第三十章 進撃の八卦陣 ~『敗戦の責任を取らされる』って、何から始まり何が求められているんですか?~
空が尋ねた。
「ところで、ガムラン元大将と言いウェイガンさんたちと言いボナパルト重工業と言い、『敗戦の責任を取らされる』って、何から始まり何が求められているんですか?」
それにはガムランが答えた。
「まあ裁判にかけられて有罪判決だったり、損害賠償金を求められたり、一生タダ働きに近い労働条件を課せられたり、それは責任を求めてきたやつが勝手に決めることだ。だが責任を求める側こそ責任を取らねえ。
キングスレイがさっき言ったとおり、戦争とは人を殺す政治だ。政治である以上国のトップがすべてを主導し、俺たち軍人はその主導者の導きのまま戦わなければならん。
だと言うのに旧サンティーエ帝国政府や軍中間層のお偉いさんたちは自分たちが罰せられるのを逃れるために自分より下のやつに『戦争犯罪人/通称:戦犯』として罰を受けさせることを望んでいるんだ。要するに『責任転嫁』ってやつだな」
まさかの仕打ちに、軍人でもある空は愕然として声を荒げた。
「そんな!? それが軍人の、そして政府のすることですか……!?」
「空。軍人としてその怒りはごもっともだ。その怒りを忘れない限り、お前が道を踏み外すことはないだろう。悪い、キングスレイ。話の腰を折ったな」
「それはわたしの方です。ごめんなさい、キングスレイさん」
ガムランと空の言葉に、キングスレイは気にしていないと返して続けた。
「さて、使者なる人物が持っていた計画指令書を見るに、ボナパルト重工業の新型兵器カン・ディグラックの暁鐘、まあ略称として『新型兵器』は、アークルを圧縮放出することで兵器にすることもできればアークルを散布することで生命に満ちた大地を作り上げることも可能ということ。
例えば荒野や砂漠さえ緑地化できれば、小型砲を量産して緑地に設置し、遠距離砲撃さえ可能。またそれらを『子機』として複数設置し、『親機』として運用する大型砲にアークルを集中させることで賢者の石を用いずとも大地を薙ぎ払う砲撃さえ可能。
それを繰り返して人々を殺戮し街を薙ぎ払い、戦争で荒れ果てた大地を緑化し、そこから領土とすることが可能。『壮大なマッチポンプ』の果てに、新型兵器をより早く大量に購入し運用した国が世界を掌握することも可能。まさに、命を食い物にしてね」
「壮大なマッチポンプ、ですか」
空はその侵略方法に覚えがある。冒険者として訪れたことがあるレッドフォート州五区砦の西区、そこを犯罪の拠点にするべく静かに侵略しようとしていた情報屋一味がいたのである。
「ええ。だからどんな手を使ってでも救国の旋律団の拠点と見ていいボナパルト重工業は壊滅させなければなりません。制圧においての正当な理由として、『賢者の石という非人道的エネルギー源を用いた兵器の開発を推し進めている容疑』があるとして、冒険庁より制圧許可状を、保安庁より強制捜索令状を得ています。法的立場としてはこちらが有利。あとは我々とボナパルト、どちらの総合戦力が上かで勝負は決します。正義は我らにあり。その正義を実行するための作戦を、ここで述べます」
キングスレイが冒険者ギルドではなく進軍の道中で話し始めたのはこのためにあったようだ。これならばボナパルト重工業やカリオストロ協会の偵察に聞かれることはない。それでも情報漏洩が起これば、この中にスパイがいることになるのだ。
キングスレイが立てたその作戦を聞き、ガムランひとりが意見した。
「その作戦を実行する前に、俺がひとりで敵を牽制する。まさに今が元軍人として責任を果たす時ってやつだ」
「それは承諾しかねます。あなたひとり犠牲にしてまで勝ちたいとは思いません。この作戦は、敵陣制圧と全員の生還を」
「心配しなくても犠牲になるつもりなんかないさ。今の俺には率いるべき冒険隊がいる。仲間のために死ぬわけにはいかないのさ」
死ぬわけではないのならと、若干不安そうな表情を浮かべながらキングスレイはうなずいた。
「了承しました。皆さん、作戦は今お話しした通りです。ガムランさんが敵陣をかき乱した後であればその作戦成功率も一気に上がるというもの。寄せ集めパーティーメンバーではありますが、ひとつの指揮系統に準じれば惨敗はあり得ません。多少の失敗など織り込み済み。あとは皆さんが互いを思いやる心と絶対に勝つんだという気力、そして皆さんがこれまで培ってきた冒険者としての実力を信じてください。では、フォレスト殿下」
「はい、キングスレイさん。タービュランス一同、進軍再開!」
そして冒険者たちは声を上げて立ち上がった。「俺たちはフォレスト王子についていくぜ!」「勝利の女神がついてるからな!」と声を張り上げるが、キングスレイは「私は女神じゃないですよぅ……」とつぶやく。正直、こればかりは。
「説得力に欠けるどころか皆無ですよ、キングスレイさん」
そう言って呆れるのは空だけではなかった。
株式会社ボナパルト重工業、社屋兼工場建屋。
屋上にあるやぐらにて、土色の外套をまとう見張りの社員が『伝声魔導器』で事務室に向けた通信ラインを開いた。
「緊急通信、緊急通信! 十一時の方角に車両の一群あり、こちらに向かう! 社長に指揮を乞う! 繰り返す、緊急通信! 車両の一群こちらに向かう!」
その時、社屋全体があわただしく動き出す。
見張りの社員はほかにも襲撃者はいないか周囲を確認。だが彼が先に見た車両の一群以外襲撃者は見当たらない。だがその一群に異変が起こった。
「なんだ、あいつ? ラクダに乗って単騎突っ込んでくるぞ!? たったひとりで自爆する作戦か!?」




