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第二十九章 白き石と新たなる刺客 ~だったら、俺とパーティーを組めばいい。~

 朝を迎えて。

 ヴィントはサンジェルマン伯爵邸の浴室を借り、吐しゃ物がついた衣服は念入りに洗濯し、誰もが軽装の状態。

 朝のスープを口にしながら、フォレストはカファールらを招いて会議を開いた。というよりは、カファールに対する質疑が主である。そしてカファールは答えた。

 ゴキブリ傭兵団の今回の顧客は、先日死亡した使者なる人物。彼の目的はホワイトエリクシルを卸している錬金術師の特定と拉致、それが不可能であればレシピの強奪、錬金術師を護衛している者の抹殺であった。

 カファール及びゴキブリ傭兵団の出自だが、彼らはもともと旧サンティーエ帝国の陸軍の兵士であり、帝国が戦争に敗れた後は無許可営業の傭兵団を組織し商売をしてきたという。給料で働いていた彼らは傭兵の相場が分からず、しばらくは貧乏生活を強いられ、人情に付け込まれて顧客に騙されることも多かったという。陸軍兵時代にも上官に敗戦の責任を取れと言われ奴隷のような扱いを受けたこともあり、そのころからカファールのみならず団員全員が人間不信に陥ってしまった。時には傭兵の仕事以外では盗賊まがいのことをして生き永らえ、その結果『世界で信じられるのは、自然の恵みとカネだけだ』という価値観が固まってしまったようだ。

「けどまあ結果よかったかな。俺らは大地の恵みを殺戮兵器にせずに済んだ。それはいい出会いがもたらしてくれたと思うことにする。人間は嫌ぇだが、お前らのことは信じてやってもいい」

「ありがとうございます。わたしも放浪時代はサンティーエ帝国の敗残兵の槍を借りて生き延びていたので、あなたたちとは多少なりとも縁があるようです。我々でよければ、困った時に相談に乗らせてください」

「ありがてえ。だったらそうだな。俺たちが使者を、そしてカリオストロ協会を裏切ったと知れば連中はどう出るか分からん。しばらくどこかに雲隠れしてえんだが」

「そうですね。少しあなたたちは身なりが上品ではないので、リゾートで働いていただくことも村の開拓要因として雇うことも難しいですね。やはりここは、まずレアガルドの冒険者として頑張っていただき、あなたたちの身なりが整えば改めて何らかの契約など」

 その時、ガムランが口をはさんだ。

「だったら、俺とパーティーを組めばいい」

「えっ?」

「名乗り遅れたが、俺はマティス・ガムラン。今は冒険者だが、その前はサンティーエ帝国の陸軍大将として敗戦の責任を取らされる裁判にかけられるところだった。お前らが帝国陸軍兵だったってなら、俺の元部下ということでもある。だから元上官として要請する。命令ではないし強制もしないが、俺と共に来い。ゴキブリ傭兵団なんて名前なんぞ捨てちまって、『ガムラン冒険隊』としてイチからやり直そうじゃないか」

「いいのかよ。いや、構わないのですか、大将!?」

 カファールは突然、それまでのごろつきのような荒々しい態度と口調から兵士のキビキビとしたものになった。

「元大将だ、ガムランでいい。敬礼も不要だ」

「でっ、ですが!」

「ならば隊長と呼べ。そうだな。お前は今日から『ジム・ウェイガン』とでも名乗るがいい。我が右腕として隊を率いよ、ウェイガン副団長」

 ガムランはカファールに救いの手を差し伸べた。

 そんなガムランに、『カファール改めウェイガン』は深く深く頭を下げて答えた。

「マティス・ガムラン隊長。このジム・ウェイガン、その御恩に報いるべく力を尽くすことをここに誓います!」

「期待している。さて錬金術師サンジェルマン伯爵、開拓プロジェクトリーダーのフォレスト王子?」

 会議の指揮権がフォレストに戻ったところで、フォレストはサンジェルマンに尋ねた。

「昨日から今日にかけて、新しいホワイトエリクシルの結晶は形になりました。しかし使者に盗まれた量には到底及ばず、現在錬成できているものを納品してもホワイトエリクシルを必要としている公共・民間事業に配布しても状況は『焼け石に水』。ほかの冒険者さんが奪還に成功してくれれば万事解決ですが、そうならなかった時のために僕たちはここでホワイトエリクシルを量産し続けなければなりません。しかしリアクターの生産量が需要に追いつくことはない。この状況を打開する方法は、何かないでしょうか?」

「そうだねえ。医療現場には優先して回さなきゃいけないことは明白。最初から備えのある陸海軍は最後にしよう。あとはきみたちがお世話になったというサンクティス工務店をひとつとする民間事業に対しては、ホワイトエリクシルがなくてもできる商売を考えてもらうか、自分たちのアークルで賄ってもらうしかないね。非道徳的な方法を使うとしたら、かなり昔前までの倫理観だったら奴隷にしていたエルフやエヴィルに不眠不休でアークルを提供さしてもらうとかね」

「確かにそれは非道徳的ですね。エルフやエヴィルにだって人権と眠る権利があります」

「けど、ここまで言っておいてなんだけど……、エルフとエヴィルを最低三人雇い、八時間三交代制でリアクターを動かしてもらうのはどうかな。彼らへのギャラは議会から出してもらうしかないかなあ」

「分かりました、それでいきましょう。アークル供給要因の手配は僕が」

 そこに、ウェイガンが手を挙げた。

「言い忘れていた、俺も錬金術師だ。帝国陸軍では爆薬や各種ポーション、あとは軍用ウェアの強化なんかもしていた。錬金術師として手伝えることがあったら何でも言ってくれ。仲間たちにはここにいてもらって、各種雑用とアークルの提供を任されたい」

 それにはサンジェルマンが答えた。

「そうだったのかい!? それは助かるよ。頼りにしてる!」

「ああ。というわけで申し訳ございませんがガムラン隊長。あなたの右腕として働かせていただくのはしばらく後でお願いします」

「ああ。なすべきことをしっかりなせ。俺はお前たちと合流できる時を待っている」

 そして今度は、フォレストはピエリーナを見やった。

「ピエリーナさん。引き続きホワイトエリクシルの錬成の補助作業をお願いします。ガムランさん、リューンと一緒に僕の護衛をお願いできますか? 冒険者ギルドに行き、僕の知り合いに連絡を取りたいと思いまして」

「王子様のお望みとあらば、御意のままにってなあ。さて? 車は旧傭兵団のものを借りていきたいが、いいか?」

 そう尋ねるガムランに、ウェイガンは答えた。

「我々の装備はもう、あなたのものです。存分にお使いください。なあお前ら?」

 ヴェイガンの言葉に、隊員たちもその通りですと口々に言った。

「ではガムランさん!」

「ああ、フォレスト殿下の連れは車に乗りな!」

 そしてフォレストは一同に言った。

「それでは一度、臨時会議を閉会します。皆さん、それぞれの場所でのご健闘を!」

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