第二十八章 双方の決闘 ~八極拳コンボ技、受けてみなよ!~
決闘、試合続行。
再びアッカーからつかみかかってきた。
「サンティーエ獣王硬拳、『硬角』!」
左右の拳の同時攻撃。フォレストが反三才歩でわきに出れば、今度はエルボーが襲ってくる。攻防一体、連携可能攻撃。以前、空も味わっている。
――横にエルボーを出されちゃ、八極拳の『斧刃脚』も届きにくい。もっと接近しなきゃ。でもどうやって?
戦いは鍛錬だけでは決まらない。その場に応じた戦略を自分で考えなければならない。敵からは遠く自分からは近く、その立ち位置を見つけなければ勝機は得られない。
だがそれでも、アッカーは闘牛のような猛々しい戦法でフォレストにつかみかかる。その間にもフォレストは一本取られてしまった。
――大丈夫。僕は戦える。戦えるんだ!
自分の方こそ爵位が上と信じて疑わないアッカー。さらに一本取った事実に、彼は不敵な笑みを浮かべた。
「降参するなら認めてやるぞ。その代わり、お前は俺の奴隷な?」
「……ああ、いいよ」
フォレストは拳を構えた。
「アッカー・クレベルト、だっけ。それ本気で言ってるなら僕も相応の態度で臨ませてもらうよ。そして僕がきみに負けるなんてことはない。僕には見えた」
「何がだよ」
「……僕の、勝ちを」
それは確信か挑発か?
どう見ても貴族ですらない、どう見ても小柄でひ弱な少年が、サンティーエの国の名を持つ武術使いの貴族を相手に勝利を宣言した。その事実にアッカーは憤慨した。
「舐め腐ってんじゃねえぞ、このモヤシがあぁぁぁぁ!」
「もう、モヤシなんて」
飛んできた『硬突』。
それをフォレストは静かに回避し、アッカーに背を向けた。
「え!?」
「……呼ばせない」
通常、戦いにおいて自らの背を敵に見せるものではない。
だが、それが八極拳の技である。
「八極拳、『鉄山靠』!」
背中に自分の全体重と勁力を預けて繰り出す体当たり。それは見事にアッカーを吹っ飛ばすことに成功した。
「でぁ!?」
「とどめ」
フォレストは身をひるがえして一気にアッカーに接近する。そして繰り出した技はヴィントが生み出し空が昇華させたもの。ヴィントが空から教わった、『地球が持つ力(重力と嵐の法則)』を最大限に引き出す技である。
「八極拳、『超重旋回ダウンフォース・斬馬刃』!」
強くひねった胴と腕を元に戻す動作で重力と遠心力が充分に乗った、馬をも殺す右手刀がアッカーの右肩に直撃。アッカーは叫びにならない叫びをあげ、その場に倒れた。
「よっと!」
半歩引いて構えを取ったフォレストは、しりもちをついて立ち上がれないアッカーを見下ろす。そしてアッカーは、またしても反論した。
「また卑怯な技を! 無効だ無効!」
「無効でいいよ。でも、その右手で戦えるの?」
「はぁ?」
アッカーは立ち上がろうとする。だが右腕が全く動かない。それどころか痙攣し、アッカー自身を支えることもできない。左手を支えに何とか立ち上がるが、右腕は拳を構えることもしない。
「どうしたのさ。かかってきなよ。かかってこないなら、誰の目から見ても卑怯じゃないストレートパンチできみを下すよ」
「うっ、うるさい! お前なんか、父さんに頼んで、侯爵家に対する侮辱と暴行の罪に問ってもらう! お前なんか一生監獄暮らしだ!」
「へー……? じゃあ、もういいや」
フォレストはリューンを見やり、リューンはメイド服の中からあるものを取り出した。
それは、金色のチェーンを通した大人用の指輪。それはやがて指に通して掲げるフォレスト専用の指輪である。フォレストはチェーンを首に通し、指輪に刻まれた紋章を見せつけた。
「僕の名前はフォレスト・レアガルド。レアガルド王国第一王子だ。きみをレアガルド王家に対する侮辱の罪に問う。隣国の王子に無礼を働いたんだ、自国の主(共和国首相)に対するそれよりもはるかに罪は重いって覚悟してよね」
「……は? このモヤシが? 王子?」
フォレストの正体を知らない通りすがりのやじ馬は驚くが、解体事業に携わる者は知っており、うんうんと頷いた。そしてリューンも。
「我が愛すべき殿下に対する横暴の数々、お家取り潰しとボクチャンの死を持って償ってちょうだいねえ?」
「死罪すか!?」
「まあ本当に命は取らないけど、そのくらい覚悟してもらわなきゃあ、ね?」
途端、アッカーは白目を剥いて泡を吹いて失禁して倒れた。
そして、鼻血に始まりアッカーの拳を受け続けてぼろぼろのフォレストに、ヴィントが歩み寄った。
「カッコよかったじゃん。もうモヤシ王子なんて呼べないな、フォレスト」
「ヴィント……。うん。嵐でも折れない大木に、僕はなるさ」
そして、アッカーにいじめられていた学生ジャン・エフォルも。
「レアガルドの王子様、それに小さなメイドさん。ボクを助けてくれてありがとう。飛び蹴りは大迫力だったし、八極拳って武術もかっこいいね!」
「おうよ! どってことないさ! な、フォレスト?」
「うん。困ったことがあったらいつでも来てよ。僕たちはしばらくここでお世話になってるからさ。僕たちが帰った後でも、城に手紙を送ってよ」




