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第二十九章 白き石と新たなる刺客 ~ここがサンジェルマン伯爵のお住まいですか? 廃墟としか思えません!~

 サンジェルマン伯爵邸。

 ヘルメスの北方にある山腹にあり、もともとは貴族もしくは地域一帯の領主が住んでいたであろう城には、長い年月を経てすっかり花園と化し、人がまともに住める状態ではない。

 石畳の道を車で進めば、サンジェルマンは「まあ適当な場所に停めてよ」と自らの蒸気駆動車を雑に停めてフライシートをかける。空もサンジェルマンの車の右後ろにつけてデッドデザートの入り口で買ったタープをかける。

「それにしても、すごい庭園ですね……!」

「そうかい? 植物たちにただ伸び伸びと育ってもらっているだけだよ。ボクら人間の勝手な都合でね」

 そう、城の内外で生息している植物たちは皆、そのアークルをホワイトエリクシルの材料にされているのだ。空たちには分からないがピエリーナには見えている。城のあちこちに、レッドフォート州五区砦のアークル収集魔術式に酷似した意匠が刻まれた魔導クリスタルコアが設置されているのが。

「お? きみには見えたかい? でもここだけじゃないんだなぁ。この山の一帯に同じような式を用意していてね。ついでに言うと城の中は入場料取って観覧してもらえるような植物園になってるんだ」

「それはすごいのです……。一体何年かけたらそんなことができるのです?」

「5年しかかけてないけど、人は大量に集めたかな~。と言っても、プロジェクトを推し進める共和国議会議員の若手たちばっかりだけど、雇うより安いと言うか無料で人を動かせるんだよ。何せ国家プロジェクトなんだから議会に協力してもらわないと」

「なるほどなので……、す?」

 それで納得していいわけではない。

 国家プロジェクトと言うのは議会議員がするのではなく民間の事業者に発注して行うものだ。予算を削減するためには民間事業者の協力を減らすのもひとつの考え方かもしれないが、サンジェルマンが取った方法は通常の手段ではない。

「さあ来てくれ。ボクが開発したホワイトエリクシル錬成専用リアクターをご覧いただこう!」


 サンジェルマン伯爵邸内部は、柱とわずかな床だけを残してほとんどが取り払われ、南側の屋根はすべてガラス張り、あるいは壁すら存在しない。一階から最上階、見張りのやぐらに至るまで、書斎以外のすべての床は植物のもの。植物が育つためなら太陽の光も雨風さえも喜んで招き入れる構造となっており、サンジェルマンが住んでいなければ廃墟も同然だ。

 だが、それも書斎以外。それを指して、サンジェルマンは言う。

「書斎は乙女の秘密のフィールドだ、覗かないでくれ。もっとも鍵が三重に施されているから、『大泥棒エミール・ルピナス』でもこじ開けることは不可能だよ」

「ちなみにこじ開けようとしたら、どうなるのです?」

「手が腐れ落ちるトラップが発動する。その手は賢者の石のかけらになるだろうね」

「やめておくのです!」

「賢明だ、さすが同胞。さて見えたよ。ここがラボ、そしてあれがリアクターだ」

 もはやジャングルの城の中央、かつては晩餐会などが開かれていたであろうホールに、様々な機械と巨大なガラス製の炉が鎮座していた。透明なリアクター内部にはマリオネットを操るような木の棒と糸が吊り下げられており、糸の先には白い結晶が輝いていた。

「やっぱりなのです。サンジェルマン伯爵の話の途中からもしかしてと思っていたのですけれど、私たちがサンクティス工務店に訪れた時にリアクターのそばにあったたくさんの白い石、あれこそあの結晶なのです!」

「そう言えば。思い出しました、ピエリーナ」

 ホワイトエリクシルはアタノールリアクターに使う。それがなくなればサンクティス工務店が困る。そして空たちが最初にサンクティス工務店に訪れた際に目にしたもの。自分たちは、すでにこのホワイトエリクシルを見ていたのである。

「いい感じに育ってるね。ガムランさんは今から回収するこのエリクシルを冒険者ギルドで待つ問屋に届けてくれるかい? その後、新しい『フィラメント』をセットするから、きみたちもそれを手伝ってくれ。あとは錬金術師の領分だ。マルゲリータ卿より秘密の漏洩禁止に関する書類にサインをもらえたら、ボクの研究資料を貸与するのでそれをもとに……、って、ねえ? どうしてみんなは武器を構えているのかな? ひょっとして最初からボクを捕獲するのが狙いだったりするのかな?」

 そう。空、ピエリーナ、リューン、ガムランは、それぞれの武器である槍、二挺拳銃、投擲用ナイフ、『アパッチガン(ナックル・ナイフ・銃の三要素を持つ携行兵器)』を装備していた。ヴィントとフォレストは何もないが、師匠たちの行動に驚く様子はない。

「ちょっ、ちょっと……? 冗談はよしてくれよ?」

 サンジェルマンには、ガムランが答えた。


「残念ながら冗談などではない」

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