第二十八章 双方の決闘 ~盗んだモートルライトじゃ走れない~♪ のです!~
旧庁舎の解体も無事に終わり、雪が降り始めるころ。
冒険者ギルド・エルメスカウンター。
庁舎では冒険者たちがクエストはないかと掲示板に群がり、カルパッチョら新庁舎建設と旧庁舎解体に携わった者たちは打ち上げを開く。そしてこの日、ガムランはフォレストと初対面した。
「初めまして、フォレスト・レアガルドと申します。あなたのお噂はかねがね」
「マティス・ガムランだ。会えて光栄だ、フォレスト王子。聞いたぜ、空に武術を習い、その力で知事んとこのクソガキをノシたんだってな。大したもんだ!」
「それもこれも、空師匠や僕を応援してくださる方々のおかげです」
空、ピエリーナ、ガムランはこの日も三人で町の巡回。この日からは雪かきも冒険者仕事に追加され、フォレストとヴィントとリューンも同行することにした。巡回しながらフォレストは尋ねる。
「ところで、近頃は盗賊とかはどのくらい出るのでしょうか?」
「そうだなあ。雪が降る前だったら、多い時に一日に三件くらいは窃盗や強盗とかの事件があったかな。警備が整った都市に、盗んだモートルラートで走ってくるバカは少ない。盗賊よりも都内の貧乏男爵家や平民が、生きるために食料と燃料を盗むくらいなもんだ。あるいはまともに生きてたんじゃ生きていけないからってわざと事件を起こしてワンシーズン刑務所で過ごしたいって連中もいる。そう言う知恵は回してほしくないものだが、サンティーエの現状考えるとなぁ」
「そうですか。貴族も平民も関係なく誰もが豊かに暮らせればいいんですけど。まあそれは我が国も同様ですが」
「お互い大変だな。まあ知恵出し合っていこうや。会議は昼飯時、いつもの喫茶店でどうだ?」
「おすすめがおありなんですね。楽しみにしています」
ところで、錬金術師であるピエリーナはサンクティス工務店の設備を借りて『融雪剤』を作り、巡回のついでにそれを貴族の家に売り歩いてもいる。便利なものがあるものだとガムランはうなるが、ピエリーナは融雪剤のデメリットを説明する。
「融雪剤は錬金術を用いなくても、塩や砂糖をベースに簡単に作れるのです。その反面、塩は自然や建造物へのダメージが大きいのです。錬金術由来の融雪剤は環境へのダメージが少ない一方、砂糖と術師のアークルを使う分お高いのです。融雪剤は道路などどうしても雪があったら困るところに必要なだけ撒いて、あとはお金持ちさんのご機嫌を取るくらいがちょうどいいのです」
「でも雪があっちゃいろいろ困るだろ」
「確かに困ることも多いのです。でもそう言う自然現象やそれがもたらす災害とうまく付き合っていくことも必要だと思うのです。例えば、日ごろから防災意識を持っておけば身を守るくらいはできるのです。それに雪があったらもっと楽しいのです」
「どゆこった?」
ピエリーナは雪が積もっているところを見つけると、その雪を押し固めて穴を掘った。
「ストーブなのです」
「は? 雪の穴がストーブだって? バカ言うなよ」
「ふっふーん。それができちゃうのです」
ピエリーナは横穴と縦穴をL字になるように掘り、縦穴に火をつけた木の枝やその燃えやすいものを入れ、穴の上にクッカーを置いてソーセージをゆでてしまった。
「ほほー。こりゃえらいもんだ。何で雪は溶けないもんだかな?」
「表面が加熱されても奥の雪が熱を奪い続けている、って考えられるのです。雪は意外とそう簡単に溶けないものなのです。他には雪像やかまくらを作ったり、そこを防災シェルターや子どもの隠れ家にしたりすることもできるのです。かまくらはヤマトでは神事に使うための即席教会みたいなものだって、ひまりさんから聞いたことがあるのです」
