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第三十章 進撃の八卦陣 ~サンティーエの敗戦の原因と賢者の石についての考察です。~

 臨時冒険者パーティー、動乱の風(タービュランス)

 空の車の助手席にかけたキングスレイは、「はぁぁぁ……」と深いため息をついていた。

「キングスレイさん、どうなさったんですか?」

「あぁ、空さん。ごめんなさい、みっともないところ見せてしまいまして」

「いえ。気掛かりなことがおありなのでしょうか?」

「気掛かりと言えばアレットと忠八と一緒にやってる会社なんだけど、会社に帰るためにもこれからもアレットを愛でるためにも、これから戦場に向かうのかと思うと死にたくないなぁって思ってしまうんだよね」

「死にたくないのはわたしも、そしてここにいる誰もが同じ気持ちです。それにキングスレイさんは戦闘要員ではありませんし、何もわたしたちについてこなくてもよかったんじゃないですか?」

「いいや、アレットから空さんたちを支えてほしいって頼まれているから、私だけ安全圏にいることはできないよ。それに頭脳であなたたちを支えられるのであれば、できることをしたいというのもまた本音なんだ。ただ先ほどのため息はそれに由来するのではなくて、賢者の石(アークルの結晶)を、つまり命そのものを兵器のエネルギー源もしくは巨大アークルバレットにしてしまおうというカリオストロの考えには心底イヤな気持にさせてくれるなぁと思ってね。……次の休憩時間、ちょっと昔話をしても構わないかな?」

「はい。お願いします」

 そして一同のトイレ・おやつ休憩。

 美青年キングスレイは、淑女然とした態度と口調と声で語り始めた。その話には、フォレストやアルスたち多くの冒険者が集まった。

「では歴史を終戦より少し前に戻して、ゴーレムがなぜ暴走したかという話から始まります。空さんは、ゴーレムはどのようにして作られどのように使われてきたかという歴史をご存じで?」

「ええ、アンカーボルトの博物館で見ました。あれはあまり気持ちのいい展示物ではなかったですね」

「それなら話が早いね。ええ、『人間がアークルを自分が生きるために生み出しては消費するという生命維持の原理には食事が必要』ですが、『ゴーレムという疑似生命体は食事の代わりに外部からのアークル供給が必要』という大きな違いがあります。ではそのアークルを、ゴーレム操縦者が供給しなくても済む方法は何かないか? そのために考え出されたのが、バイオ・アークルコンバーターをひとつとする各種エネルギー源、また賢者の石の採用なんですよ」

 空たちは以前ピエリーナから聞いたが、賢者の石について知らない者も多いため復習となる。賢者の石は、ひとりが永遠に近い命を得るための超高純度アークル結晶体だがそれを製造するために多くの人間(動物でも可。動物の場合は使い物にならない家畜や薬剤実験動物、人間の場合は奴隷や老体や戦争による四肢欠損者を用いられた)の命を代償とする。その錬成方法は口にするのもはばかられるほど非人道的なものであり、その方法を以ってアークルを抽出し、超圧縮し、結晶体へと錬成するのである。

 ここからが旧サンティーエ帝国陸軍のアームド・アイアンゴーレム(戦闘用ゴーレム)の製造と運用の話となる。

 ところで製薬事業には専門家による動物実験が必要不可欠で、ゴーレムに搭載する賢者の石にはその製薬用動物実験で廃棄処分(安楽死)される寸前の動物たちを起用した。実験動物たちのアークルを抽出して錬成した賢者の石を用いた『エリクシルリアクター』をゴーレムに搭載することで、ゴーレムの自立起動『には』成功した。

 しかしゴーレムはコアにインストールされた行動パターン、そして入力されたコマンドに反し、突如暴れまわった。仕様に存在しない動きを見せ、設備を破壊し、自らを製造した重工業社員を踏み潰し、薙ぎ払い、砲撃し、自らが配備された基地や工場を攻め落とそうとしたパダーノ陸軍、ゴーレムを抑え込もうとしたサンティーエ陸軍のほかの部隊の兵士たちや兵装、すべてを葬り、薙ぎ払った。

 生き残った兵士たちによれば、ゴーレムの所業はまるで獣だったという。四肢で地を這い、咆哮を上げ、噛みつくかのように人や兵装に頭を突っ込み、基地や工場の建屋に上って遠吠えをするなど、それはトラやオオカミのようだったという。

 土くれゴーレム時代から、エネルギーの供給源や疑似的な魂の原材料は生贄だった。それが鉄の体と魔導コアの魂を持ち操縦者を得、その操縦者からアークルを供給されることでアイアンゴーレムは実用化されてきた。それがプログラムとリアクターで動く自立式ゴーレムが開発されるようになってから、そのリアクターに賢者の石を起用するまで時間を要さなかった。『戦争とは人を殺す政治である』。そのための兵器を開発するためなら、実験動物の命すら安いのであろう。

 そしてここから先は、これまでの調査を交えたキングスレイなりの推測なのだが。

「賢者の石は生きた人間や動物からアークルを抽出する技術である以上、そこに犠牲者の記憶や魂と言ったものも同時に取り込まれているのかもしれません。人間が賢者の石を摂取しても正気でいられるのは完成された人格と積み重ねてきた記憶があるからで、犠牲者の魂や記憶に接種者が影響されることはないのでしょう。しかし自我のないゴーレムがそれを摂取したら、疑似的な魂は犠牲者のそれに影響され、犠牲者の記憶がゴーレムの記憶になるのかもしれないと、私は考えています。そしてゴーレムの暴走の理由は、投薬の実験に伴う苦しみやガス処分に対する恐怖、また自分たちにそのような仕打ちをしてきた人間たちに対する怒りと憎しみに由来していることが考えられます」

 聞けば聞くほど気分が悪くなるフォレストたち。だが、これからそのような者たちと戦おうとしているのだ、目を背けることはできない。

 そして話は、これから戦おうとしている者についての言及となる。

「私たちがこれから戦おうとしているのは、『株式会社ボナパルト重工業』。この会社もゴーレムの暴走、多くの犠牲者を出したこと、敗戦に対する責任を取らされている会社のひとつなんですけど、終戦後の同社の事業はあくまで建築業用アイアンゴーレムであり、メイン動力源はパイロットのアークル、サブ動力源として従来のバイオ・アークルコンバーターを手動切り替えで運用可能なものを製造・販売しているようです。また軍用としては国内向けではなくレアガルド、シュトラルラント、パダーノ、アルビオン向けにアークル駆動式小銃またはガトリングガンなどを製造・販売しているようですね」

 すると、空が尋ねた。

「ところで、ガムラン元大将と言いウェイガンさんたちと言いボナパルト重工業と言い、『敗戦の責任を取らされる』って、何から始まり何が求められているんですか?」


 それにはガムランが答えた。

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