリーナに、フォレストは言った。

「ピエリーナさん、それでもあいつは動き出してしまいました。グガランナを止める方法はないのでしょうか!?」

「はいなのです。何が何でも、止めなきゃいけないのです。そのためだったら、なんだって! なん、だって……」

 その時、ヴィントが駆け付けた。

「なぁ、ピエリーナ姉ちゃん。もしかしたらあの鉄の牛、フォークリフトみたいに誰か乗ってないかな?」

「えっ?」

「乗ってるならそいつを引きずり出せばいいじゃん。乗ってなきゃ頭ぶっ壊せばいいよ。もうあの鉄の牛をのさばらせちゃだめだよ!」

 誰もが愕然とする中、唯一ヴィントだけが勇んで敵の進行の阻止を進言した。

 ヴィントの目が放つ決意は強い。ピエリーナは、震える唇で「お願いするのです」と答えた。

「了解! 師匠、お願いだよ!」

「ええ。わたしもあれはどうにかせねばと思っていたところです。いえ、ここにいる誰もが同じ意見でしょう。そしてこの場で誰よりも、ヴィントが身軽でグガランナの頭上に到達できる可能性が高い。風の魔法であなたをグガランナの背にいざなってもらいます。あとはわたしが教えた八極拳で、グガランナのパイロットをコテンパンに叩きのめして差し上げなさい。フリューゲルさん、リィンさん!」

 合点承知とフリューゲルとリィンは両手と剣を掲げ、ヴィントに風に由来する魔法と魔術をかけた。

「風魔法、『フライリング』!」

「ライトアームズ流魔術、『導きの風』!」

 そしてヴィントは、シュトラルラント語の『風』に由来する自らの名のごとく宙へと舞い上がった。そしてそこから先はヴィントの意志のまま。ヴィントはフリューゲルとリィンに「ありがと!」と言い残してグガランナの背中めがけて飛んで行った。

 だが、ヴィントがグガランナのパイロットを引きずり下ろす、あるいは頭を吹っ飛ばして終わり、と言う展開にはならなさそうだ。何と、工場内でほかのタービュランスメンバーが騒ぎ出したのだ。

「マジかよ、あれ」

 猛焔が頭を抱える。

「マジのようですね」

 空がうなずいて槍を振り回す。

「であれば、迎え撃つのみだな!」

 アルスが長剣ライデイン・ナインスを構える。

「もー許さないのです」

 ピエリーナも戦意全開の目で二挺拳銃をガチャリと鳴らす。

 なぜなら、オオカミやらクマやらライオンやらコモドドラゴンやら、凶悪と評される動物に由来するホムンクルスたちが培養液に濡れた姿でわらわらと現れたのである。その状況をキングスレイは冷静に分析する。

「最初からあれを戦力に回さなかったのはきっと……、納品予定の商品だったのでしょうね」

 そしてフォレストは八卦陣に戻って命令する。

「八卦陣、『防衛姿勢』! 肉弾戦に向かない冒険者を守護しつつ、撤退準備を整えてください!」

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