第二十九章 白き石と新たなる刺客 ~襲撃者カファール、迎え撃ちます!~
そう。空、ピエリーナ、リューン、ガムランは、それぞれの武器である槍、二挺拳銃、投擲用ナイフ、アパッチガンを装備していた。ヴィントとフォレストは何もないが、師匠たちの行動に驚く様子はない。
「ちょっ、ちょっと……? 冗談はよしてくれよ?」
サンジェルマンには、ガムランが答えた。
「残念ながら冗談などではない。サンジェルマン伯爵……、我々はきみを囮に使ってしまったことを先に謝罪する。正式な侘びは、我々を追ってきたバカどもを蹴散らした後だ」
「え? おっ、囮? 追ってきたバカども?」
その途端、ラボの中に武装した多くの男たちが雪崩れ込んできた。六人は静かに一団をにらみつけるが、武装した集団は銃を構えた途端に……。
「錬金術、『催眠毒霧』」
バタバタと倒れていってしまった。
ピエリーナは開封済みのビンをまだ倒れないガスマスクの男に見せつけた(男はガスマスクを急いで装備したようで、後頭部のストラップに手を当てている)。
「吸い込んだ人をたちまち眠らせてしまう睡眠誘導薬なのです。ちなみに無効化薬(解毒薬)はあらかじめ飲んでおいたのです。サンジェルマン伯爵の水筒にも、実はこっそり」
「……やるな、錬金術師の娘。それに我々が後をつけてきたことを見抜くとは、さすがは歴戦の冒険者たちだ」
「あのー!? この状況説明してもらえるかい!?」
展開が急すぎる。さすがに状況がつかめないサンジェルマンに、軽めに構えを解いた空が説明した。
「では確認がてら説明します。せっかくサンジェルマン伯爵が錬成し問屋に卸したホワイトエリクシルは、おそらく彼ら、あるいはその関係者によって盗み出されました。そしてサンジェルマン伯爵は冒険者ギルドにこの状況を打開するための策を求めにギルド庁舎に赴いたんです。
国家プロジェクトであるからには生じた大きな損失を早急に埋めなければならない。情報漏洩対策もろくにせず『押っ取り刀』もいいところの無防備状態で助力を求めたサンジェルマン伯爵はもはや隙だらけ。そこを狙い、我々のあとをつけてきたのでしょう。
彼らの目的はふたつ。①:更なるホワイトエリクシルの強奪と、②:それを錬成できるサンジェルマン伯爵ないしホワイトエリクシルのレシピ。……と、アレットなら推理するだろうとわたしなりに考えました。いかがですか、ガスマスクの元軍人さん?」
「ほう。そこまで見抜くか、槍使いの陸士。然様。我はサンティーエ帝国陸軍に所属していた者。そうだな、『ゴキブリ』とでも呼んでもらおうか」
そして、カファールと名乗ったガスマスクの男は両手にタクティカルナイフを構え『レアガルド古式硬拳/サンティーエ獣王硬拳』の構えを取った。そんな彼に、空はなお問う。
「倒す前に最後の質問です。あなたのそばに、『カリオストロの名を持つ者』はいらっしゃいますか?」
「その答えは、我を倒して求めよ」
「ではこちらも容赦しません。……仁義礼智と信の字胸に、誇る力は活人が為に。武の道行く我、地鳴らす一歩は天の采配のもとにあり。サンティーエを脅かす者、何人たりとて許さずとお心得ください!」
その時、城の窓ガラスを割って侵入する一団が現れた。サンジェルマンは動揺するが、その一団をピエリーナは二挺拳銃によるアークルバレットで、リューンは投擲ナイフで、ヴィントは騎士爵の証であるナイフでの太陽光反射で、ガルマンはアパッチガンに装填された銃弾で彼らを討つ。毒の霧を警戒してか空中にとどまり銃を構えるも、もはやミノムシのように宙づりになってしまった。空とカファールの一騎打ちを邪魔する者は誰もいない。
「きみら、マジで誰だい……?」
「へっ! 師匠のもとに集まった戦士たちだ。私たちに楯突こうなんて『10年早いんだよ!』」
言いながら、ヴィントも窓から侵入してきた一団の生き残りに崩れた壁の破片を投げつけて黙らせた。遠距離戦においてもヴィントも戦えるようになってきている。
「見事です、ヴィント」
「へっへーん! ありがと、師匠!」
カファールは言った。
「では、仕切り直しと行こう」
「ええ。セリフを取られました」
「サンティーエ獣王硬拳、『長剣鋭突』!」
「六合大槍、『欄(外払い)』、『拿(内払い)』!」
カファールは左手で投げた長剣を空に掃わせ、生じた隙に肉薄するも空は槍の石突でカファールの右手の剣をはじく。長剣鋭突。硬突の兵器術のようだ。
「やるな」
「またしてもセリフを取られました。あなたにとってこの状況は、多勢に無勢、孤軍奮闘。降参していただければ嬉しいのですが」
「武人の誇りだ、それはできん。言ったはずだ、欲する答えは我を倒して求めよと」
「そうでした。ではこちらも、一切の情けを捨てます。六合大槍、『扎(突き)』!」
そして空とカファールは再び激突する。
槍と長剣の衝突の中、カファールは腰からレイピアを抜いて左手でも攻撃を仕掛ける。しかもそのレイピアはスイッチひとつで柄の中の軸が伸び、長剣として使える業物であった。
「『長剣鋭角』!」
「硬角のダブルソードバージョンというわけですか!」
それは突進する闘牛の角のように、両手の拳(剣の切っ先)を繰り出す技である。空は後退するかカファールの側面に出るしかない。しかし後退すれば更なる進撃もしくは剣の投擲が考えられ、側面に出ればエルボーか横薙ぎが繰り出されることも考えられる。
――回避などたやすいこと。しかし回避ばかりしていては決着がつきません。それにこれ以上、弟子にみっともないところは見せられませんからね。ならば。
そこで空が取った行動は。
「てい!」
地面に槍を突き立てて後退。カファールの直進を遮り、彼が突き立てた槍を回避する行動こそ反撃のチャンス。空はカファールが初手に投げた剣の剣身を踏みつけることで空中に舞い上げ、空中でグリップをつかんでカファールにかかった。
「『箭疾歩』、『冲推』!」
空はストレートを繰り出すが、カファールは左手のレイピアで受け止める。
「とった! 『鋭牙』!」
右手の剣を突き刺そうとするカファールだが、空は一歩進んで、カファールが剣を握る手を左手刀で振り払う。そして同時に、空は右手の剣を手放した。
――なっ!? ここで武器を手放すだと!?
――懐に入ればこちらのものです。八極拳『絶招』!
とどめだ。
「『猛虎硬爬山』!」
虎の手の形をした掌が、カファールのみぞおちに深く深く突き刺さる。
八極拳の必殺技をもろに受けたカファールはひどくうめいて吹っ飛んでしまう。背から落ちたカファールによってラボ(ホール)の床に生い茂る草花はつぶされ、カファールが地を擦った跡が色濃く刻まれた。
「ぶへぁ……! おっ、恐ろしき技、恐ろしき力。見事なり、八極拳……!」
カファールはガスマスクを外して投げ捨てた。さらされた素顔は、長く戦いに生きてきたことを示す荒々しいもの。そして口からは血を吐いており、八極拳の一撃の威力を示していた。
「どういたしまして。では、今度は血ではなくあなた方の身元や目的を吐いていただきましょうか」




