第二十九章 白き石と新たなる刺客 ~みんな僕に意地悪なんじゃない!?~
四日後。
冒険者ギルド・エルメスカウンターには、多くのエルフやエヴィルたちが集まっていた。その中に、勇者アルスパーティーのフリューゲル(エルフ)とジョン(サーパスとエヴィルの混血)、クリュー(エヴィルたちの町ハバレーの農家)もいた。
クリューは空に言った。
「いつかのセミオープン以来ね。元気してた?」
「ええ、おかげさまで。今回はご助力いただき、ありがとうございます」
「サンティーエ帝国に殺されたエヴィルも多いから正直気は進まないけど、あなたたちには罪を償うチャンスをもらえた恩があるし、お金がもらえるってならアークル工面だけじゃなくて献血までしてあげなくもないわ。それでトラムロ(立体水田)のみんなでおいしいものたんまり食べるんだだから」
「その意気でよろしくお願いします。トラムロですか。懐かしいですね」
そしてフリューゲルも。
「やっほ、ピエリーナちゃん。元気そうね」
「はいなのです。フリューゲルさんもジョンさんもお元気そうで。でもどうしてアルスさんとリィンさんまで一緒にいるのです?」
アークル提供者に、勇者アルスとその妹リィンまでいる。この兄妹が唯一のサーパスである。
「やあ、ヒナギクちゃん。我がライトアームズ一族はどういうわけかエルフやエヴィル並みにアークルを操る力が強いんだ。だからフリューゲルとジョンがこの話をもらった時、ぜひ僕らもと思ってね。それに戦力にもなる!」
「でも、貴族としての仕事もあるのではないのです!?」
「そこは先代である父に少しの間だけ復帰してもらうことになったんだ。父は面倒くさがりがりなだけで年寄りってほどでもないからね。さて、受付と僕らの配属先はどこかな?」
つまりアルスが若くして当代頭首を名乗っているのは、父にその座を押し付けられたからということだ。ピエリーナは顔も名も知らぬ先代勇者に少し呆れた。
こうしてサンクティス工務店は錬金術が必要な建材の錬成を続けることができ、ほかのホワイトエリクシルを必要とする事業者も事業を再開できるようになった。ただし応募者が必要人数より少ないことで三交代制を二交代制にせざるを得ないところもあり、軍事や保安の戦力に関しては人員が全くいない。軍備に関してはレアガルド王国とシュトラルラント王国が協力することになったのだが、「返すべき借金が増えた」と共和国議会の議員らはついに泣き出したらしい。
さて、アークルの提供者ではなく事件解決のための頭脳担当として赴いた人物がいる。その人物こそアレット……、ではなく。
「キングスレイさん!?」
「うん。久しぶりだね、空さん」
アレットの兄キングスレイ・ドイルであった。
「出た。どう見てもレディーにしか見えない、アレット姉ちゃんの兄ちゃん」
ヴィントがそう言ったその途端、周囲の人々はざわついた。嘘だろ、こんなに別嬪さんなのに男だってかい、と誰もが同じ言葉を口にする。
「出たって、お化けじゃないんだから。妹から話を聞いてね。『冬の間は暇ッスよね? だったら空たちを手伝ってやってほしいッス』だって。別に暇でも何でもないんだけど、エネルギー事情の一大事、そしてカリオストロ協会が絡んでいるかもしれないのなら、協力しないわけにはいかないからね」
ヴィントにそう答えるキングスレイに、再び空が尋ねた。
「大変助かります。しかしどこからカリオストロを追うお考えですか?」
「盗まれたホワイトエリクシルの捜索という名目で車を出してもらえるかな? 詳細はその道中で」
「分かりました。ピエリーナはどうしますか?」
ピエリーナはホワイトエリクシル取扱業者(保安庁エルメス分隊隊員の監視付き)にホワイトエリクシルを詰めた木箱を納品して答えた。
「実は今日から三日間、お城や山の植物たちを休ませる時間を設けるみたいで、その間はホワイトエリクシルの錬成ができないのです。よかったら、空さんとキングスレイさんについていきたいと思うのです。私は荷台でも大丈夫なのです」
「そんなそんな、私が荷台で大丈夫だよ。ピエリーナちゃんが座席に座るといい」
だが、ここでリューンがとんでもないことを言い出した。
「殿下が私の膝に乗れば大丈夫よ。さ、殿下。私の上へ」
「ええええええええええええ!?」
「おやおや、フォレスト殿下は年上の女性に免疫がおありではないご様子ですか?」
「キングスレイ卿、そういう問題じゃないですよね!? どう考えても恥ずかしいですよね!?」
「ええ。私だったら恥ずかしいよりもリューン嬢を体重でつぶしてしまいそうですが、殿下なら大丈夫でしょう。今のうちに甘えておいた方が、将来立派になれるかと」
フォレストとキングスレイのやり取りなどお構いなしに、リューンは後部座席にかけて無理やりフォレストを自分の膝の上に乗せて抱きしめてしまった。こうなっては誰も彼女を止められない。一同は深くため息をついて空の車に乗り込んだ。
「では、今日はわたしが運転します。皆さん、シートベルトは大丈夫ですか?」
ピエリーナが助手席にかけ、ヴィントとキングスレイも後部座席にかける。六人の旅が始まるが、空の車の後ろにはガムランと彼の冒険隊のメンバー四人がかけた車が続く。
「そっ、そうだよ! みんなのうちの誰かがガムランさんの車に乗せてもらえばいいんだよ!」
だがリューンは。
「私は殿下をお守りする義務がございますれば」
ピエリーナは。
「私も道案内役があるのです」
キングスレイは。
「私も臭いのきつい男性の方々と一緒に乗るのはちょっと遠慮させていただきたいですね」
ヴィントは。
「私も同じ意見。それに私は師匠のメイドだから」
「嘘、でしょ……?」
「仕方ありません。帰りは別の方法を何か考えるとして、今はもうこれで出発します。いいですね」
時間は無駄にしたくない。空は問答無用で車を出し、ガムランもそれについてゆく。
「うぅ……。空師匠、あまり揺らさないでくださいね。揺れると、はうっ!?」
『第二のシートベルト』としてリューンに強く抱きしめられたフォレストは、車が揺れるたびに彼女の胸のやわらかさを背中で感じてしまう。健全な少年には耐えがたい魅惑である。
「……ふっ。殿下もやはり」
「ねえリューン!?」
リューンはどこまでも意地悪であった。