「へぇ~、いろんなもん知ってるんだなぁ錬金術師は。ん、勉強になった。雪も意外と悪くねえ。だが後で融雪剤を1パック譲ってくれ。駐車場や石畳とか、家でどうしても雪があったら困るところがあるからな」
「はいなのです。それでは巡回再開なのです、って?」
ピエリーナによる雪ストーブに多くの人が群がり、暖を取りながら「私にも茹でソーセージちょうだいな」とたかってきた。食い意地は誰にも負けない空もさすがにサンティーエの現状を考え、おやつとして持っていた残りのソーセージも群がる人々に分け与えた。
「それでは私たちは巡回に戻るのです。皆さん、ストーブはご自由にお使いくださいなのです~!」
そして、ガムランのおすすめであり、何度も空とピエリーナも連れてきた喫茶店。
店名を『アルカンシェル』。サンティーエ語で虹と言う意味である。そして店の内装も色とりどりだが、淡いペールカラーで統一している(色調が濃いビビッドカラーは圧があるからだ)。コーヒーを飲みながら、一同は談笑する。
「……まぁ、そうだわな。そろそろお前さんらは帰っちまうんだよな。出会ったばかりなのに寂しくなるなぁ」
そう言うガムランに、フォレストは申し訳なさそうに答える。
「はい。サンクティス工務店さんの仕事である旧庁舎解体も終わってしまいましたし、盗賊頻発ラッシュが落ち着いたら僕たちは帰国させていただきます。でもフォーマメント州はレアガルドの東側にあるので、いつでもいらしてください。ガムランさんならいつでも歓迎します。ね、空師匠?」
「はい。いつでもおもてなしいたします」
「そうか。リゾート経営もしているんだったな。そりゃ逆に早く帰らなきゃ、お仲間に苦労させるばかりだ。そのお仲間に会いに行ける日が楽しみだぜ」
そこに、ヴィントが口をはさんだ。
「でもその盗賊頻発ラッシュっていつまで続くのさ? 盗賊なんて年がら年中湧いて出るのに、その線引きとかしとかなきゃ、いつまで経っても帰れないじゃんか」
「おいおい、賊どもを虫みたいに言うなよ、喫茶店で」
ヴィントの疑問にはピエリーナが返した。
「あいまいだった『冬季限定』と言うフレーズを明確にして、何が何でも12月27日まで、落ち着いたらいつでも帰ってもらって構わない、と言う契約なのです。私たちも年明けは自領で過ごしたいのですし、めでたい時くらい盗賊もおとなしくしてくれるだろうと言うギルドの考えもあるのです。事実、盗賊は主に冬越しの食料を大量略奪するので、年の終わりになると少しずつ減ってくると言うデータもあるのです。それに雪が深くなると身動きも取れなくなるのです」
「そっかぁ。って、身動きが取れなくなるのは私たちも一緒じゃんか。帰れるのかよ、ピエリーナお姉ちゃん?」
「鉄道を使えば大丈夫なのでーす」
「そっか、それがあった!」
すると、ギルドの受付嬢が荒々しく喫茶店アルカンシェルのドアを開け放ち、声を張り上げて喫茶店内の冒険者たちに言った。
「すみませーん! この中に錬金術師はいらっしゃいますかー!? 繰り返しまーす、錬金術師はいらっしゃいますかー!?」
何事だろうか。受付嬢はクエストが書き込まれた発注書を手にしている。だがピエリーナ以外、我こそは錬金術師と名乗り出る冒険者はいない。
「私がそうなのです」
「あぁ、マルゲリータ様! よかった。実は緊急の依頼があるんですけど、受けてくださいませんか? それにガムラン様! 皆様お揃いで!」
「何かあったのです?」
「ええ。実は『ホワイトエリクシル』が大量に盗まれると言う事件がありまして、戦闘要員にはその奪還を、奪還できなかった場合に備えて錬金術師の増員をお願いしているところだったんです。クエストを受けてくださるなら、今すぐお願いしたいのですが!」




