第二十八章 双方の決闘 ~さすがに許せないよ!~
「てめーの横暴をうらめ!」
アッカーの頭に蹴りを入れた人物がいた。
「八極拳、『旋風脚』!」
「べぎゃ!?」
アッカーは取り巻きの少年たちを割って地面を転がる。一体何が起こったのか分からない様子のアッカー、少年たち、そしてジャン。一同が振り返ると、そこにはシュトラルラント王国の女児服とエプロンを着た少女が、ちょうど舞い降りたところだった。
「づづづづ……。って、おい! お前誰だよ!? 見たところ、そこの皿洗いの貧乏給仕人なんだろうがよ!」
「へん。私にはヴィント・フォン・リヒトホーフェンって立派な名前があるんだ。お前がどこの誰かはさておき、弱い者いじめは見逃せないなあ!」
「は? 俺が? 弱い者いじめ? あんだよそれ?」
「何だよはないっての。そのかばん、そっちの子のだろ? さっさと返せよ。さもなきゃ今度は『ぜっしょー』食らわす!」
そして、ヴィントは八極拳の構えを取った。
そんなヴィントに、アッカーはジャンのカバンを取り巻きに預けてつかみかかった。
「下民がデカい顔してんじゃねえ! サンティーエ獣王硬拳、『硬額』!」
「いやな思い出!?」
硬額。ヴィントの初の決闘相手である陳拳王が繰り出した技で、それはヴィントの胸を揉んだことで彼女の怒りを買っている。
「だったらリベンジだ!」
ヴィントは硬額に反撃する技を繰り出そうとするのだが。
「ぶぇ」
何と、アッカーとヴィントの間にフォレストが割って入っていたのである。
それも、硬額(掌底一撃)を顔面で受けていた。
「……はぁ?」
「ちょっ、モヤシ王子!?」
ヴィントをかばい、彼女ごとノックバックされたフォレスト。アッカーが右手を引けば、フォレストの鼻の穴からは血が流れ落ちていた。
「大丈夫、ヴィント!?」
「お? おっ、おぉ……。ひでえ顔……」
思わぬ援軍に動揺するヴィント。そしてリューンがフォレストに追い付き、ハンカチを彼の鼻にあてがう。
「申し訳ございません。私の不手際で!」
「いいよ、リューン。空師匠から教わった『箭疾歩』のおかげでヴィントを守れたんだ。それよりお前!」
フォレストは左手首で鼻血を拭いながら、アッカーに言った。
「見てたよ、全部。弱い者いじめのみならず、女の子に食ってかかろうとしたその行い、許すことはできない。よって決闘を申し込む。この国の作法は知らないが、応じるのならばこれを拾え!」
フォレストは自らのジャケットを脱いでアッカーの前に叩きつけた。
「拾えだと? この俺に、腰を曲げろって言いたいのか?」
「悪いけどそれが僕の国の作法だからね。何だったら口約束でも構わない、僕からの決闘の意を受理するか否か、大声でこの場にいる全員に宣言しろ! じゃなかったら、そのかばんを置いて帰れ!」
「……バカ言うなよ、この貧乏人ごときが」
かくして、フォレストとアッカーの決闘が決まってしまった。
「マジかよモヤシ王子……!?」
冒険者ギルド・エルメスカウンター旧庁舎解体現場前。
解体作業休憩時間。
ジャケットを脱いだままのフォレストと大学附属中学校の制服である詰襟を脱ぎ捨てたアッカーは互いに見合う。そして決闘の立会人は。
「私め、不肖サンクティス工務店店長カルパッチョ・デ・サンクティスが務めさせていただきます。ルールは単純明快。飛び道具なし目潰しなし、正々堂々たる戦いを以って3ポイント先取した者を勝者といたします。が……」
カルパッチョが言葉にできないその続きに、フォレストは静かにうなずいた。
――はい、承知の上です。
カルパッチョは爵位を持たない。対し、アッカーは爵位を持っている。
爵位がモノを言うこのご時世、決闘の立会人の審判など簡単に覆せる。だからこそ、明確な実力差を周囲に知らしめねばならない。そのためにフォレストに求められるのは、誰もが納得する勝利である。
だがフォレストを解体仕事の給仕人の少年としか見ていないアッカーは余裕の意地汚い笑みを浮かべる。
「では、私めの審判に不服無しと意を決したならば、互いの拳をお向けください。……決闘、開始!」
カルパッチョが手刀を振り上げた直後、アッカーはフォレストにつかみかかった。
「サンティーエ獣王硬拳!」
「八極拳!」
闘牛のようなバトルスタイルでアッカーは突進し、そんな彼をフォレストは静かに迎え撃つ。
「『硬突』!」
「『反三才歩』、『外門頂肘』!」
フォレストは見え透いたストレートパンチを回避し、アッカーの右に出て左エルボーを繰り出す。だがさすがにアッカーも危険を察知したようで、ストレートパンチを引いて肘でフォレストの攻撃を防いだ。
「づっ!? ……へっ、へー。なかなかやるじゃないか。だが地味だな。どこの田舎武術だ?」
「八極拳を地味って笑ったの? さすがに許せないよ。ヴィントのためだけじゃない、空師匠のためにも負けられなくなった!」
そして両者、技を繰り出す。
アッカーも貴族だけあってそれなりに武術の鍛錬を積んでいる様子。一撃の重さが半端ではない。だが空に八極拳を教わっていたフォレストも決して負けてはいない。フィジカルにおいて若干劣るフォレストは、細密な足運びと確かな判断能力、敵の攻撃力を受け流す技の正確さが求められ、それは全て空の教え通りだ。
「『高掲硬蹄』!」
「『左踵脚』!」
ともに繰り出すハイキック。それは互いの目の前で衝突する。
両者着地。と同時に、フォレストは一歩進みつつ更なる攻撃に出た。
「『背砸』!」
「ぶぇ!?」
技としては裏拳。それは見事にアッカーの鼻に直撃。誰の目から見ても明確な一撃が入った。
「一本!」
審判であるカルパッチョが手刀を上げるが、それにアッカーは反論した。
「なしだ!」
「はい?」
「裏拳はないだろう。卑怯な技だ」
「しっ、しかしそれもまた武術の戦法にございます。卑怯ではありま」
「いいや卑怯な技だ。取り消せ! 我が家の爵位を以って命じる!」
「決闘に爵位は」
「だったらお前の家を取り潰させてもらう。名前は? 職業は? 言ってみろよ」
「ぐっ……」
相手が州知事の息子では、さすがにこれ以上強く出られない。カルパッチョは上げた手刀を引いた。決闘を見ていた民衆は「お前の方が卑怯だ!」と声を上げるが、とは言え相手が相手だ、反撃もフォレストの加勢もできない。
「だったら」
フォレストは再び拳を構えた。
「いくらだって叩きつけてやるだけだよ」




